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子ども達に会うために

 メイド服を頂戴という私の言葉に青ざめるニコラ。

 目の前の彼女は、自身の手でメイド服を隠すように体を覆った。


「な、なにをなさるのですか」


「ふふ、よいではないか、よいではないか」


「お戯れはよして」


「ふっふっふ……って、こんな事してる場合じゃないのよ。

やりたい事は山ほどあるの」


「マリアンヌ様から仕掛けた事ではありませんか」


「まぁ、そうなんだけど。とりあえず、私にも着られるようなメイド服が欲しいの」


「では、調達してまいりますので少々お待ちください」


「あ、それと、子ども達の一日のスケジュールを教えて欲しいのだけど」


「はぁ……承知致しました」


 ニコラは私の要求に疑問に思いながらも答えてくれた。

 メイド服についているポケットからメモ用紙とペンを取り出して、スラスラと文字を書きだした。


 しばらくして書き終わったメモを受け取り、目を通すと、そこには子ども達の予定が細かく書き記されていた。


 彼女にお礼を言うと、軽く会釈して部屋を出て行った。

 おそらく、メイド服を取りに行ってくれたのだろう。


 部屋に一人残った私は、ニコラがくれたメモ用紙を頭に入れながら、この後を考えて三面鏡の前で身支度を始める。


 三面鏡の台の上には少し大きめのボックスが二つ並んでいる。

 おそらく身支度を整えられる物が入っているのだろう。

 二つのボックスを開けてみると、予想通り片方は多種類の化粧品や道具が入っており、もう片方はブラシやいくつもの髪飾りが入っていた。


――よし、まずは髪型からね。そしてメイクも濃いから、薄くしよう。


 金色の少しウェーブが掛けられている髪全体にブラシを通して、ボックスに入っていた髪留めを使って少し上にまとめ上げた。

 いわばポニーテールだ。


 そして次にお化粧を整える。

 少し濃く施されているおしろい等を三面鏡の前にあるクレンジング材で落としていき、新たに薄く肌に乗せていく。


 現代日本でもやっていた事だ。

 慣れた手つきでそう時間も掛けずに終わらせると、扉がノックされ、ニコラが入ってきた。


「お召し物お持ちしました……えっと……どちら様ですか?」


「何言ってるの、ニコラ……私よ、マリアンヌよ」


 それほどまでに変わるだろうか。

ニコラは振り返った私を見るなり、目を見開いてその場で固まってしまった。


「いつものお化粧ではないので……何と言いますか……キツイ印象はなく……えっと……私は今のお化粧の方が好みです」


――たしかに、マリアンヌのメイクは目力がすごくてキツく見えたんだよね。

でも、真正面から褒められると照れるな。


「ありがとう。ところで、メイド服はあった?」


「はい、こちらに。一応、靴もお持ちしました。ですが……どうなさるのですか?」


「どう……って、着替えるの。持ってきてくれてありがとう」


 私は笑顔でお礼を伝えてニコラから服達を受け取ると、さっそく着替えを始めた。

 ドレスからメイド服に着替え、靴も高いヒールから(かかと)の低いローファーに履き替えた。


「これで動きやすくなった! どう? 似合う?」


「は、はい……よくお似合いです」


「ありがとう! 仕立て屋が来て新しい服が出来るまでこの格好で行くわよ!」


 身軽になった私は、戸惑うニコラをよそに勢いよく部屋を出た。

 だが、目的地の場所までの道のりがわからない事に気づき、慌ててニコラのいる方に振り向く。


「ニコラ! メイドさんたちがお茶を準備する場所ってどこ?」


「お茶……ですか? 給湯室でしょうか? それでしたら、厨房の隣です」


「そこに行きたいの! また道案内お願い!」


 私が少しまくし立てるように詰め寄ったせいか、ニコラは戸惑いを見せる。

 だが、それでも頷いてくれて私の前を歩き出し、目的地まで案内してくれた。


 歩く事数分。

 給湯室に着いた私は、ニコラについて行く形で中に入る。


 給湯室の中にはメイドが数人おり、テーブルに向かって座り、休憩を取っている者やお茶の用意をしている者がいた。


――ここ、メイドさん達の休憩にも使われるのかな。テレビとかで見た、日本のとあるオフィスに似ているな。


「マ、マリアンヌ様?!」


「あ、あの、このような所に何か!」


「驚かせてしまってごめんなさい。少しお邪魔しますね」


 中にいたメイドたちは、私の姿を二度見してようやくマリアンヌだと気が付いたのか、驚いた様子で椅子から立ち上がったり、作業していた手を止めた。


「あ、ごめんなさい、そのままで。

え~っと……あ、ここのポットやお湯は使っていいのかしら」


「は、はい……」


 メイド達に声を掛けながら、給湯室の中を見渡し、保管されているポットやカップを見つけた。

 私の行動一つ一つが気になるのか、メイド達は驚きながらも視線で追いかけてくる。

 ニコラもそのうちの一人だ。


「マリアンヌ様? 一体何をされるつもりですか?」


「レオン様やノア様にお茶を持っていくのよ」


 私はニコラの疑問に答えながらも、お湯や茶葉、ポットを使って慣れた手つきでお茶の用意をしていく。


「え?! マリアンヌ様がですか?!」


「そうよ、そのためのメイド服よ」


 私とニコラの会話を聞いていたメイド達は、慌てた様子で私に駆け寄ってきた。


「それは私たちの仕事です! マリアンヌ様がする事ではありません!」


「何言ってるの! 今の私はあなた達と変わらないメイドよ! 私にさせて!」


「いけません! マリアンヌ様は一応奥方様なのですから、やるべき事ではありません! お坊ちゃま達には私たちがお持ちしますから!」


「ダメよ! あなた達、休憩中でしょ?! ここは私に任せて! 子ども達に会うためには必要な事なの!」


「「「……え?」」」


「もしかしてマリアンヌ様……お坊ちゃま達に会うためにこんな事を?」


 私の言葉が意外だったのか、私の周りのメイド達は言葉を止め、さらに目を丸くした。

 ニコラまでも呆気に取られている様子だ。


 そしてしばらくすると、どちらともなくふき出し、その場は笑いに包まれたのだった。

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