12 時は来た。そして始まる禁断の戦い、神はどこにもおらず死に絶え、絶望と悲痛な悲しみの中、この世に魔王が跋扈する
目が覚めるとそこにいた。
いったいどれくらい時間が経過したのか。
魔法で時間を確認する。
それを見た瞬間自分が魔法の使い方を間違っているのかと思った。
1000年後・・・だと・・・。
何度も確認して何度も落胆する。
えっ、えぇ、えぇー!
落ち込みすぎてうつむく
息が苦しい。
次第に動悸が激しくなり吐き気がしてくる。
カブリート・・・そうだ!カブリート!どこにいる!
・・・返事がない!気配も感じられない!なんでこんなときに出てきてくれないんだよ!こんな!・・・こんな馬鹿なこと!
強烈な孤独感に満たされていた。
自分以外に自分を知る存在がいない世界
その圧倒的な絶望が波となって押し寄せそれはすべて恐怖へと変貌を遂げていく。
誰か助けて!誰か!・・・う・・・う・・・う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
・
・
・
・
・
・
強い衝撃に錯乱してあてもなく走り続けた。
あるとき正気に戻った僕は魔法で出した地図を頼りに王都シルキリアを目指し移動を続けるようになる。
そして・・・。
・・・ここが王都シルキリアだというのか・・・。
そこはすでに廃墟と化していた。
いや、正確には常時悪天候に見舞われ捨てられた土地だ。
1000年前ではありえなかった荒れ果てよう
辺りは猛毒沼だらけになり人が住んでいたとはとても思えない。
城下街に向かい道を歩く
見知った通りは荒れ果て、宿屋があったはずの場所には何もない。あるのは壊れた家の輪郭だけだ。
目の前が真っ暗になる。
ああ、もう何もない・・・何も・・・。
目の前が暗くなる・・・真っ暗になる・・・自分が闇になる・・・。
気がつくとポカポカと暖まる部屋に倒れていた
ここは・・・みんなと過ごした異空間の我が家・・・。
あれから1000年、人が来た形跡はないがいまも魔法の力で暖炉の炎が燃えている。生活感はそのまま。
ついさっきまでマーゾがそこの椅子に腰かけていたように見えるくらいだ。
遅かったな。ゼロス
え?
一瞬、偉大な魔王がローブを着た姿で椅子に腰かけている幻覚が見える。
見間違いだろうか?
隣の部屋に人の気配を感じ取る。
気のせいかもしれないその部屋に入ってみた。
マーゾ・・・いるのか?
馬鹿な・・・。とは思いつつも恐る恐る部屋に入れば、やはり中には誰もおらず、代わりに壁画が飾られていた。
奇妙な模様が書かれている。
古代文字?読んでみるか。
伝説の石、エントラールストーン、万物を揺るがす力・・・。
4体の怪物がそれぞれ赤、青、緑、黄の宝石を持っている。
マーゾはこれを僕らに託したのか?
・・・・・・・・・・・・・・・・・。
長い沈黙の中で思い付く。
みんなのことも、マーゾがたくした伝説の石も、探して・・・みようかな・・・。
それが新しい旅の始まりだった。
・
・
・
・
・
・
長い時間をかけ新しい街、王都ゾマリアにやってきた。
不死であるならノエルたちはいまだ生きているはず、見つけられるといいけど。
聞き込みをしても、ろくな情報がない
そんなとき露店で本を見つける。
勇者アリシアが邪悪な魔王デス・ムント・デスを討伐する話だ
ちょっと聞き捨てならない名前が飛び出す。
本の内容はこうだ。
勇者アリシアがある日、町にやって来たところから物語は始まる。
さる老師の手解きを受けたと言う彼女は新人の冒険者でありながら、才能を開花し、伝説の冒険者へと成り上がる。
仲間たちを引き連れて異世界の魔王の軍勢との決戦。
そして最後には敵地に乗り込み、魔王デス・ムント・デスと相討ちになって物語は終わる。
巻末には今は亡き勇者アリシアに感謝を、という言葉と彼女の墓所の場所と墓所の前で大勢の人間が悲しむ姿が描かれている
勇者アリシア、封印の地に眠る。
ま、まさか、嫌な予感が走った。
店主!この封印の地はいずこに?
ん?そこの山だよ。ほら、大聖堂が見えるだろ。
言われた方を見れば確かに小さな山の上に巨大な寺院が見える。
あの山の頂上にある大聖堂の中に墓地がある。
と、店主は当然そうに言うのだ。
数時間後
大聖堂の扉をくぐると最奥の部屋の中にある墓の前にいた。
うそだ・・・うそだ・・・これは・・・。
見覚えのある2つで1つのネックレスが魔法で保存され墓の正面に飾られていた。
これは、いつかミリアとウィンがプレゼントした・・・。
アリシア・・・・・・なんでこんなことに・・・。
あの子には人並みに幸せな人生をすごしてほしかった。
ほしかった・・・うぐぅ・・・ぐぅ・・・。
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・
落ち込んでから数日、みんなを探さないとと思い動き出す。
情報ならまずは酒場だ!
店に入るとまずは注文をし次に店主に聞いてみる。
レシーヌ?知らないな。
誰に聞いてもそう返ってくる。
1000年前の人間だし当然か。
それから聞き込みを続けたがダメだった。
いくら聞いても誰も知っていそうにない。
しかたなく店を後しようとした直後だった。
人が多い通りで彼女を目撃する。
今のは!間違いない!ロザリスだ!
人の波が押し寄せると彼女が視界から遮られてしまう
邪魔だ!どけ!
人ごみに呑まれるようにロザリスがいなくなってしまう。
ロザリス!
たしかこっちに行ったはず
あとを追うと民家の中から声がする。
懐かしい声だ。
間違いない。
この先に・・・。
数旬のためらいを抱きながらも意を決して
ガチャ
家の中に入るとロザリスが中にいた。
子供の手の甲にトマトソースをふりかけている
それを心配そうに見守る夫婦
ロザリスが立ち上がると目をつぶりながら自分の両手を胸にあてて答えた
もう大丈夫、これでこの子の邪悪な力は払われました。
おお!
さすがロザリス様!
我らが聖母様!
何らかの神聖なまじないをしていたようだ
僕はたまらない気持ちで感極まっていた。
自然と声が震える。
ロザリス!
あら・・・?あら・・・あら・・・?
ロザリスは戸惑いながらふらふらと歩いてくると腰をかがめ僕の顔をベタベタとさわる
マスターゼロス様!
ロザリス!
僕はロザリスの肩を両手でつかんだ
な、なぜ、きみが生きている?
マスターマーゾ様から不死の実をいただいていたのです!
そうなのか。いや、なんでもいいさ。生きていてくれてうれしいよ!ロザリス!
僕たちは再会を喜びあった
それから僕たちは家の家主の温情で夕食を用意してもらい、別室に通される。
二人きりで食事を取りながらはロザリスから話を聞いた。
私たちはあなたたちと分かれたあとマーゾ様が戻るのをお待ちしておりました。
しかし、数日後、私とアリシアは、異世界の魔王デス・ムント・デスの軍勢から襲撃を受け、私をかばってあの子は大けがをして、そこに王国軍が現れて乱戦となり、そして混乱の中、離れ離れになったのです。
私はひとり何とか落ち延び。
あの子のことが心配で、心配で、死んでしまったかもしれないと思って・・・。
そんなことがあったなんて、大変だったね。
できるだけ心配とねぎらいの言葉を贈る。
ええ、それから一切連絡も取れず消息も知れず。
あの子のその後を知ったのは行商から聞いた伝説の勇者の活躍からでした。
そして、次にあの子のことを知ったのは王都の立て札でした。
勇者アリシアはデス・ムント・デスを撃ち滅ぼし、命を落とした。と
アリシアの死が書かれた立て札を見たときをいまも思い出します。
・・・私は・・・うう・・・私は・・・。
ロザリスが涙を流す。
つらかったね。ロザリス、頑張ったね。
励ましながら僕自身涙が止まらなくなってしまった。
アリシア・・・可哀想に・・・。
しばらく泣いたあとでロザリスは言う
マスターゼロス、あなたが泣いてくれることがあの子の救いです。
ロザリス・・・。
ぐすん、信仰さえ・・・なければ、私はこうして生きてもいないでしょう。
ああ、こうしてあなたと再会できたことを、主、ケーゴメ・カイダロスに感謝いたします。
そう言ってロザリスはトマトソースを手の甲に垂らすとペロリと舐めた。
1000年か・・・。長い年月が経過すれば性格に変化もある。
しばらく涙を流し、無言の間が空いたあと、僕は話を切り出した。
ロザリス、僕と旅をしない?みんなと再会するため、それにマーゾから秘宝エントラールストーンを集めてほしいとも言われてるんだ。
彼の最後の頼みと僕らの再会のための旅どうかな?
まあ、それはとても、楽しそうですね。
ロザリスはボロボロと涙を流しながら笑顔を作ってくれる。
私もついていきます。よろしくお願いしますね?マスター。
《ロザリスが仲間になった》
それじゃあ、明日出発しよう。まずはレシーヌを探そす。
いいね?
はい!そうですね。
ニッコリと笑うロザリスはいまも昔も変わらない。
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・
王都から旅立った僕らは街道を歩いていた。
馬車を購入し、ゆるゆると道を進んでいく
冒険者が襲われているのを見つけた。
いさましく剣をかかげて戦いを挑んでいる。
おおおおおおおおおおおおおお!
ぐ、ぐわああああああああああああああああああああ!
ゴブリンアックスに帰り打ちにされ、腹わたをむさぼられている。
ゴブリンアックスは全長2mの大斧を持つ力持ちのゴブリンたちだ。
並みの冒険者では負けてしまうだろう。
助けよう!ロザリス!
はい!
はああああああああああああああ!
ロザリスが20mほどの炎の塊を叩き込む、
フォティア・スフェラと呼びたいところだが彼女が使う魔法は僕の魔法とは別であり異質、ゆえにファイヤーボールだ。
それも常人では考えられないほどの出力。
ロザリス・・・あんなに強力な魔法を扱うだなんて!
その壮絶な人生は戦いと隣り合わせのだったろうと想起させる。
僕も力を振るうとしよう。
魔法を使うまでもない。
加速し、殴る。
ゴブリンの体が400m飛んでいく。
さらに別のゴブリンに向け適当なパンチが炸裂
ゴブリンが渦を描いて地面に砕け散った。
さらに猛攻は続き
でやあ!
