すごろく
短編です
手が、何もない空間をさまよう。
「あれ」
そこで初めて、有るはずのものがないことに気が付いた。置き場所は決めているはずだし、無意識下でも、今まではちゃんとそこに置いていたはずだ。しかし今はソレがない。
「・・・っかしぃなぁ・・・」
ここになければ、次の候補へ手を伸ばす。ノートパソコンの裏。以前そこに置いたまま、パソコンを開いてしまって、ソレを見つけられなくて焦ったことが何度かあった。パソコンを閉じるのは面倒なので、手の感触だけで探す。が、結局見つからない。
ここでもないとすると、あと考えられるのは、台所。コーヒーを淹れる際にスッとおいてしまうことがある。でも立ち上がるのは面倒なんだよなぁ。
一旦今読み始めていた資料用の分厚い本に目を落とす。
だめだ、やっぱりぼやける。たった一行分だけなんだけど、漢字の羅列になっていて、しかもそれが画数の多い漢字だから、つぶれて良く見えない。
パソコンを使うときは別になくても問題はないんだけど、どうも細かい活字を読むのが大変になってきた。自分の年齢と照らし合わせて考えると、経年劣化が憎い。
目を細めてみたけど、やっぱり見えない。
だめだぁ、諦めて台所を探そう。
やかんのある五徳の周辺を視覚と触覚で探す、がやはり見つからない。
「えぇ・・・ここもか?」
とつぶやいて、ふと、ネットやアニメで見た、頭の上の可能性を失念していたことに気が付いた。
頭に触れると、案の定、鎮座していた。
あぁ、眼鏡あるあるやっちゃった。
自分の行動にクスリと頬が緩む。
「せっかく立ったのになぁ」
なんてぼやきつつ、眼鏡をかけてパソコンの前に座り直す。
「やれやれ」
と資料を置いたであろう場所に手を伸ばす。今度ははっきり見えている。さっき置いたと思った場所に、資料用の本がない。
「・・・・・どこやったっけ・・・」
テーブルの上を一回り見ても見つけられない。ということはさっき行った台所か?
重い腰を上げて、もう一度立ち上がる。台所に行くと、今度はすぐに本が見つかった。
「はぁやれやれだ」
本を掴んで、テーブルに置くと、マグカップにコーヒーがないことに気が付いた。さっき飲み切ったんだった。立ったついでだ、コーヒーをもう一杯。
もう一度台所に行って、ドリッパーを出してきた。こういう時はメガネがない方が視界は良好なんだ。やかんを火にかけた。
シュンシュンと音をたてて湯気が上がる。コーヒーの粉を袋から出してドリッパーにふるって、湯を注ぐ。いい香りだ。この香りをかぐと、仕事が頑張れそうな気がする。
マグカップいっぱいにコーヒーを淹れてしまったから、テーブルへは慎重に、少し飲みつつ移動する。
アツアツのコーヒーを少し飲み込んで、椅子に座る。
さぁ、休憩終了。仕事の再開だ!
資料を開いた。・・・・・また同じところで躓いた。
というか、状況が振出しに戻ってしまった。
——1.2.3・・・眼鏡がない、もう一回休み。——
すごろくって、基本、どの目が出てもあんまり関係ないけど、サイコロで6が出るとなんだか嬉しかった気がしますねぇ。




