ペルソナ・ノン・グラータ
「次の議題へ入ろう」
外務大臣が、その場にいた、官僚を前にして、静かに言った。
つい先ほどまで行っていた議題は、新しく承認する国交についての話だった。
その国交は承認され、のちの国会の期間中に正式に承認される予定だ。
「次は少し厄介です。我が国に対して、スパイ活動を行い、内部より撹乱することを目的として、反乱まで企てた者が、大使としてくるということです」
「アグレマンする訳にはいかないな」
アグレマンとは、承認するという意味のフランス語で、外交使節に対して、外交特権を認めた上での入国を許可するといった内容を意味する。
「では、ペルソナ・ノン・グラータであることを通告しますか」
「首相に相談してからとはなるが、そうなるだろうな。到着はいつになる予定だ」
「1ヶ月後ですね」
「なら、まだ相談する余地が残されているな」
外務大臣は秘書を通じて首相へ連絡を入れさせ、残りの議題をすべて片付けてから、首相官邸へ向かった。
首相官邸では、すでに首相が待っていた。
「アグレマンできないというのは、どういうことだ」
すぐさま本題へ入る。
「今度来る大使は、極めて危険な思想の持ち主です。扇動罪に反乱罪のダブルで裁かれるべき人物です。私は、このような人物を、国内にいれることについては、明確に反対します」
「閣議の場において、それと同じことを言えるか」
「ええ、言い切ることができます」
「その国はわが国にとって重要な国なのか」
「石油推定埋蔵量は、世界でもトップクラスです。しかしながら、現状それらを採掘する技術は存在しません。なにしろ岩山にあったり、活火山のそばにあったりするので」
「なら、思い詰める必要はない。ペルソナ・ノン・グラータを通告しなさい」
「分かりました」
外務大臣が一礼して首相官邸から出る。
すぐに部下に電話をかけて、相手方に通告するように指示を出した。
すぐさま当国から相手国へそのことが伝わった。
「ペルソナ・ノン・グラータを通告されたか。まあ、当然のことだろうな」
「どういたしますか首席閣下」
「仕方ないだろう。別の者を送れ。任務はそいつに任せることとしよう」
「はっ」
敬礼し、駆け足で出て行く。
「流石に用心深くなったか。昔とは違うか……」
誰もいない部屋で、大幅に数が少なくなった国境線を見ながら、首席は言った。