かかと落としが肩を両断する
冒険者たちは口ぐちにつぶやく
鬼神のごとき戦いぶりだ!
す、すごすぎる・・・!
一匹だけ森の中に逃げていく。
そいつはゴブリンアックス、この場にいるゴブリンたちの中でもっとも体格に恵まれた。大柄な強いゴブリンでグループの統率者だった。
リーダーが部下を見捨てて逃げ延びようとするとは・・・卑劣!
それは少し僕をイラつかせるには十分だった。
この僕から逃げられると本気で思っているのか!
軽く地面を踏み込むと
弾丸のように体が弾け飛んでいく
2度目になるが魔法を使うまでもない。
身体能力だけで加速する。
肩をつかもうとして
スカッ!
あ・・・。
つかみそこねた。
ゴブリンアックスが視界から過ぎ去っていき体は森へと無意味に突き進んでいく
くっ!速すぎたか!盲点だった!
くるくると回転しながら地面に着地し、一気に地面を踏み込み、跳躍、森の外に出て一度ロザリスと合流する。
マスター!
ロザリス、すまない。取り逃がした。
追跡を再会。
森の中へと入っていく。
まっ~たく身軽なやつだ。
まったく、それはあなたです。
ロザリスが怒っている。
怒った姿も可愛いものだ。
さて、魔法で地図を開けば現在地は幻影の森。
弱小の魔物の群生地と書かれている。
・・・と、地図上にターゲットされたモンスターを見つける。
いた。先ほどのゴブリンアックスだ。
こっちの方角だ!
駆け出す僕に続き
はい!
と返事をしたロザリスが追ってくる。
しばらく森を突き進んでいると
日が落ちいよいよ夜になってきた。
ゴブウウウウウウウウウウウウウウウウ!
ゴブリンアックスの興奮の声が聞こえる。
きゃあああああああああああああああああああああああああああ!いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
さらには悲鳴も聞こえてくる。
わずかに見えたのは木と木の隙間から冒険者が襲われている姿だった。
た、助けてぇぇー!
助けを求める冒険者
ゴフゥゥー!
まずいな、あの荒れようじゃすぐに助けないと間に合わない!急ごう!
はい!
とロザリスが返事をした。
森をグングン突き進んでいく。
そして森の中でも月明かりの指す開けた場所までたどり着いた
ゴブリンアックスに馬乗りになられ殴られる冒険者
おまけに今、鉢合わせたばかりと思われる巨大な大蛇と巨大なクマの魔物がいた。
フゴオオオオオオオオオオオオオ!
シャアアアアアアアアアアアア!
ゴブウウウウウウウウウウウウウ!
威嚇し合う猛獣たち
ゴブリンアックスの気がそれたうちに冒険者は仲間を担いでヨタヨタと立ち上がると走り出す。
お、おい!君!
呼び止めたのも無視している。よほど気が動転していたのだろう。
そのときだった。
・・・ダン!・・・ダン!・・・ダン!
等間隔で重量感のある足音が近づいてくる。
それがバキバキバキバキと森の木々を突き破り姿を現した。
全長30mはある昆虫に似た手足と体と頭を持つゴリラのフォルムに似た大魔獣だ。
なんだこいつは!
とっさに身構える
アオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
魔獣が咆哮すると初手、大きく踏み込み大蛇の頭を叩き潰す。
そして襲い掛かるクマの爪を背中で受けながら平然と後ろを振り返ると手につかんだ大蛇の体を鞭代わりにして数倍化した威力でクマに打ち付けた
胴体をぶった切られるクマの魔物
ゴブウ!ピテーコス・フィラカス!
何かを叫び、おびえるゴブリンアックスは一目散に逃げようと方向転換する
その体をわしづかみにすると、バチン!
背に叩きつける。
それだけでゴブリンアックスはグシャグシャになった。
潰れたゴブリンアックスの緑の血液を塗り薬代わりにして背の傷に刷り込んでいるようだ。
すごい早さで治癒していくのが見えた。
こ、こいつは・・・。
ゴリラは青い目でこちらを見ると
・・・ゼロ・・・ス・・・。
え・・・!
言葉をしゃべった?
驚く僕とロザリスは顔を見合わせる
ゴリラは自らを指さすと片言で言葉をつづる
ダンザ・・・だ・・・久しいな・・・我が師よ・・・。
ロザリス!
はい!いま彼は確かにダンザと!
嫌な予感がした。そしてそれは外れようもない。現実だった。
ああ、ケーゴメ・カイダロス、なんという試練を我らにお与えになられるのですか。
ああ、ケーゴメ・カイダロス・・・主よ。
そう言ってロザリスはふところから取り出したトマトソースを口の中に流し込む
ん、ん、ん、ゴクリ。
奇行だった。けど、そんなものはどうでもよくて
ウソだああああああ!ダンザなわけがない!ウソだあああああああああ!
俺は・・・ダンザ・・・だ・・・間違いない・・・。
わああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
僕は絶叫した。
数分後、
僕たちは森の中でたき火をして暖を取る。
火の・・・恩恵・・・受ける・・・受ける・・・。
そう言ってダンザは殺した大蛇をかば焼きにしてゴリゴリとむさぼる
君、本当に本物のダンザなの?
そうだ・・・俺は・・・。すまない・・・言語が・・・この口では・・・発音・・・しにくい。
構わない話してくれ。
それから僕たちはダンザの話を聞き入った。
彼は激しい戦いの中で地球の声を聴いた。
いわく、星を守る者になってほしいと地球から頼まれたのだ。
その神にも等しい契約を君は引き受けたのか?
ああ・・・そうだ・・・。そしたら・・・この体に・・・この体に・・・。
ダンザがボロボロと涙を流す。
さあ、ダンザ、これを、
ロザリスが優しそうな笑顔でトマトソースをクマ肉にかけてダンザに手渡す。
ケーゴメ・カイダロスの御心がきっとあなたを救うでしょう。
ロザリス・・・ありがとう・・・。お前の・・・料理は・・・好きだった・・・ぞ・・・。
そう言ってダンザはロザリスのクマ肉を受け取るとボリボリと食べる
ダンザ、ソースならいくらでもありますから
ダンザ可哀想に、つらかったはずだ。
離れていた間の彼の苦労を思うと少し悲しくなった。
そんなこともあり僕は彼の助けになると思い意を決して声をかけることにした。
ダンザ、また一緒に冒険をしないか?
ダンザの体を癒し、人に戻るための旅になるだろう。どうだろう?
悪いが・・・それは・・・できない。
どうして?
俺は・・・この森の・・・・動植物たちと・・・約束をしている・・・森を脅かす・・・もの・・・森を騒がす・・・ものから・・・森を守る・・・ことを。
それは君自身のことよりも大事なこと?
この・・・長い・・・孤独の・・・森の中で・・・連中は・・・俺の敵で・・・ある前に・・・仲間・・・だ・・・見捨てる・・・ことは・・・できそうに・・・ない・・・。
そう、わかった。じゃあ、明日僕らは行く。けれどせめて今日は昔の話を語り明かそう。我が友よ。
ダンザ、私もいますよ。いずれ人に戻れたら皆で祝いましょう。私達には時間だけはあるのだから
ロザリス・・・マスターゼロス・・・ありがとう・・・。
涙を流すダンザと僕とロザリスは夜が開けるまで大いに話をした。
朝焼けの空、遠くのほうでダンザが手を振っていた。
僕たちもダンザに手を振り返す。
お互いの姿が見えなくなるまでいつまでもいつまでも
・
・
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・
・
別れ際にダンザは言った。
マスター・・・もう・・・俺の・・・前に・・・は・・・現れる・・・な・・・この星・・・は・・・この世界・・・は・・・災いを・・・もたらす・・・あなたの・・・力を・・・嫌う・・・俺も・・・マスターと・・・敵対・・・しなければ・・・ならない・・・次に・・・会う時が・・・あれば・・・俺は・・・あなたを・・・お前を!・・・殺す・・・しかない・・・。
言葉が頭の中で響いて離れない。
そうこうしていると帝国領までやってきていた。
道順で王都が近いから王国から探したがレシーヌの故郷があるこの地なら再会の可能性は非常に高い
手始めに衛兵に話しかける
すいません。レシーヌという女騎士を知りませんか?
レシーヌ?さあ、知らないな。
喚声がまき起こる
わあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
あれは?
ああ、コロシアムだよ。腕試しをしたい戦士たちが集う場所さ
この街に来たならもしかしたらそこにいるかもな。
ほう、なるほど
僕はさっそくコロシアムに向かう
テント風の出店までやってくる
コロシアムの受付だ。
ここが受付?
はい!参加希望者の方でしょうか?
かわいらしい受付嬢が提示したメニュー表にはランクが描かれているが
おおまかにルーキ、ビギナー、プロフェッショナルのようなランクのようだ。
ならプロフェッショナルで
おい!新人!それは違うぞ。こっちだ
何か慌てる受付嬢を押し退けわかっている風のターバン巻いたおやじが別のメニュー表を出す
いまの女の子のほうがよかった。とは思っても言わない。
メニュー表に書かれているのは期間限定の大会のようだ
個性的な絵柄のメニュー表だ。
下手くそな目のキラキラしたドラゴンと両手でオノを持った男の絵が描かれている
その下に「集え猛者!」と書かれている。
猛者たちが集まる大会だ。
参加するなら準備だけはしておくんだな。
嬢ちゃんにおまけして参加費安くしとくよ
まあ、ゼロス、嬢ちゃんですって。ふふふっ、
ロザリス、君はいつまでも美しいよ。
僕らのやり取りを見た店主が奇妙な顔をする
その後、やっぱり僕は試合には参加はせず応援席で彼女を探した。
決勝が始まり、巨大なライオン型の砂時計がひっくり返されると制限時間の時が刻まれ始める。
鉄の門が持ち上がると一人の戦士が姿を現した。
コロシアムの司会者が選手の名を叫ぶ
教団ウーラノスのアナヴィオスィ・レウコン・アポストロス!
コロシアム最強の女騎士!白の使徒レシーヌ!
きゃあああああああああああああああああああ!レシーヌさまあああああああああ!
女性ファンも多いようで威勢問わず声援が入る
それよりも僕のほうが喜びの声をあげる
レシーーーーーーーーーーーーーーーヌ!
うれしさのあまり試合中に客席からコロシアムの中へと降りるとロザリスも僕のあとをついてくる。
マスター?・・・マスターゼロスではないか!
僕は言った
会いたかった!
