第54話新たな作戦
第54話:新たな作戦
線路の脇に静かに佇む、名鉄舞木検査場の裏側。
使われなくなった資材倉庫の一角に、タクヤたちの新たなアジトがあった。天井は低く、雨漏りの跡が壁を染めている。だが、その閉鎖感こそが今の彼らにはちょうど良かった。
「……来るぞ。」
佐藤タクトが呟くと同時に、外からガタンゴトンと鉄の車輪がレールを噛む音が近づいてきた。全員が無言で身を低くし、倉庫の奥へと身を隠す。検査場に進入する電車は、必ず作業員の目がある。その目に触れないよう、何度もこの動作を繰り返していた。
電車が通過し、モーター音が遠ざかる。タクヤは身を起こし、ホワイトボードに描かれた愛知県の地図を見つめた。
「……そろそろ、動く時だ。」
それぞれが椅子に腰掛け、タクヤの言葉に耳を傾けた。
彼の目には、もはや迷いはなかった。
「アキラ教の中心建物はまだ掴めてないが、いくつかの支部と思しき拠点の情報が佐藤から入ってる。特に、岡崎市北部の山間地にある元自然教室。ここが怪しい。」
「周囲に住民はいない。山道も封鎖されていて、一般人が近づくには不自然なほど警備が薄い。逆にそれが怪しい。」佐藤が説明を加える。「衛星画像とドローン映像で確認したが、夜間に発光が見られた。人工的な照明だ。」
「儀式の可能性があるってこと?」中島由紀子が眉をひそめる。
「可能性は高い。少なくとも、信者の集会場か、洗脳施設……あるいは、アキラ自身が一時的に滞在しているかもしれない。」佐藤の声には確信があった。
太田さんが腕を組みながら言う。
「だが、突っ込むには情報が足りない。俺たちはまだ脱獄したばかりで、追われてる身だぞ。何かしら外部の協力が必要だ。」
「太田さん、前に言ってた“週刊正報”の黒川って記者、連絡取れる?」タクヤが問う。
「古い連絡先はある。あいつは過去にアキラ教を調べてた。今も記者を続けてるなら、俺たちの行動に興味を持つはずだ。」
「なら、俺たちは三手に分かれる。」タクヤが言った。「太田さんは黒川に接触。佐藤はネット上の信者の動向と施設の監視を続ける。由紀子、俺と一緒に山中の自然教室に向かって偵察だ。」
由紀子が静かに頷く。「下見だけでいいのよね?」
「ああ。戦うのはまだ早い。内部構造や出入りの頻度を知るだけでいい。少なくとも“儀式”が定期的に行われてるなら、そこにアキラ本人が現れる可能性はある。」
「……でも、もしも中にアキラがいたら?」由紀子の声に、場が一瞬沈黙する。
「……その時は、その場で決める。」タクヤの声は低く、だが揺るがなかった。「まだ、失うわけにはいかない。」
時計の針が深夜を指す。遠く、再び電車のライトが検査場へと滑り込んでくる。
全員が自然と静かになり、身を伏せる。
夜の中、名鉄の車両の光が線路を照らして通過していく。その灯りに、再びタクヤたちの顔が照らされる。誰の目にも、恐れはなかった。ただ、決意だけがあった。
彼らは再び立ち上がった。今度こそ、アキラを倒すために。




