第11話目を覚ましたナツミ
第11話: 目を覚ましたナツミ
二年間の沈黙
タクヤはナツミのことを、心の底から思い出した。あの事故があってから、すべてが変わってしまった。ナツミは目を覚まさないままで、タクヤもまた、眠り続けていた。二年間という月日が、彼の手からすり抜けていった。それでも、ナツミが目を覚ますその日を信じて、彼は日々を過ごしていた。
病院の中で、彼の体が回復するのを見守る母親や友達の支えを受けながら、タクヤは時折ナツミのことを夢に見た。無理に笑っているナツミ、いつものように歩く姿、何気ない日常が次々とよみがえる。その度に、心が締め付けられた。
そして、その日が来た。
目を覚ました瞬間
寝ている時なんか体を叩かれてる感じがして暖かい水滴が落ちてくる感じがしたタクヤは目を開けると、驚いた表情でその人物を見つめた。
「ナツミ…?」
そこに立っていたのは、まさにナツミだった。
彼女はまだ病院のベッドに横たわることができず、少しフラつきながらも、必死に立っていた。タクヤの目の前に現れたその姿に、タクヤは信じられない気持ちが込み上げてきた。
「ナツミ…」タクヤは声を震わせながら呟いた。その言葉が聞こえた瞬間、ナツミの目がゆっくりとタクヤに向かって動き、かすかに微笑んだ。
「タクヤ…」ナツミは弱々しい声で返す。彼女の目には涙が浮かび、笑顔の中に深い思いが込められていた。
その瞬間、タクヤの胸が痛んだ。彼はすぐにベッドから飛び起き、ナツミのところへ駆け寄った。
「ナツミ、ナツミ…お前…目を覚ましたのか?」タクヤは信じられないという表情でナツミを見つめる。ナツミは少しだけ頷くと、ふらつきながらもタクヤの腕に支えられて立ち上がる。
「うん…でも、少しだけ体がまだ辛い…」ナツミは小さな声で言った。
その言葉を聞いたタクヤは、すぐにナツミの背を支え、優しく抱きしめた。
「ごめんな、ナツミ…俺があの時、もっとしっかりしていれば…」タクヤは涙を浮かべながら、ナツミを強く抱きしめた。ナツミはその言葉に静かに笑い、タクヤの背中に手を回して応えた。
「タクヤ…、何も謝らないで。私はずっと、あなたを待ってた。あなたが目を覚ますその時を、ずっとずっと信じて待ってたの。」
その言葉に、タクヤの胸が熱くなり、言葉にならない思いがこみ上げてきた。ナツミが目を覚ましたその瞬間、全てが戻った気がした。彼女のために、どんなことでもやる覚悟が決まった。
過去の後悔と新たな決意
二年前の事故を思い出すたびに、タクヤは自分の無力さを感じていた。あの時、もし自分がもっと冷静で、ナツミを守ることに集中していれば、二人の運命は違ったかもしれないと。だが、今はそんな過去にとらわれるわけにはいかない。
ナツミが目を覚ました今、タクヤは新たな決意を胸に抱いていた。二人で歩む未来を、どんな障害があろうとも共に乗り越えていく。そのために、過去を背負うのではなく、前を見て歩み続けるんだ。
「ナツミ…ありがとう。」タクヤは小さく呟くと、ナツミの手をしっかりと握りしめた。
「うん、私も…タクヤが目を覚ます日を信じてたから。」ナツミは優しく微笑んだ。その表情は、どんな苦しみも乗り越えた強さを感じさせた。
ナツミが目を覚ましたことで、タクヤの中で何かが変わった。もはや、過去に縛られることなく、彼女と一緒に歩む未来に目を向けることができるようになった。二人はゆっくりと病院の廊下を歩きながら、これからのことを語り合った。
「これから、どうする?俺の中2の時無免許のバイクは廃車になったけど」タクヤがナツミに尋ねると、ナツミは少し考えた後、にっこりと笑った。
「一緒に歩いていこう。少しずつ。」ナツミはそう言いながら、タクヤの手にキスをした
それはタクヤにとって何よりも力強く感じられた。彼はこれからも、ナツミと共に歩んでいくことを心に誓った。二人で、過去の痛みを乗り越え、新たな一歩を踏み出すことができたからこそ、未来には希望しか見えなかった。
「よし、俺たち、どんなことでも乗り越えられるさ。」タクヤは強い決意を込めて言った。
「うん、一緒に。」ナツミは、嬉しそうに答えた。
そして、二人は手を繋いで、病院の外へと歩き出した。再び始まった二人の新たな物語は、きっと明るい未来を照らしてくれるだろう。