ま、マスター・・・。
レシーヌが戸惑ったような表情をする
ロザリスが声をかける。
レシーヌ・・・。
ロザリス?なぜロザリスがここにいる。
え?
お前は行方不明になっていたはず・・・。
私もいろいろ大変でした。その話はあとにしてあちらの方を早々に片付けてください。
部屋を取らせます。何かおいしいものでも食べながらゆっくりお話しをしましょう。
両手の平を合わせるとロザリスは優しく笑いかける。
そうだった!
ゆっくりとレシーヌは目をつぶると一瞬で集中し、右手で左腰の剣をゆっくりと引抜き構える。
シュン!
土が弾ける音がしたかと思えば、数秒後には挑戦者は、数十メートル吹き飛ばされ壁にめり込み戦意を喪失していた。
わああああああああああああああああああああああああああああ!
大歓声が巻き起こり、色紙が雪となって降り注ぐ
大声援を背に僕たちはその場を後にした
それから十数分後、
すでにヘロヘロに酔ったロザリスがさらに酒を仰ぎ飲んでいる
それでは私たちの再会を祝してまたまたかんぱーい!
とロザリスが合図をする。
豪勢な食事を囲みながら旧知の中をあたためるはずだったのだが
僕らはロザリスを無視してジョッキを手に持ち無言で向き合っていた
一方的に僕がこの1000年どうしていたかを説明していた。
だが、さきほどから3人で椅子に座ってからレシーヌはまったくしゃべらないのだ。
いよいよ語ることがなくなると異様な緊張感がただよっていた
いままでの長い沈黙の中で何かを考えていたのかもしれない。
乾杯の酒に一切口につけず、等々レシーヌはジョッキをテーブルの上に置いた。
すまないがもう関わらないでほしい。
唐突にそういわれた。
昼間の酒場だ。僕たち以外には誰もおらず、ロザリスが酔っぱらいながら席を立つと
ああ、なんと幸福でしょうか?これもケーゴメ・カイダロスのお導きです。
そう言ってロザリスは自分の座っていた椅子にトマトソースをぶっかけていた
そんな光景を気にかけていられるほど僕は強くはない。
我が耳を疑う思いで話を続ける
レシーヌが言う
最後に飲んだのはアリシアが死んだときだったかな?記憶があいまいだ。
そう・・・なの?
この1000年、どうにも生きている実感がなくてな。不老不死、最悪だ。何度大事な人との別れを経験したか
レシーヌが一筋の涙を流す。
このままではレシーヌが僕から離れてしまう!
焦った僕は本題を最初に切り出す。
い、一緒に!マーゾが残したエントラールストーンと呼ばれる財宝を探す旅に誘おうと思って!
悪いが!
言葉を言葉で切られる。
レシーヌは立ち上がり両手をテーブルに着いた。
私にも守らなければならないものだけはある。白の使徒を束ねる者として帝国を離れるわけにはいかないのだ。
そんな・・・。
知っているか?マスター、この世界にはいまだデス・ムント・デスの眷属の魔物たちが残っていることを。
やつらはマスターマーゾたち、いまは亡き魔王の眷属たちと戦いこの世界に破壊をもたらす。
私は白の使徒としてこの世界をどちらの魔物からも守らなければならない。
長く戦う内に理解したのだ。
魔物も誰も彼もがマスターマーゾのような気高い存在ではないのだと。
最初に偏見から魔物を邪悪な者と思い込んでいたが、魔物たちの光の側面に触れ、考え直し、そこからまた元の場所まで戻ってきた。よりその論理が正しいことを実感した。善良な魔物だけを抽出して付き合っていくなど不可能なのだよ。マスター。
旅をすれば長い間家を空けることになる。長い年月の中で他人とのつながりは私にとって命以上に大事なものだ。
もう自分を忘れられる苦しみを味わいたくはないのだ。わかってくれ。
レシーヌ・・・。
どこかおいてけぼりにされた気がして、それでも彼女の気持ちもわかってあげなければいけないと思う自分もいた。ただ、どうしても悲しくなってしまう。
泣きそうになるのを必死にこらえていると
マスターゼロス・・・。あなたには言葉で言い表せないほどの尊敬と感謝を
そう言われて、僕はもう何も言えなくなってしまったのだ。
否定や拒絶なら何かどうにか説得できそうな気もするが。肯定されてはどうとりつくろえばいいのかまったくわからなくなってしまった。
それから早々に祝杯はお開きになった。
では、マスターゼロス、私はわが家へ帰る。
父と母の子供のその子供の子供、わが家の末裔たちが大叔母である私を待っている。
そして悲しそうな顔をするとレシーヌは意を決して言った。
本当に会うのはこれで最後にしてほしい。壊されたくないのだ。もう関わらないでくれ。
ううう・・・うう・・・お・・・お元気でええ・・・
僕は涙と鼻水をたらし無様に醜態をさらし、泣きながら返事をした。
ロザリスもさらばだ。
レシーヌ・・・。
ロザリスも悲しそうな顔をしていた
レシーヌの背を見ながら思った。
もはや僕らと彼女は違うのだ。
強大な敵、曲げられないもの、そして途方もない時間、すべてが僕らを彼女から遠ざけていた。
冒険をして名声を得るよりも彼女はあの場所にいて、周囲から愛情を受け取りささやかな幸福を享受する。
それこそがありふれたもっとも重要な幸せなのだ。
僕はもう彼女の生活を脅かすことなどしたくはなかった。
彼女が頼るなら共に悩み考えよう。
だがいまは、完全な他人として彼女の安寧を願うことが僕が師としてできる最後のことかもしれない。
レシーヌは帝都はずれの街の一軒家へと去っていく。
扉を開け、小さな女の子と大人の女性が姿を表すのを目にして。
こんな世界を滅ぼしてやりたくなって、そんな自分のあさましさに絶望した。
・
・
・
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・
・
帝国外れの帝国領から帝国首都までやってきた
近代化された街だ。
蒸気機関が産声をあげている。
魔法に代わる日も近いかもしれない。
僕たちはエントラールストーンを探すため財宝の逸話を知らないか?と
ギルドに依頼を出して日が経過するのを待っていた。
中央の道を兵士の軍勢が歩いていく
殺せ!殺せ!殺せ!あははははは!
騎馬隊の男が市民を殺していく
ちょ、ちょっと!何している!
僕はとっさに前に立ちはだかる
なんだ?馬に蹴り殺されたいかぁぁ!
はぁ!
ぐおおおお!
僕の拳が問答無用で馬を殴り飛ばし壁に叩きつける
落馬した男は怒鳴った
な、何しやがる!
かなり手加減したが蹴り殺される前にこちらから殴り飛ばしたのさ
もう一人の仲間が言った
馬を殴り飛ばすだと!強すぎる!もしかして、こ、こいつ!エルフ?
違う!お前ら油断するな!できるぞ!
そう仲間の危機にほかの兵たちが剣を抜くと構えた
そのときだった
隊長ー!大変です。見てください!
いま取り込み中だ!
大量の財宝を手に持った兵士がやってくると
これを!
ジャラジャラとネックレスや金貨を地面に置く
隊長と呼ばれた男はそれをわしづかむと
でかしたぞ!ぐふふ、これを献上すれば、また陛下の恩恵を賜れるというもの
それを聞いた僕は怒った
そんなもののためにこの人たちを殺したのか!
そこのやつらは異教の邪教ティーモスの連中だ!
帝都に救う害虫を駆除して何が悪い!正義は我らにある!わかったらどこかへ去れ!
話を聞けばこの人たちは悪い人たちなのだそうだ。
けれどこんな残酷なやり方、間違っている
だから僕は言ってやった。
こんな虐殺を僕が許すとでも?
目の前の死体を見ると怒りがわきあがって来るのがわかった。
そのとき違和感を覚えた。
これは・・・カブリートがいないのに黒魔法を使える・・・?
あり得ない現象だ。黒魔法は魔法生物であるカブリートから力を借りて行使する魔法だからだ。
なぜ?だがちょうどいい試してやる。
双剣杖をかかげて叫ぶ
黒き化身よ。いまこそ喚起し、すべてを黒く染め上げろ!
黒魔法・メラース・アバター!
巨大な黒の化身が襲来する。
魔王カブリートの力にすら引けを取らない大魔法。
魔法生物の世界のもうひとつの怪物が姿を現す。
黒い人型の怪物だ。
それはかつて世界を滅ぼしたと言われた。黒の化身だった。
プスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスッ!
奇妙な鳴き声をあげ、真っ赤な切れ長の眼が兵隊たちを見下ろした。
魔法生物であるカブリートがいなくとも、もはや黒魔法は僕の力ということなのか!
兵の一人が言った。
ば、ば、化け物ぉ!
僕は冷酷な顔をしながら言った。
やつらを蹴散らせ!
プスップスッ!
前進を始めるメラース・アバター。
やつらの顔が青ざめていくのが手に取るようにわかり、大変満足する。
愚か者に死を理解させていく。
血も涙もない己が冷酷無比な振る舞いを身を持って味わうがいい!
プスップスップスップスップスップスップスッ!!
帝都中に咆哮が響き渡る。
わああああああああああああああああああああああああ!
ば、化け物め!てっ、撤退!撤退!
一気に跳躍しメラース・アバターの肩に飛び乗る
じわじわと追い詰めて殺してあげよう!
家を何件か踏みつぶしながら追い詰めていく
もちろん殺す気はない。人死にはなしだ。
僕の目には建物内は透けて見えている。
メラース・アバター!馬を追い抜かないよう歩け。できるだけ恐怖を味わせろ!
プスップスッ!プスップスップスッ!
メラース・アバターが奇妙な声をあげ兵士たちをさらに恐怖のどん底に叩き落す
帝国の城から無数の砲撃が飛んでくる
だがそれも砲撃が胸部で跳ねるだけだ
黒魔法最強の化身の持つ強靭な体には効果がない
無駄なことを、おっと、そうだった。ロザリス、遺体のことを・・・。
遺体のことを安らかにともらってあげてほしかった。
言葉を言いながら振り返ると
ケーゴメ・カイダロスがあなたちのさ迷える魂をお救いになられますよ?
そう言って打ち捨てられた遺体にトマトソースをふりかけているのだ。
な、何をしている・・・。
絶句する。
ケーゴメ・カイダロスがあなたちの次なる生に救いと繁栄を・・・
何をしているかと聞いている!ロザリス!
