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初投稿になります。長編小説になると思いますが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。
――哀れで愛しい、精霊の愛し子よ。我らは其を歓迎しよう。ようこそ、不可侵なる聖域へ。
――その苦しみ、悲しみ、憎しみさえも、我らが消し去ってみせよう。我らが許へ、我らと共に来い。永久なる楽園へ。
幾重にも響き渡る歓迎の旋律が、その空間を震わせていた。
音は重なり合い、それぞれを調和し合いながらも、浮き上がるのは厳かで優しい一つの音色。頭に響く美しい旋律。
耳障りというわけではなく、むしろ心地よさから眠気を誘う子守唄のように耳に馴染む。それらはすべて、膝をつき頭を垂れている青年に向けられたものだ。
緑柱石の結晶で造られた壮美な空間。その上段に佇立して沈黙を守っていた人物が一歩前に進み出れば、夢から覚めるように声がかき消された。刹那の夢のごとく余韻を残すこともなく。
「そう畏まる必要はない。面を上げよ」
青年はその言葉に従い、顔を上げる。
その人物は白皙の美貌の持ち主だった。艶やかな長い髪は月光を連想させ、長い睫毛に彩られた双眸はブルートパーズの色を秘めていた。
一目で人外とわかる容貌に浮かぶのは、意外にも酷薄を窺わせる表情ではなく、柔らかな表情。それでいて威厳があるその人物は、数多の精霊を束ねる存在。
人間界で彼の精霊を称える言葉はただ一つ。
精霊の中の精霊――精霊王を名乗ることが赦されている唯一の精霊。
精霊王から少しばかり離れた場所から、黄金色の髪をした精霊が歩み寄った。その性格を表すように優しく微笑む精霊。
「彼の者は大地の精霊シリスフレイ。そなたの助けとなろう」
大地の精霊は一歩、また一歩と近づき、膝をつく青年のすぐ傍まで近寄る。次に視線を合わせるように身を屈め、右手を差し出した。
「待っていたよ、君のことを」
青年は精霊王の手にある黄緑色の光と大地の精霊を交互に見つめ、目を伏せた。そして覚悟を決め、その手を取って立ち上がる。
導かれるように精霊王の前まで来ると、身を屈める。精霊王は手を掲げ、黄緑色の光をそっと頭上から落とした。それは青年の身体に吸い込まれるように消える。その瞬間、今まで身体を構成していたものがすべて創りかえられる――。
喪失と再生。それを実感した青年は、闇夜に積もる雪のように静かに涙を流していた。