第8話目覚めたタクヤ、ナツミの涙
第8話: 目覚めたタクヤ、ナツミの涙
タクヤは意識を失った。目の前が真っ暗になり、体中が痛む感覚だけが残っていた。ナツミの泣き声が遠くから聞こえ、彼の意識はすうっと遠のいていった。
「タクヤ……タクヤ…!」
ナツミの声が、まるで天井を突き破ってタクヤの体に響くようだった。タクヤの心臓は強く、しかしゆっくりと鼓動を打ち始めていた。彼は目を開けることなく、ただその声を聴き続けた。あの一瞬の感覚が彼を動かすエネルギーになった。
彼の体は痛みで満ちていて、まるで骨の一つ一つが砕けているかのようだった。しかし、何かが彼を動かす。タクヤはその痛みを力に変えて、何とか目を開けた。
―――
数日後、タクヤは病院のベッドで目を覚ました。点滴が腕に刺さり、心電図の音が規則正しく響いている。タクヤは無意識に体を動かそうとしたが、すぐにそれが不可能だと気づいた。全身が重く、動かしづらい。
「うっ……」
タクヤが小さくうめくと、すぐにナツミが駆けつけた。その顔は涙で濡れており、目を赤く腫らしていた。タクヤが目を開けた瞬間、ナツミは泣きながらタクヤの手を握りしめた。
「タクヤ…!よかった、目を覚ましたんだね…!」
タクヤはその言葉を聞いて、少しだけ力を込めてナツミの手を握り返したが、その動きは微弱で、痛みを伴っていた。
「ナツミ…」
タクヤはかすれた声で呼びかけ、彼女の顔をじっと見つめた。ナツミはすぐに涙をぬぐおうとしたが、どうしても涙が止まらなかった。
「タクヤ、あなたが倒れた時、私は本当にどうしようかと思ったの。あなたがあんなに傷だらけになって……もう、二度と会えなくなるんじゃないかって、怖くて、怖くて……」
ナツミは嗚咽を漏らしながら、顔を背けて泣いた。タクヤはその姿を見て、痛みを感じた。それだけではない、心が締め付けられるような感覚が彼を襲った。
「お前……俺が守ったんだろ?大丈夫だって、泣くなよ…」
タクヤはなるべく元気そうに見せようとしたが、その力はすぐに限界が来た。傷だらけの体では、いつも通りに大きな声で笑うことすらできなかった。それでも、ナツミのために必死で言葉を絞り出した。
ナツミはその言葉に涙をぬぐったが、すぐにまた泣き顔を見せた。彼女は涙を流しながら、タクヤの手を握りしめた。
「でも…でも、あなたがあんなことをして、こんな風になったのは私のせいだと思ってた。私が捕まって、あなたが助けに来てくれて、あんなことになって……本当に、本当に怖かった。」
「おい、ナツミ…。お前が悪いわけないだろ…あのヤンキーたちが悪かったんだ。俺が…俺が守るって決めたんだから。」
タクヤは苦しそうに微笑みながら答えた。けれど、ナツミの涙が止まらない。
その後、タクヤは2週間もの間、病院で寝たきりだった。医者はタクヤの命に別状はないと告げたが、その間、彼はずっと意識を失っていた。目を覚ました時にはすでに周囲の時間が進んでいて、ナツミは彼の回復を見守り続けていた。
ナツミは毎日、タクヤの病室を訪れ、手を握りながら彼が目を覚ますのを待ち続けた。彼女はタクヤが目を覚ますまで、何度も何度も涙を流した。最初は涙が止まらなかったが、だんだんとその涙が悲しみから解放された喜びの涙に変わっていった。
そして、ようやくタクヤが目を覚ました日の夜、ナツミはもう一度、彼に自分の気持ちを伝えることができた。
「タクヤ、私…あなたがいなくなったら、どうしようかと思った。でも、こうしてあなたが目を覚ましてくれて、私、ほんとうに嬉しい。あなたが強くて優しいって思ってたけど、実際はすごく無茶をして、でも、私を守ってくれるって本当に感じた。」
タクヤは少し驚いた顔をしたが、すぐにその言葉を胸に受け止め、優しく笑った。
「ナツミ、お前が泣いてたから、俺も元気を出さなきゃって思ったんだ。俺がここで倒れてたら、お前がもっと悲しむだろうと思って…だから、俺は絶対に起きてやるって決めたんだよ。」
タクヤは少し痛そうに体を動かしながらも、ナツミを見つめて言った。彼の顔には強い決意が見えたが、それでもどこか優しさが滲み出ていた。
「だから、もう泣くな。俺が守るから。」
ナツミはタクヤの言葉を聞いて、再び涙を流しながらも、今度は笑顔を見せた。タクヤの手をしっかりと握りしめ、静かに答えた。
「ありがとう、タクヤ…本当にありがとう。」
その日、タクヤとナツミは再び強く結びついた。タクヤがナツミのためにどれだけ強くなり、どれだけ守ろうとしているのかが伝わってきた。どんなに無茶をしても、彼はナツミのために強くあり続けると誓った。