僕が怒鳴りつけるとロザリスは
あら、マスター、そんなに怒って嫌ですわ。
そう言って目を細めてクスクスと笑うのだ
これは聖なる弔いの義、ケーゴメ・カイダロスが彼らを導くのです。うふふふふふ、
僕は戦慄した!
ロザリスの目には嘘偽りはなく。
本気であのふざけた振る舞いを弔いの儀として受け入れている。
わけのわからない行いを普通の僧侶が祈りを捧げるのと同列に扱っている。
そして気が付く。考えてみればロザリスは一般に広く認知された正規な神の名ではない。聞いたこともないような異境の神の名を口にしているのだ。
ロザリス、もしや、君は・・・。
故郷の大聖堂を焼かれ、愛するものを失い。アリシアという新たな希望に救われ、それすら失ったその絶望のあまりの深さ、
僕はもっと早くに気がついてあげるべきだったんじゃないだろうか?
ロザリス、君はすでに・・・
壊れてしまっているのか?とは言葉にしまくなかった。
あははははは!ケーゴメ・カイダロスが笑ってくださっているわ!見てください!マスターゼロス!なんとケーゴメ・カイダロスなのでしょう!
そう言って死体たちの間をぬうようにトマトソースをぶちまけながら躍り狂うロザリス
くっ、・・・ロザリス・・・哀れな・・・。
ジャリ、
土を踏みしめる音がすると男が立っていた。
どうしたものか?これほどの被害。
異様な気配が突然現れる。
ば、馬鹿な・・・この気配は・・・新たな魔王だと!
その男は豪勢な服を着飾った美男だった。
それだけでこの男が高い地位の人間なのだと察する。
私はパラダイン・ウィンダム。
君は魔王マーゾの仲間だろう?
なに!マーゾを知っているのか?
もちろんだとも帝国将軍時代、一度だけ彼とは見知った中でね。
この魔王の身をもってすれば時間などまばたきの一瞬に等しい。
それは君とて同じことだ。違うか?
そこまで言ってパラダインは不思議そうな顔をする。
おや?ふむ~。君は・・・そうか?くふふっ、
何がおかしい!
いや、まあいい。1000年後しに再会した貴重な友人の忘れ形見だ。できれば殺したくはない。が、旧知の中とは言え部下をやられては皇帝の威信を示さねば兵たちに示しがつかない!
何を!
私はいまこの国の皇帝だ!
はあ?
そのとき僕は今世紀最大の間抜け面をしていたと思う。
じょ、じょ、じょ、状況が呑みこめない!
皇帝、そう言ったのか?
冷静に考えれば相手は魔王だ。その可能性はあるにはあるが。魔王が人間を統治するなど聞いたことがない。
パラダインは余裕の笑みを浮かべて言った。
異世界の魔王デス・ムント・デスと一戦交えた君とは一度手合わせをと願っていたところだ。
パラダインの周囲に稲妻がほとばしる。
伝説の魔王すらも霞んでしまうでほどの圧倒的な力をお見せしよう。見よ!我が力!
召喚獣・・・パラダイン!
パラダインが見る見る巨大化すると全身を邪悪な鎧が包み込む。
≪召喚獣パラダインが現れた≫
ふはははははははははははははははは!
長きにわたる研究から産み出した魔王強化の秘術、とくと味わうがいい!
巨大な鎧の目が緑色に光ると中身がない鎧そのものが動き出す。さながらデュラハンに似た怪物だ。
正確には鎧そのものがパラダインとなっていた。
くっ、何たる魔力!化け物か!だが・・・引きはしない!ゆけ!メラース・アバター!
プスップスップスップスップスップスッ!
咆哮したメラース・アバターがいくつもの黒のビームをふりかける。
黒魔法メラース・パンメガス・プネウマだ。
黒いビームは帝都の空を舞い、音を立てて鎧の上を跳弾する。
いくつものビームが弾かれ、市街地を吹き飛ばしていく。
なんて分厚い装甲だ!
ふん、効かんな。はあ!
尻の付け根から骨組みでくみ上げられた鉄のしっぽがピン!と立つと槍となって飛んでくる。
よけろ!メラース・アバター!
プスッ!!
顔面に迫るその槍を一度は避けるも突如、槍は鞭のようにしなり首に巻き付いた
そのまま宙に締め上げられていく。
プスッープスップスップスッー!
メラース・アバター!しっかりしろ!
まだだあああ!
パラダインが叫ぶと
ダン!ダン!ダン!
左右に頭をたたきつけられる。
舞い上がる土煙、建物が粉々に倒壊していく。
うああああああ!
そのまま投げ飛ばされるとドゴーン!と地面が揺れた。
黒魔法最強の化身をこうもたやすく!
立て!メラース・アバター!
プスップスッー!
巨大な両手でレンガの民家をわしづかみにするとそれを支えにしてメラース・アバター!が立ち上がる。
プスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスッ!
本能のままに目の前の鎧の巨人を咆哮し威嚇している。
いくぞ!パラダイン!
ダッダッと駆けるメラース・アバターがすっ、と身軽にしゃがみこんだ。
ふところに飛び込めば!
メラース・パンメガス・プネウマが連射で照射する。
それを見透かしたかのようにパラダインが同じく低い体勢で迎え撃つと超至近距離でメラース・パンメガス・プネウマを次々と回避していく
馬鹿なあああ!読まれている!待て!メラース・アバター!!
プスッ!
自らの巨体に振り回され、そのまま全力で突進をしかけると、パラダインが左腕でメラース・アバターの胴体を支え、右手で股下を持ち上げる
ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
そのままの勢いで投げ飛ばされた
うわああああああああああああああああああああああああああああああ!
メラース・アバターの肉体が雲を引き裂き、白い尾を引きながら空中落下すると城の頭頂部と激突する
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!ガラガラドドド!
プッ、プスップスッ・・・。
メラース・アバターの胸に城の屋根が貫通して大穴を開けていた。
くっ、こ、こんな・・・!
まさか敗北するとは思わなかった。相手を侮っていたわけではない。勝てると思っていた。読み違えた。最初から敵の力量があまりに強大だったのだ。
・・・!
・!
・・!
足元の大勢の人間たちが叫び声をあげているが騒音がすごすぎてまったく聞こえてこない。
墓所に消えろ!
パラダインの背中から音がすると8枚の花びらがゆっくりと開閉するように背面がバッ、と左右に開いていく。それは見ようによってはコウモリの羽根のようにも見える。
それらの羽を介して魔力が増幅され、8つの強大な電撃が球体となって召喚される。
一つ一つから異常な破壊力を感じ取る。
敵が致命的ダメージの攻撃を振るおうとしている!
まずい!あれをくらうな!メラース・アバター!何をしている!早く立ち上がれ!
プッ、プスップスッ!
腹に大穴を開けられたまま震える四肢を奮い立たせ、メラース・アバターが身構えると
その直後だった。
ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
強大な一撃が高速で目の前に迫る。
メラース・アバター!
プスッーーー!
すかさず双剣杖をかかげ叫ぶ
黒魔法・メラース・トイコス!
メラース・アバターの目の前に瞬時に224枚の黒い障壁が展開する。これらは本来1枚しか張られないが僕の装備品や特技がそれらを可能とする。
最上位障壁黒魔法が電撃にゴリゴリと削り取られていく。
くっ!障壁がもたない!
双剣杖をかかげる
影魔法・スキアー・トイコス!
224枚の影魔法最上位障壁魔法を重ね掛けしさらに攻撃をしのぐ
ぐっ!これでも・・・ダメだ!
うわああああああああああああああああああああああ!
プスップスップスッ!
障壁が砕け散ると全身を魔力が叩きつけ同時に大爆発が巻き起こった。
うなる電流が街の道を迷路のように駆け巡り。
目も眩む一撃で目の前が真っ白になる。
それは魔法を放ったパラダインすらものみこむほどの電撃だった。
メラース・アバターが膝を折り、大地に手をつく。
プスップスッ!
光が掻き消え、闇が戻ってくるとやつは悠然とそこにいた。
つ、強すぎる・・・悪魔め・・・。
そう呼ぶにふさわしいいでたちだ。
周囲は炎が燃え上がり、いまだアースへと拡散しきれない電撃が建物の周りで渦巻いていた
やつは言う
いまの一撃を耐えたか、うれしいぞ。と、そのときだった。パラダインは動きを止めて背後を振り向くと言った。
おや?来たか。
パラダインがそう言うと街の道を白衣をまとった青年が歩いて来る
彼こそが我が帝国が誇る狂気の科学者トゥレラ・シアンティフィック。再会を楽しむといい。
白衣の青年は言った
わかりますか?見てください。俺ずいぶんと様変わりしたでしょう?ねえ、我が師よ。
信じられない人物がそこにいた。
成人しているがわかる。
ノエルなのか?・・・どうしてここに!それにその体は!
順を追って説明しますとこの体は偉大なる皇帝陛下の恩恵によってしかるべき資材と資金と僕の頭脳で不死化を一時的に操作して成長させたのです。
へ、陛下?
聞きなれない単語に聞き返してしまう
ええ、そうですともいま俺は帝国で陛下に仕えているんです。
な、なんで!
あなたたちと別れてから俺はデス・ムント・デスと戦い続けた。
強力な魔道具を作り出して人々に配って回り、戦いを支えていたんだ。それが・・・
ノエルはあきらめたような顔をしてつぶやく
俺はいま国際指名手配されているんです。
は・・・・・・・・・・・・はああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ?
パラダインが愉快そうに言った
ノエルが言っていることは本当だ。
彼は機械技術のみで人造魔王を作り出したのだ!
じ、人造魔王!?
まさか、我と同じことを考える人間がいるとはな。
パラダインが楽しそうに笑う
ノエルは言う
元々は魔道具であなたから教わった核兵器を作り出そうとした産物です。
その起動実験で、国をひとつ焼き払い、指名手配され追われる見となり、投獄され、脱走し、路頭に迷っていた。死のうとしても不老不死が邪魔して首を落とそうと死ぬこともできず、脳を破壊したこともありますがそれすらも再生してしまう。餓死すればとも思ったがそもそも空腹を感じることもなく。
陛下が俺を拾ってくれなければいまごろ俺は・・・。
それをきっかけにこうして帝国の科学者になったのです。いまでは不死を殺す研究もしているくらい充実した毎日を送れていますよ。クフ・・・クフフフフフフフ・・・ハッハッハッハッハッハッハッハッ!
ノエルは腹を抱え、異様なほどに高い笑い声をあげる
ノ・・・ノエル・・・?
滑稽だろおおおお!人々のために身を粉にして武器を作っていた俺が!
