第60話刻まれた呪い
**第60話:刻まれた呪い**
名古屋――。
かつて東海地方の中心として栄えた大都市。
その街もまた、アキラ教の狂気の炎に呑まれた。
午後2時43分。
**名駅タワーズが、光に包まれた。**
轟音もなく、空間そのものがねじれたような衝撃。
続く爆発は、街の骨格を破壊し、十数キロ圏内のすべてを焼き尽くした。
> 「信じなかった都市に、慈悲はない。」
それが、教団が全国へ発信した“宣告”だった。
───
廃寺の地下。
もはや絶句しかなかった。
太田が、地図の名古屋の地点に×を記す。
佐藤がつぶやいた。
「……これで、名古屋、東京、札幌、福岡、仙台、長野……主要都市のほとんどが“処刑”された。」
「やつらは都市だけを殺してるんじゃない。“国”そのものを一つずつ、削ってるんだ。」由紀子が言う。
「そして今度は……**“人”そのものを壊しにかかってきた。**」
───
全国の刑務所に、アキラ教が次々と“新しい管理者”を送り込んでいた。
その名も――**“信仰維持課”**。
囚人たちは一人ひとり拘束され、頭部の皮膚を切開された。
そして、脳幹に近い位置へ、**“忠誠維持用マイクロチップ”**が埋め込まれた。
表向きには、「再教育の一環」「更生プログラム」と説明されたが、実態は――**“即時処刑システム”**だった。
> **“アキラを冒涜する言葉”を発すると、即座に心拍が停止。**
> **“反抗的態度”を記録されれば、体温を急激に低下させ死亡。**
試験導入された東京湾沿いの監獄では、**3日で27人の受刑者が死亡した。**
ひとりは独り言で「信じられないな」と呟いた。
ひとりは、祈りの時間に目を閉じるのを忘れた。
ひとりは、「俺は殺してなんかない」と言っただけだった。
───
レジスタンスの拠点で、タクヤはチップの構造データを見ていた。
「こいつは……単なる拷問だ。『支配』じゃない。**“実験”だ。**」
「何の……?」由紀子が尋ねる。
「“国民全員をチップで縛れるか”って実験だ。」
タクヤの目は、焦りよりも怒りに満ちていた。
「つまり、これはただの序章だ。受刑者は最初の“サンプル”に過ぎねえ。成功すれば次は、一般人だ。学校に。会社に。病院に……」
「アキラ教の国じゃなくて、**アキラ教の“人体ネットワーク”になるってこと……?」佐藤が口を開いた。
「その通りだ。」
タクヤは、モニターの赤く点滅する“実験成功”のログをにらみつけた。
「……止めなきゃ、俺たちの“心”まで、乗っ取られる。」
───
そしてその頃、アキラ教の幹部は、静かに報告を受けていた。
「忠誠チップ、成功率は95%。現在、次の対象は――**高校生と自衛隊関係者**でございます。」
アキラは静かに微笑んだ。
「よい。では、次の祭壇を用意せよ。」
「次の爆破対象は?」
「……大阪だ。**“民衆の心”を折るには、まだ炎が足りぬ。**」
───
焼かれた名古屋の瓦礫の下。
祈りもなく、ただ崩れた街に吹く冷たい風。
その中に、抗う者たちの叫びが響き始めていた。
「チップなんかに、俺たちの心は奪えねえ。
……“自由”だけは、絶対に渡さねえからな――アキラ。」




