第56話裏切りの報酬
**第56話:裏切りの報酬**
氷川キャンプ場の夜。霧のかかった杉林に囲まれ、タクヤたちは小屋の中で黒川記者を迎えていた。
「……よく来てくれましたね、黒川さん。」佐藤が言う。
「こんな山奥、まるで秘密基地じゃないか。アジトとしては優秀だ。」黒川はニヤリと笑っていたが、その目は笑っていなかった。
タクヤは机の上に並べたアキラ教の関係資料を指差した。
「これが今まで集めた情報。内部構造、支部の候補、そして信者の動き。あんたのネットワークを使って拡散してほしい。」
黒川は一枚一枚を手に取りながら頷いた。「分かった。これは……世間が知らなきゃいけない真実だ。」
そう言って、彼は資料の一部をバッグにしまった。
───
それから二時間後。
深夜の静けさを破るように、**“ジャッ”**という無線の音が、佐藤のイヤーピースから流れた。
「……!? 監視ドローンが撃ち落とされた。林道に複数の熱源接近、銃器装備……これは――警察じゃない、特殊部隊だ!」
タクヤが顔を上げた。「まさか……!」
ドアが開いた。
「悪いな。あんたたち、詰んだよ。」
そこに立っていたのは、黒川だった。手には、小型の発信機。そして背後には黒づくめの“警察”部隊が数名、銃を構えていた。
「アキラ教の“情報省”ってのがあってな。記者や報道を装って潜り込むのが俺の仕事だったんだよ。」
「てめぇ……!」太田が即座に飛びかかるが、黒川は催涙スプレーを噴射。太田は咳き込みながら床に倒れた。
タクヤは即座に判断した。「逃げるぞ!ルートC!」
佐藤がバックドアのロックを外し、由紀子が荷物を肩にかけて走り出す。
キャンプ場の裏山へと続く“獣道”を、彼らは駆け出した。
背後で銃声が鳴る。木々が裂け、焚き火の煙と混ざった土煙が舞う。
「こっちだ!」佐藤が叫ぶ。「川沿いを行け!あの吊り橋を渡れば、山向こうの旧道に出られる!」
途中、由紀子が振り返ると、黒川が無線で「対象、逃走中、捕獲優先」と話していた。だが、そのとき彼女の投げた小石が――近くの蜂の巣に命中した。
**ブワァアアアア……!!**
黒川が「うおおおお!?!?」と叫び、蜂に追いかけられながら転げ回る姿が背後に消えた。
吊り橋を渡り切ったタクヤたちは、もう一度だけ、振り返った。
燃えかけたキャンプ場、ライトに照らされる特殊部隊。かつての“安息の地”は、完全に敵の手に落ちていた。
「……やっぱり、誰も信じられないな。」タクヤが低く呟いた。
「違う。まだ俺たちがいる。」佐藤が答えた。
「そして黒川はもう、戻ってこれない。」由紀子の目には、怒りと哀しみの火が宿っていた。
その夜、タクヤたちは再び名もなき山道を進み、暗闇の奥へと姿を消していった。
次の拠点は、まだ決まっていなかった。
だが確かなことが一つ。
**“今度は、騙されない。”**
そして、アキラの息がかかったものは――**すべて切り捨てる。**