それが俺の戦いで誇りなんだ!と信じていた俺が!いまじゃ世界的犯罪者だ!
帝国を出れば俺は追われる身でしかない!あんなに!みんなを守ると!決めていた!俺がだ!
そんなことが・・・あったなんて・・・。
あんたのせいだろうがああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
え?
あんたがあんな核兵器なんて概念を俺に吹き込んだから!
あんたがマスターマーゾに魔道具を作るように吹き込んだから!
あんたが俺のマスターになったから!
だからみんな死んで・・・死んで・・・うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
ノエルが叫ぶ、異常だ。激しく頭を振り乱し、演技かと疑いたくなるほどの錯乱を見せる。
お前が・・・お前があああああああああああああああああああああああああああ!
ノ・・・ノエル・・・僕は・・・そんなつもりじゃ・・・。
ノエルは追い詰められてしまったのだ。
マーゾの元に集ったメンバーの中でもっとも強い精神を持つ少年は、少年だった。
それを僕たちは失念していた!
はあ・・・はあ・・・はあ・・・。
息を荒げたノエルはそれを整えると笑い出す。
ハッハッハッハッハッ!その間の抜けた顔、マスター、無様な俺を笑わせてくださいよ!マスターゼロス!
僕は・・・僕は・・・。
言葉が出てこなかった。
傷つけてしまった。やってしまったのだ。笑えるわけがない。冗談にできるわけがなかった。
陛下!あれを使ってもよろしいでしょうか?
ああ、お前の力、存分に見せてやれ。
感謝します。
己が業を償うときです。マスター、あなたは師匠などではない!
俺の人造魔王であなたをバラバラに解剖してあげますよおおおおおおお!
ノエルが腕時計に似た機械をいじると帝都の上空に無数の機械が飛んでくる。
あ、あれは・・・!
ズオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
数十匹の機械の怪物が姿を現す。
あれこそが俺の最高傑作、人造魔王ファルシュ・ブラキオラス!
お前たち、そこ無価値な物体を抹殺しろおぉぉ!
スプルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル!
ファルシュ・ブラキオラスが咆哮をあげると顔の中心にある青い球体が黄色く点滅する。
鋭角的な頭部と胴長の体を持つ人型の手足がある機械の怪物だ。両手の先にある金属製の丸い爪は敵を傷つけるには不十分に見えるがそう甘くはないだろうことは予測できる。
戦わなければならないのか・・・メラース・アバター!
メラース・アバターが突進をしかける
プスップスップスッ!
血液が腹から飛び散ろうがこの化け物なら大丈夫だ!
左右に腕を振るい一気に2体のファルシュ・ブラキオスを殴り飛ばす。
ズゴオオオオオオン!
メラース・アバターが振り返り、手から黒魔法メラース・パンメガス・プネウマを撃ち出す
黒いビームは帝都の空を舞い
カン!
と音を立ててノエルの使役する魔王の丸い爪が弾丸を弾いた。
爪が青く発光し強大な魔力をおびている。
まさか魔力を兵器化しているのか!
撃て撃て撃て撃て!
ノエルが叫ぶとファルシュ・ブラキオスたちの肩に大型のキャノン砲が姿を現し、テテテテテテテテ!と奇妙な音をあげる
次の瞬間、ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!ドヒュン!
抹茶色のビームが飛んできてメラース・アバターの全身を破壊していく。
プスッ!プスップスップスップスッ!プスップスップスップスッー!
う、う、うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
ズドーン!
まるで花火のような爆発が連続して巻き起こると帝都中を明るく照らす。
右腕が吹き飛んだのがかろうじで見えた。
爆発が晴れると体が半壊した状態でメラース・アバターはまだ生きていた。
ノエルは言った
しぶといやつめ。ですがここまでですよ。さぁ、感動のフィナーレです!
ファルシュ・ブラキオスたちが肩の大型キャノンを一斉に僕へと向けると
テテテテテテテテ!とまたあの奇妙な音がする。
死を覚悟したとき
こんなことで負ける・・・?
・・・それでいいのか?まだ何もできてない。何もできてないのだ!負けられない!負けてはならない!いまだ会うことができていない。みんなのためにも!
メラース・アバター!かつて世界を脅かした黒き化身がそんなものかぁぁぁ!
そう激を飛ばせばそれに触発されメラース・アバターは真の能力を開花させる。
プスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスッ!
メラース・アバター目からピンクのビームが炸裂する
メラース・アバター最強の必殺技ロドクロース・ピュルゴスだ!
ピンクの閃光がファルシュ・ブラキオスたちを吹き飛ばしていく
ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!ドカーン!
ピンク塔がいくつも生成され熱風が帝都を焼き払い。
多くの嘆きと叫びが響き渡る
ノエルは言う
ば・・・馬鹿な・・・僕のファルシュ・ブラキオスたちが!
プスッ!
ノエル!引け!
劣勢を悟ったか、すかさずパラダインが指示を出すと自らとどめをさそうと電撃攻撃を炸裂させる
それがメラース・アバターのロドクロース・ピュルゴスと激突し
次の瞬間、大爆発が巻き起こった!
視界が真っ白い光におおわれ、気が付くと目の前には何もいなくなっていた。
・
・
・
・
・
・
はあ・・・はあ・・・はあ・・・。
ボロボロになりながらメラース・アバターはなんとか飛行を続ける
術者である僕も自身も完全に疲弊していた。
膨大な規模の大爆発のあとロザリスを連れなんとか離脱できたのは運が良かったが不思議なことに追っては来ていない。
ドシャーン!
うわあああああああああああああああああああああ!
メラース・アバターがついに力尽き墜落する
プスッ・・・プスッ・・・。
半肉塊と化したメラース・アバターが横たわる。
メラース・アバターよくやった。ご苦労。
シューと消えていくメラース・アバター。
しかし、まさかあんな怪物がいるだなんて、もう帝国には行けない。王国圏内に向かおう。
僕とロザリスは王国に向かった。
その後、帝都に大怪物メラース・アバター現るも皇帝パラダインの大魔法によって追い払われたとの一報は帝国国内に限らず全世界へと広がっていく。
甚大な被害をもたらした両者の戦いは僕だけが悪いことにされ皇帝はまるで英雄視されていった。
真実はねじ曲げられて世界に拡散されるのだ。
それから数日後、僕らは王国の宿屋に宿泊していた
時間をかけてでも今後のことをロザリスと話し合おうとしても噛み合わない会話にやきもきする。
いままでは彼女の奇怪な行動もそこまで目に余るほどではなかったし。
時折見せるかつての彼女の優しい一面に懐かしさを抱いていた。
だが、帝国での一件を目にして以来、それがすべて勘違いだったのだと思い知らされる。
彼女は壊れている。
ダメだ!しっかりしろ!仲間を信じれなくてどうするのだ。
僕はいつしか自分を恥じることで無自覚にも彼女から目を背け、それ以上考えるのをやめていた。
宿屋にて、いまさっきもロザリスと会話を試みたが駄目だった。
とにかくいまは休もう。
時間をかけてゆっくりやっていくしかない。
ロザリス、君はここにいて。
僕は少し、酒でも飲んでくるから
ええ、マスターゼロス、あなたの帰りを待っているわ。
そう優しく笑うのだ。
嫌な気持ちだけじゃない。やはり彼女の中にかつての優しい彼女を感じる。
街に出ると夜空が綺麗だ。
そう現実逃避をしていると
貴様!この大混乱のさなかこんな夜更けに何をしている!
白いローブを来た集団が一人の男を取り囲んでいた
男はおどおどとして焦っているようだ。
知らんのか?帝国で魔王メラース・アバターが確認されたことを!
知らないですよ!
メラース・アバター、恐ろしく邪悪な魔王だ!そんなことも知らんとは・・・怪しいやつめ!さてはヘキサセクスの手の者か!
な、ち、違う!俺はただ酒を飲みに
黙れ!お前たちこいつを抑えつけろ!
「「はっ!」」
リーダーの指示を受け部下らしき白い服の人間が男を地面に乱暴に抑えつける
や、やめろ!
おらあ!
男の腹をリーダーの男が蹴り飛ばすと他の白いローブたちも同じように蹴りだす
黙れよ!
この異常者が!
魔王崇拝の邪教が!聖なるエイレースケイアに立てついた罪、おもい知らせてやる!
う、うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!
いいぞ!もっと叫べ!贖罪の痛みを味わうのだ!
バキ!
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
剣を取り出したリーダーの男は男の腕を剣の側面で叩き折る
やれやれ、むごいことをする。
しかたがない。助けてやるとするか。
手加減しつつも目にも止まらない速さで手を動かし、白いローブをぶん殴ってみる
ぐあ!
おわ!
ぐえ!
ものの数秒で全員昏倒させた
ケガをした男に話しかけてみる
大丈夫か・・・?
う、腕が・・・俺の腕が・・・。
ああ、痛そうに肩を貸そう歩けるか?
あ、ああ・・・。
男を立ち上がらせると少しずつ歩き出す。
家は?
まっすぐだ・・・。すまない。
いいって。
僕らはまっすぐ進んでいく
たどり着いたのは一軒家、
ガチャ、
ドアを開け、入ると中は無人だった。
物音がして奥にいた女の人が姿を現す。
僕らを確認すると急いで棚にあったポーションを手に駆けてくる
・・・エイレースケイアのやつらにやられた。彼が助けてくれたんだ。
ありがとう!旅の人、さあ、すぐに治療を!
僕から彼を受け取り、代わりに肩を支えると、彼を奥の部屋へと通す。
あとをついていくと、部屋の中には30人近くの黒いローブを着た人たちが大勢いた。
どうした!これは!
エイレースケイアです!応急処置はすませましたが!
すぐに治療を!
誰かが叫ぶ
なんだこいつ!
侵入者?謁見行為です!ルイマンさん!いくらあなたでも、部外者を入れては!
彼は襲われている俺を助けてくれた!無礼は許さんぞ!
ですが!
ひとまず治療を!
話がまとまらないまま部下らしき人たちが治癒の準備を始める
別の男が現れると
さあ、旅の方、先ほどは失礼いたしましたな。
ぜひ、我らのおもてなしを
さあ、こちらへ。
言われるままにあとをついていくと扉に通される。
中は真っ暗闇で何も見えない。
奇妙だ。何かがおかしい。
さあ、こちらへ
あ、ああ。
不思議に思いながらも言われるままに部屋に入ると
ガチャン
扉を閉められる
え!
扉のポストが開くと、隙間から男の目が見える。
旅の方にはこちらにいていただく。
仲間を救っていただい恩もある。殺すようなことは決してしないと約束しましょう。
今日は黙ってここにお泊り下さいますようお願い申し上げます。
明日、報酬とお礼を、我らが魔女様からたまわれることでしょう。
では、お休みくださいませ。
男はそう言い残し、行ってしまう。
さて、どうするか?
抜け出すこともできるが、少し様子を見てみよう
僕はおとなしく眠りについた
・
・
・
・
・
・
声が聞こえる。
僕の名を呼ぶその声に引かれ目が覚めるとウィンが目の前にいた。
マスターゼロス・・・起きましたね。
ウィン!
勢いよく上半身を起こす。
久しぶりです。会いたかった!
僕もだ!
再会したウィンはかつてと変わらず
彼女はたまらず僕に抱き着く
会いたかった!マスターゼロス!
マスターはいまはどうしているのです?
僕は・・・。
いや、僕のことはいい。それよりも、どうして君がこんな場所に!
それを話すよりも目で見てもらったほうが早いでしょう。ついてきてください。
僕はウィンに言われるままに後を付いていくと
薄暗い廊下を歩いていく。
廊下はどこまでも続き闇に向かって潜っていく。
ウィンはこんな話を始めた。
この王国には魔王を畏怖する聖なる教団エイレースケイアがあります。
ああ!見たよ。
そうですか、それは話が早い。
彼らは凄惨な世界に偽りの救済を振りまき大勢を騙す。
え!
そしてその対抗勢力が存在するのです。ここまで言えばおわかりでしょう。
は?
さあ、この扉の向こうです。
ウィンが扉を開くと、黒いローブを着た人々がズラーッとならび、左右に青い炎がメラメラと燃える松明があり、中央にはまがまがしい悪魔の石像がそびえ立ち、
黒いローブが皆、祈りを捧げていた。
うわあ!
どうです?
ニヤリと笑うウィン
ど、どうって?何が・・・?
何って・・・ふふ、マスターったらおとぼけになって。
ここが我ら魔王崇拝者、ヘキサセクスの中枢、エイレースケイアの大聖堂と対となる施設、大邪堂なのです。
大・・・邪・・・堂?
頭の回転が追い付かない。
さあ、マスターゼロス、いまの私の活躍を見ていてくださいね?
う、ウィン!待って!
僕を無視してウィンは前に進み出る
するとウィンの存在に気が付いた信者どもが叫ぶ
アぺルピスィア・マギサあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!魔女様だ!魔女様だ!魔女様だ!魔女様だ!魔女様だ!魔女様だ!魔女様だ!魔女様だ!魔女様だ!
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、何と!まがまがしい!あれぞ魔女の身の内から出る邪悪!
階段をゆったりと降りていくウィンを信者たちは魔女様と崇め奉る。
ウィンが清涼感のある声で高らかに宣言する。
お前たち!よく、聞きなさい。今宵はうれしいお告げがありました。
私の師が舞い戻ったのです!
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
歓声が上がるとウィンがそれを手で制す。
すると一瞬で声が静まった。
やつらの!エイレースケイアの弾圧と大虐殺と侮蔑と屈辱の日々!その痛みを分かち合い!
私とともに歩いていくれる。かつての友にして師!彼こそがマスターゼロス!
ウィンが僕のほうに手をかざせば全員の何千という目が一斉に僕を見る
ウィンはさらに饒舌に鞭撻をころがす。
いえ!ここは・・・あえて!ゼロスの名では、この偉大さは伝わらないでしょう。ですから私はあえて、私が独自に調べ知った。彼の真実を明かしましょう!彼こそが!彼の帝国を焼き払った魔王メラース・アバターを使役する!我が師、魔王マーゾの盟友、もう一人の魔王!魔王ゼロス様なのです!
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」」
大歓声が巻き起こる。
魔王ゼロスぅぅさまああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
なんと!なんと偉大なあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
ほ?ほ?ほ?ほ?ほ?ほ?ほ?ほ?ほ?ほ?ほ?ほ?
僕はもういっぱいいっぱいでいっぱいいっぱいでいっぱいいっぱいすぎて頭がおかしくなりそうな衝撃に襲われていた。
ほ?
ウィンの饒舌な話は止まらない。
最高の笑顔を浮かべて話を続ける。
やつらの!敬虔な信徒とやらの最後!審判の日は近いのです!
男の睾丸を切り落とし踏みつぶしなさい!
女は腹に穴が開くまで犯し殺し!
赤子をすべて奪い取り偉大なる魔王マーゾ様に血の喜びを奉げるのですぅぅ!
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
大歓声と共に叫び声をあげると、僕は一目散に逃げだした。
なんだ!なんだ!なんだ!なんだ!なんだ!なんだ!どうなっているんだ!ウィン!
・
・
・
・
・
・
王国内を走る。
と、とにかくロザリスを連れてここを離れなければ!
いたぞ!
軽く数千を超える黒いローブたちがあちこちから僕を捕まえようと追ってくる
目の前に黒いローブの信徒たちが現れる
しまった!回り込まれたか!
魔王ゼロス様!エイレースケイアが滅びるその日まで我らと共にいていただく!
ウィンの知り合いだ。できれば傷つけたくはない。飛んで逃げようか。
そう考えていたときだった。
ヘキサセクス!邪教徒たちめ!
灰色のローブを着た女がそこにいた
大丈夫ですか!
「「え!」」
僕とその女の声がかぶる
プリズマ!
マスターゼロス!
どうして君がここに!
いまにも囲まれそうだ。
悠長に話をしている暇などなかった。
いまは私についてきてください!
わかった!
原理の聖女!なぜあの女がここに!
聖女?まさか、プリズマ!君もなのか!
ヘキサセクスに追われているのとその口ぶりからしてどうやらウィンに会ったようですね!
あの子は絶望の魔女と言われる我々の敵!です!
何いいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!
信じられないことを聞き衝撃を受けていると
プリズマ様!
同じく灰色の衣服を着た信徒らしき人々がやってくる。
お前たち、共に戦いましょう。
「「はい!」」
マスター、話はあとです。
この原理の聖女が悪しきヘキサセクスを成敗します!
はあ!
魔法が飛び交い。氷の一撃が邪教徒たちを薙ぎ払う
凄まじい一撃だ。
通りが一瞬で凍結していく。
さあ、今の内です!
僕はプリズマのあとをついていく。
どうなっているというのだ!
・
・
・
・
・
プリズマのあとに続きたどり着いたのは大聖堂だった。
ここまでくれば大丈夫でしょう。改めて、お久しぶりです。マスターゼロス
プリズマ、会いたかったよ。
私もです。
デス・ムント・デスとの戦いで離れ離れになったあと、あなたはあれからどうしていたのですか?
僕は事情を説明した。
それはおつらかったでしょう。
でも平気さ、こうしてきみに会えたから。
そうでしたか。マスターゼロス、あなたにお願いがあります。
私に力を貸して・・・いえ、我々エイレースケイアに力を貸してもらえませんか?
それはもちろん!って、え?エイレースケイア?
ありがとうございます!これで我ら原理主義も・・・
・・・。
沈黙のあとプリズマは何かを考えた風なそぶりをすると
いまのやり取りは忘れてください。
え?
合わせたい人がいます。明日、会議室へ来てください。話はそれからにしましょう。
パンパン、ほらほら、お前たち!
プリズマが手をたたけば灰色のローブを着た信徒たちが現れる。
この方に寝床と食事を、丁重にもてなしなさい。決して失礼のないように、それから頼まれた要望はできるだけ叶えるよう。
そう指示を出せば
はっ!
と灰色のローブの信徒が頭を下げる
では、
そう言ってプリズマは行ってしまう。
ぷ、プリズマ?え!プリズマ!
唖然としていると廊下を曲がりプリズマの背が見えなくなる
さあ、こちらへ
灰色のローブの信徒たちに案内され寝室へ通されると真っ先に用意してくれた果汁のジュースを一杯だけもらい。
ごくり、と飲み込む
お風呂の用意をしてくれたようだが。とても入る気にはなれない。
体は疲れてはいないが心はボロボロだった。
そのままベッドに横になる。
プリズマ・・・原理の聖女・・・ウィン・・・絶望の魔女・・・・エイレースケイア・・・ヘキサセクス・・・。
もはや、何も考えないように僕は眠りについた。
・
・
・
・
・
・
次の日の朝、
会議室に行ってみると
プリズマがいた。それにミリアもだ。
ミリア!
マスターゼロス!
感動の再会、僕は一瞬泣きそうになるが。
彼女の服装を見てそんな気分が消し飛ぶ、じわりと背筋に嫌な予感がした。
ま、まさか!
ああ、この衣装?
ミリアは白い服を着ていた。それも格式の高いものが着るであろう豪勢な衣服だ。
それはつまり!
そう!私いま希望の聖女をやってるの!
やっぱりな!
こう見えて主神パリョ・テオスに仕える魔王を畏怖する聖なる教団エイレースケイアの聖女様エルピス・サンなんだから!
プ、プリズマ!これはどういう!
マスター、落ち着いてください。ゆっくり説明しましょう。
それから少しして僕が落ち着くのを待ち、話は始まった。
そのとき僕は思い出す。
そうだ!話をする前にロザリスが宿屋にいるんだった。
「「ロザリスが?」」
二人は驚いた表情を見せる。
ミリアが言う
死んだはずじゃ!
生きていたんだよ!
プリズマはパッ、と嬉しそうな顔をすると
そうでしたか!それならすぐに向かいを寄越しましょう!
そう言いプリズマが指示を出せば灰色のローブたちが動き出す。
迎えに行ってくれるようだ。
さて話を始めましょう。
私は原理の聖女プリズマ、その名の通り、エイレースケイアの原理主義者を導く聖女を務めています。
私は希望の聖女ミリア、その名とは関係ないけどエイレースケイアの近代主義者を導く聖女を務めているの。
そこの原理主義者とは同じエイレースケイアではあっても宗派違いの赤の他人!よ。
それは私も同じです!
二人はにらみ合う
二人ともなぜいがみ合っているの?
プリズマが言う
信仰の違いでしょう。この方は頭が固いのです。
それはあんたでしょ?
プリズマが本気でミリアを睨み付けると
・・・・・・・・・・・・・・・・・・いつか殺してやる。
それはこっちのセリフよ!
お互いにすさまじい眼力でにらみ合う。
いまにも殺し合いそうなのを何とか我慢しているのは互いの立場によるものか、僕がいるからなのか。
君たちなんで仲良くできないの?
もう遅いのよ!
そうです!なぜ私がこんな女と!
ふん、まあいいわ!この女がこうなのはいつものことだし。
そう言ってミリアは白目を向いてあーあーしょーがないですよね?プリズマさんですし!とでも言いたげに肩をあげて首をかしげるのだ。
これがよわい1000年を生きてきた賢者にも相当するであろう人間の姿とは師匠としては嘆かわしい限りだ。
うんざりしてきて僕は頭を片手で抱えた。
わ、・・・わかった・・・。それは置いておくとして、ウィンはどうしてああなったの?
それは私から、そう言いプリズマが説明してくれる。
この国の国王は元々、侵略戦争を繰り返していました。
同時期、帝国も侵略戦争を繰り返し、過剰な軍備の増強を行い始めます。
こちらも近隣諸国へ侵略戦争をした影響で軍備を増強していたところに帝国の勢力拡大に対抗する名目でさらなる軍備増強を始めました。
それは過重な税を民から搾り取り、貧困者を苦しめていったのです。
その貧困者を支えたのがウィンでした。
同じ頃、魔王デス・ムント・デスとの戦いで落ち延びた私達3人はそれぞれエイレースケイアの原理主義勢力、エイレースケイアの近代主義勢力、そして魔王崇拝者ヘキサセクスの3勢力に拾われそれぞれで信徒として席を置いていました。
そのままそれぞれの実力を認められ、こうして聖女へと登り詰めたのです。
そうして聖女となるまでには時間がかかりましたがその頃にはかなりの時間が経過しており、私達には力こそあれど、もう魔王デス・ムント・デスと戦おうとする気概は残されていませんでした。
アリシアの話を聞いたのはそんなときでした。
プリズマが悲しそうな顔をしうつむき、ミリアも悲しそうな顔をするがすぐに窓の外を見る。
エイレースケイア、邪悪な魔王崇拝者を畏怖する聖なる宗派、お前たち自身はマーゾが嫌いなの?
「「そんなことは!」」
ないわ!
ありえません!
二人が怒気を荒げて叫ぶ、心からの叫びなのだろう。
あの人は私にとって誰より大事なお方です。
そうよ!マスターは私たちを守って・・・
それでもダメなの?
ウィンともそのことで何度も対立したわ。
私たちはもはや個人ごとの立場を超えてそれぞれの代表として何度も殺し合い、憎み合い。
互いの勢力に対しおぞましい殺戮を繰り返してきた。互いの正義を信じて、もはやあの頃に戻ることなどできないのです。
こうして同じ場所にいられるのも同じエイレースケイアを名乗っているからで
マスターがいるからしかたがなくよ。
しかし、その本質はどうやっても相いれない。
そうなのか・・・。
プリズマは言った。
そこでマスター、あなたには決めてほしいのです。
私か、そこの女か。
エイレースケイアの原理主義と近代主義どちらに味方するのかを
はあ!?
驚くことはありません。あなたがいてくれれば私たちの勝利は確定する。
そう言ったプリズマの表情は氷付くほどに冷酷だった。
それもそうね。マスター、決めてよ。原理主義か近代主義か
そう言うミリアの瞳は怒りの炎に燃えていた。
冷酷な凍てつく氷と憤怒の燃え盛る炎の対立
お、お、お・・・。お前たち・・・。
この二人は・・・こんなにも変わってしまったのか・・・?
思い出すのはプリズマとミリアが笑顔で笑い合いながらロザリスの焼き菓子をうまそうにほおばっていた光景だ。
あれが、こうなったのか?なんとおぞましい!なんと愚かしい!なんと救いがたい!なんと・・・無様な・・・。
そのときだった。
お客様こちらです。
ガチャ
扉が開くと灰色のローブが入って来る。
お待たせしました。プリズマ様、お客様をお連れしました。
通しなさい。
プリズマがそう指示を出すと信徒の代わりにロザリスが入室してくる。
お久しぶりですね。ミリア、プリズマ
「「ロザリス!」」
打って変わって、一瞬で二人の凶悪な一面はなりを潜め、二人が泣きそうな顔になる。
それは僕も同じだった。彼女さえいればこの二人もまたかつてのように仲良くなれるかも!希望は見えた!
プリズマはロザリスに抱き着くと涙ながらに言った
会いたかった。死んでしまったかと!まさか生き残っていただなんて!
はいはい泣かないでください。プリズマ
そう言ってプリズマの頭を撫でる
ロザリス!ロザリス!
泣きながらロザリスに抱きつくミリア
あらあら泣かないでください。ミリア
そう言ってミリアの頭も撫でる
そのときだった!
プリズマ!離れろ!
誰かが叫び。
間一髪、ミリアは後ろに飛び跳ね、
プリズマを不思議な魔法の壁が守った。
プリズマはつぶやく
ろ、ロザ・・・リス・・・?
まがまがしい爪がロザリスの口からはみ出していたのだ。
なんだこれは!ロザリス!
たまらず僕は叫ぶ
うっすら気配は感じていたがやはりか
プリズマの背から聞きなれない声が響く。
これは!誰の声だ?それにこの魔力!プリズマのものではない!お前はいったい!
邪悪な意思はプリズマから姿を現す。
我が名はハノ・カルティ。この世界の創造主、この世に帰還した地球神だ。
その魔力、間違いない!貴様、異世界の邪神クリフォキタグマ!ようやく見つけたぞ!よもやこの地で合間見えるとは!長年の戦い、いまこそ決着をつけよう!
僕は言った
は?ハノ・カルティ?邪神クリフォキタグマ?ちょ、ちょっと待ってくれ!何がなんだか!
プリズマが訴える
ハノ・カルティ!やめてください!彼女は!
プリズマ、我が写し身よ。我はともかくやつは止まらぬぞ?
ミリアが叫ぶ、
どういうこと?ロザリスは主神パリョ・テオスを信仰するエイレースケイアの信徒だったはずでしょ!
ロザリスの口から化け物が姿を現すと。
ロザリスは言う
ミリア、おかしなことを言わないでください?
この方はケーゴメ・カイダロス、我が子を守れなかった非力な主神などとは違う。ティーモスの聖母ロザリスに宿りし、唯一無二の絶対神!
ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ!
ロザリスがケーゴメ・カイダロスへと変身すると天上を突き破り、建物を破壊して巨大な怪物が姿を現す。
なんとか別の屋根に着地すると僕はたまらず叫んだ。
ロザリィィーース!
ハノ・カルティが言った
な、なに!こいつは!
どうしたの?ハノ・カルティ!
クリフォキタグマでは・・・ない!
え!じゃあ、やはりあれが?
違うな。言わなんだが、パリョ・テオスはかつて我が滅ぼした。
え!
だがこの魔力、明らかにクリフォギタグマ、やつのそれだ!考えられるとすればクリフォキタグマがあの女に接触し取り込もうとはしたが、逆にあの女の精神か、あるいは強すぎる信仰心が、神の力を上回ったとしか!
そんなことがあり得るというの!
通常ではあり得ん、そんな人間がいるとすればその者はまともでいられるはずがない!
僕はつぶやく。
そんな・・・・・・ロザリス・・・・・・それほどまでに君は、思い悩んで・・・・・・。
プリズマが言う。
しかたがない!邪神ハノ・カルティ!力を貸して!
盟約があるとは言え、神である我に指図するな!人間がっ!
そう毒を吐き
フオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ハノ・カルティがうなるとロザリスがハノ・カルティへと変身する。
王都の中心に巨大な邪神と邪神、2体の魔王が対峙する。
灰色のローブを着たプリズマの信徒が叫ぶ、
おおおおおおおおおおおおお!あれこそ我らのゲー・ミテラ!原理の聖女!その力の化身!
両者が激突すると、激しい戦いが繰り広げられていく。
やめるんだ!ロザリス!プリズマ!
ダメだ声が届いていないのか聞いてもくれない。
二人を止めなくちゃ!
双剣杖を振るい叫ぶ
黒魔法・メラース・アバター!
黒い巨大な人間が姿を現す。
プスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスッ!
僕もメラース・アバターを呼び出すとそれを見たエイレースケイアの信徒たちが叫ぶ、
あれは!魔王メラース・アバター!彼の魔王がなぜミリア様のおそばに!おのれ!魔王め!我らを!ミリア様をたばかったな!
石が飛んでくるとカン、と跳ねた。
きっともう、この街には完全に住めない。一瞬そんな打算が脳裏をよぎる。ミリアやプリズマと一緒に生活することもできたかもしれない。はかない可能性の話だ。
だが、いまは、それどころじゃない!
決意をあらわに僕は振り返る。
ロザリーース!
プスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスッ!
ゼロス!晩御飯は何にしましょうか?
え!
ロザリスから関係ない言葉が飛んでくるとメラース・アバターの腕が簡単に溶かされていく。
プスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスッ!
口から悲鳴が漏れた
溶けた腕がドン!と落ちる。
ケーゴメ・カイダロスから打ち出された強力な硫酸弾だ!
切断面から融解して継続的に破壊されていく。
再び彼女の名を叫ぶ
ロザリス!
あれ?包丁がないわ。包丁が
ダメだ。いまの彼女は包丁を探している!
幸せな頃の記憶の中をさ迷っているのかもしれない。
プリズマのハノ・カルティが前に出ると強大な氷魔法を連射する
まるで雷かと錯覚させる速度でいくつも巨大な氷が降り注ぐ
ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!
凄まじい衝撃音だ。
30発、直径40mの氷が王都上空を飛び、ケーゴメ・カイダロスを打ち砕こうと飛来する。
ケーゴメ・カイダロスは素早く加速するとくるくると回転し、時に大きく跳躍し、時に氷の上を転がり、まるで氷の上をバネが弾むように避けていく
やめろ!プリズマ!
マスターゼロス!しっかりしてください!あれは王都に害を成す敵ですぅぅ!
敵って・・・。そんな・・・。
マスタ~ゼロス~、包丁どこですか~。
ケーゴメ・カイダロスは小高い建物の上に両手を付け、しゃがみこむと、キョロキョロと周囲を見回してから、ペロペロと蛇のように素早く舌を出す。
理性を感じさせない。獣の動きだった。だが・・・。
ミリアはがれきの中で大ケガをした信徒たちに魔法をかけている
死ぬんじゃないわよ!この程度の傷!
ああ、ミリア様、我がエルピス・サン・・・。
うるさい!私が治療してるんだから死ぬんじゃない!
ワラワラと民衆が集まって来ると、
あれこそ、ケーゴメ・カイダロス様だ!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!
民衆は狂ったように喜び踊り出す。
白いローブを着たエイレースケイアの信徒が叫ぶ
お前たち!いったいどういう!
うっ、
声をあげたエイレースケイアの信徒が背後から剣で刺し殺され、同じように次々民衆に切り殺されていくて。
くっ、こいつら!強いぞ!ぐぁぁ!
ただの民衆じゃない!ティーモスだ!間違いない!異端の邪教め!帝国だけでなく王国内にまで潜伏していたのか!応援を呼べ!
大変です!大聖堂のある方角から火が!
なんだと!
王国内は大混乱に陥っていた!
何が起きているというのだああーーー!グサッ!
叫んでいた男の頭に弓矢が突き刺さった。
ケーゴメ・カイダロスは辺りをうろうろし始める。
包丁、包丁、あったわ!包丁!
そう言ってケーゴメ・カイダロスと化したロザリスは建物を引き抜くと腕と建物が同化して鉄塔のような剣へと姿を変える
しゃはぁぁぁぁぁぁぁぁ!
もはや彼女とは似てもにつかない奇声をあげ襲いかかってくるのだ。
どいてください!マスター!
ハノ・カルティと化したプリズマが僕らを突き飛ばす
待って!プリズマ!
僕の目の目に身を乗り出すハノ・カルティと化したプリズマがケーゴメ・カイダロスに襲い掛かるが
そのハノ・カルティの背をメラース・アバターが手で引き寄せると
きゃ!
バランスを崩すハノ・カルティ
そこにケーゴメ・カイダロスの鉄塔の剣がハノ・カルティと化したプリズマの胸に突き刺さる
ぐぎゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
プリズマーーーーーー!
ケーゴメ・カイダロスは鉄塔の剣を引き抜くと左右に振り回し何度も打ち付けてきた。
メラース・アバター!
プスップスッ!
メラース・アバターが背を盾にして防ぐ。
フヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!カレーでもいいですけど、私はパン派ですね!スープとパンがよく合うんです!
ロザリス!正気に戻るんだ!
あら?お砂糖を加えないと
ジュワァァァァー!
ケーゴメ・カイダロスの口から硫酸が雪崩だしメラース・アバターの背を焼き払う。
プスップスップスップスップスップスップスップスッ!
メラース・アバター!しっかりしろ!
・
・
・
・
・
・
ミリアは信徒たちを見捨てることができず、治癒を続けていた
しっかりして!
目の前でメラース・アバターが投げ飛ばされ建物に激突する
私も!ロザリスを助けなきゃいけないのに!
そう悲痛に叫びながら信徒の治療を続ける。
弱った人間を置いてはいけない。それは彼女の優しさだった
そのときだった。
フフフフフ、誰かと思えばミリアじゃない?
黒衣の衣服を着た美少女が背後に黒い服を着た信徒たちを連れて歩いてくる。
ウィン・・・あんた、どうして。
王都がこんなににぎわっているんですもの。この愚かしい国を破壊する絶好のチャンスじゃない?
ロザリスがあんなことになってるのに!あんた!
ロザリスが?
そう言ってウィンは上を見る
あの怪物がロザリス・・・?
マスターゼロス~!みんなを呼んできて~晩御飯の時間よ~!
あ、あんな化け物が・・・ロザリス?何を馬鹿な!
本当よ!ウソなんてついてどうするのよ!
フフフ、ああ!そうですか・・・そうでした。そうでした。また騙すのね?この国にひねりつぶされた人たちの時のように、悲しみの嘆きを無視して!
私はそんなつもりじゃ!
いいわけしないでよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
ウィンがまがまがしい力に取り込まれ変身すると巨大な怪物がその姿を現す。
魔王トゥリパだった。
ただ長年の修行によって極まったその力は半身でありながら魔王1体分と同等の力を得るに至ったのだ。
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
うなり声をあげるウィンの魔王トゥリパ。
黒い服を着たヘキサセクスの信徒たちが叫ぶ
なんと邪悪な姿!あれぞ我らが絶望の魔女様!アペルスフィア・マギサ!ウィン様の邪悪なる力の化身!
ミリアは怒りのままに叫んだ
この、わからずやがああああああああああああああああああああああああああああああ!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
うなり声をあげミリアの魔王トゥリパが姿を現す。
同じ力を持ち同じ頻度で修行を行い、均衡する力を得る。
皮肉にも両者の力は同等だった。
白い服の信徒たちが叫ぶ
おおおおおおおおおおお!あれこそ我らの希望の聖女、エルピス・サン!ミリア様の聖なる力の化身だ!
美しい魔王が姿を現す。
誰もが魔王トゥリパなどとは思えない美しい怪物だ。
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ウィンが全力で襲い掛かれば
うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ミリアの全力が襲い掛かる
二つの力が衝突し、背後にいる信徒たちを守りつつみ、街だけが衝突する余波を受けて壊滅していく。
ミリアの赤い炎が直径20mほどのコロナとなって左右に振りぬかれるそれはまるで炎の拳だ。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ウィンの炎は青く、ミリアと同等の威力を持ち、同じように青い炎の拳を思わせる動きを見せ、ミリアの白いトゥリパに襲い掛かる
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
ミリアの胸部に炎が瞬間収束する。炎が凝縮されていくのがわかった。
強大な一撃が放たれようとしている。
させない!
ズゴゴゴゴゴゴゴ!
ウィンが強烈なタックルをして突き飛ばす、するとミリアの胸部から赤い炎のビームが噴出し、天を真っ二つに両断してみせる。
爆炎で黒く曇っていた空が一気に晴れ渡った。
ウィイイイイイイイイイイイイイイン!
激怒したミリアの両手が触手となってウィンの黒いトゥリパを空中につるし上げる。
そこに
ウフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフフ!
不気味な笑い声をあげたケーゴメ・カイダロスが飛来すると両者を鉄塔で斬り付ける
うああああああああああああああああああああああああ!
きゃあああああああああああああああああああああああ!
悲鳴をあげ二人は別々の方向に吹き飛ばされる
同時に魔王の鉄よりも硬い表皮に鉄塔がこすれた。
鉄と鉄がこすれるかのように凄まじい火花が雨となって降り注ぐと真下にいた民衆が燃え盛る
ぐぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!
他にも地面をまるごとえぐり取る一撃ががれきの下敷きになり苦痛に苦しむ民衆もろとも道をかき消す。
これぞ、地獄だった!
ここはまさに地獄だった。
どうしようもないほどに地獄だった。
5体の魔王が王都の夜空に集う。
僕はプリズマを心配して呼びかける
プリズマ!しっかりしろ!
ウキャキャキャキャキャキャ!
笑い声をあげるとケーゴメ・カイダロスはピョンピョン跳ねて空を移動していく
待って!ロザリス!
プリズマ!
ぐうう・・・やってくれますね・・・ロザリス・・・。
口から緑の血を吐きながら立ち上がる
大丈夫なの?
これくらい!
このまま、傷ついたプリズマを残しては行けない。でもそれだとロザリスが・・・。
迷った末、僕は決める。行くしかない!
僕はロザリスを追いかけることにした。
プリズマ・・・すまない。
構いませんよ。・・・いまさら・・・。
その言葉には強い拒絶の意志が宿っていた。
ゾッ、とした。
1000年、放っておいた。完全に埋まらない溝を感じとるには十分な言葉だった。
彼女の心中を察するならエイレースケイア勢力拡大以外に僕に対しての存在価値はない。そう思っているのだ。
きっと、ミリアも同じなのだろう。似たような気持ちなのだろう。
・
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目の前のゼロスの背を見ながらプリズマは言った。
ハノ・カルティ!立てますか?
無論だ。
私たちはあの二人から街を守りますよ?
そう言ってミリアとウィンたちの方を振り向く
我が宿敵を前に何をふざけたことを!
従いなさい!邪神ハノ・カルティ!
お、お、お、お、おのれえええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!
怒りの声を叫びながら、ハノ・カルティはプリズマの意思にしたがい立ち向かう
そのときにらみあっていた白と黒の魔王トゥリパが動いた。
ミリアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーー!
ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオーー!
ウィーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
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白と黒、二つの魔王が激突し大爆発が足下まで迫ってくる
高度4000フィートの上空からケーゴメ・カイダロスを捕らえる。
ロザリーーース!
メラース・アバターが急降下してタックルを食らわせるとクレーターができあがった。
はっ!
次の瞬間、クレーターがまるごと酸の池と化す。
こ、これは!まずい!逃げなければ!
水中の中だと言うのに濃密な酸がベタベタと魔力シールドに降り注ぐ。
油断していれば瞬時に死んでいただろう。
一方でメラース・アバターはもろに酸をあびながら泥水から飛び出す
その背にのしかかるようにケーゴメ・カイダロスが現れるとメラース・アバターの首に剣を突き立てる
酸によって弱った体に鋭利な鉄の剣が食い込んでいく
く・・・・
後ろを振り返り、頭上を見上げれば
僕を見下ろすケーゴメ・カイダロスが口の端をぐにゃりとゆがめながら目を細めると言った
マスターゼロス、おかえりー!
ロザリス・・・・・・ごめん!
メラース・アバター!
プスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスップスッ!
メラース・アバター目に光が収束するとピンクのビームが炸裂する
メラース・アバター最強の必殺技ロドクロース・ピュルゴスだ!
ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
ピンク塔が生成され、熱風が周囲の森林を焼き払い。
光がすべてを覆い隠した。
光がかき消え視界が戻ってくる
ザアアアアーーー!
酸の雨が周囲一帯に降り注ぎ、近隣の山と森をドロドロに融解させていく。
ロザリス・・・。
周囲を見渡すと粉砕されたケーゴメカイダロスの顔が転がっていた。
ロザリス・・・。
怪物と化したロザリスから流れる血と肉が広がっていく。
臓器をよく観察するように見ていると言いようもない悲しみがわきあがる。
これが・・・これが・・・僕の守ったものか!
ロザリスの・・・彼女の末路か・・・?
答えてくれ・・・・・・マーゾ。
かつての亡き友からは無論、答えは返ってこない。
悲しさが、失望が、絶望感が、言いようもない怒りがわきあがってくる。
みんな変わってしまった。
1000年、僕が放っておいた。
変わってしまったんだ。
狂おしいほどの悔しさが、悲しさが、嘆きが、胸の中で渦巻いていた。




