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体裁を整えないと

 せっかく可愛い子ども達に会えたのに、5メートル以上の距離を保ちながら一日10分しか会えないという厳しい条件があるなんて。


 だが、転生前のマリアンヌの言動を聞いていると、納得がいくのも事実。

 これから仲良くするためにはどのようにするか、作戦をたてて警護に対しての対策も考えねばならない。


「マリアンヌ様? 考え事をしながら歩いていると、危ないですよ」


「そうだけど、考えずにはいられないの」


 子ども達が勉強をしている書斎を後にした私たちは、とりあえず、マリアンヌの部屋を目指して歩いていた。


 ニコラに言われて顔を上げた私は、屋敷内のとある事に気づいた。


――そういえば、このお屋敷……なんだか殺風景なのよね。


「ねぇニコラ、このお屋敷……人も多いし、可愛い子ども達だっているのに、どうしてこんなに殺風景なの?お屋敷ってもっと華やかなイメージがあったのだけど。

例えば……花瓶に生けた花が多かったり」


「それは……マリアンヌ様が不要だと仰ったのですよ。

装飾や花瓶の数も最低限にしろと。旦那様がいない事をいい事に……」


「ニコラ……今回は聞こえたよ。

それにしても、マリアンヌって本当にどうしようもない横暴な人だったのね」


「ご自分の事ではありませんか」


「そうだけど、そうじゃないわ。

それにしても、だんだん遠慮がなくなってきたよね」


「ふふっ、遠慮は省きますと言いましたから」


「そっちのほうが接しやすくて丁度いいわ。

そうだ、この時間はさすがに他の事をしているよね? 以前、何をしていたの?」


「このお時間は……ドレスのお着替えをしておりました」


「……またそれ」


 一日中お色直しをしていたというのは本当の事らしい。

 だけど、今の私にそういう類のものは、さほど興味がない。

 それならば、別の事に時間を費やそう。

 今日はもう子ども達にも会えないのだ。

 別の事をして気を紛らわし、明日の会える時間を糧に過ごそうではないか。


「ねぇ、ニコラ、このお屋敷に図書室みたいなものはないかな?

あと、貴婦人としてのマナーの復習もしたいのだけど」


「マリアンヌ様のお口からそのような単語が出るとは……」


「もう何とでも言ってちょうだい。クビにはしないから」


「では、お夕食までたっぷり時間はありますので、図書室へ参りましょう」


――広いイメージだけど、実際に広いといいな。楽しみだな。

あ、でも、文字は読めるかな? 会話は普通に出来てるけど。


 異世界転生の特権という事なのか、会話は難なく出来ている。

 文字の読み書きも難なく出来る事を願いながら図書室へ足を向けた。


 どんな本があるのかこちらにも期待で胸が膨らむ。


 ニコラの案内で図書室にやってきて、扉は想像通りの大きい両扉だ。

 中はというと、こちらは想像以上に広く、二階建てになっており、その部屋いっぱいに本棚がある。

 部屋の中央にはこれまた広いテーブルがあり、その上には数冊ほど本が雑に積みあがっていた。


 さて、何から読もうか。

 やはり、この国に関する事柄から調べたい。

 まずは食文化だろうか。

 衣食住、いついかなる時も大切だ。


「食に関する本から読みたいのだけど、どこかしら――」


「たしか……この辺りにあったかと」


 ニコラについて行きながら食に関する本を探していると、私の不安はあっさりと打ち消された。

 なんと、本の文字が読めるのだ。

 という事は、やはり転生の特権で文字の読み書きや、会話が難なくできるというものなのだろう。


――これで一日の大半を書物にあてられる!


「ニコラが探してくれた本、こっちは食文化でこっちは料理のレシピ本ね」


 ニコラから受け取った書物に目を通していくと、現代日本で目にしたような食べ物ばかり。

 主に洋食だが、スイーツに関しても見慣れたものが多く記載されていた。


――スイーツ。これも作戦の一つに入れよう。


 皆と仲良くなるためには、私自身の体裁を整える必要がある。

 気合いを入れるためだ。 


「そうと決まれば!」


「どうかされましたか?」


「予定変更! やっぱり自室に戻るわ! あ、でも、マナーの本は持っていきたいの」


「承知致しました……」


 ニコラは私の突然な発言に驚いた表情を浮かべながらも、本を持って付いてきてくれた。


 そしてそのまま駆けるようにマリアンヌの部屋を目指した。


「あ、あの! マリアンヌ様! そのような格好で、どうして足が……速いのですか!」


「ふふっ、秘密!」


――たぶん、元保育士だからかな!


 これも転生の時に引き継いだものなのだろうか。

 以前のように軽やかに走れるのだ。


 だが、ヒールやドレスは確かに走りにくい。

 そのための体裁を今から整えるのだ。


 マリアンヌの部屋を目指して走る事数分。

 先に部屋にたどり着き、真っ先にクローゼットに向かって両扉を開いた。

 そのクローゼットの中を見るや否や、私は愕然とした。


「……ドレスしかない」


 それもそうだろう。

 一応、貴族に嫁いだご令嬢だ。

 私は何を期待していたのやら。

 自分で勝手に期待しといて、勝手に落ち込むとは、我ながら情けない。


 そこへやっと追いついたニコラが、声を掛けてきた。


「マリアンヌ様……やっと……追いつきました」


「ニコラ、ドレス以外に着替えはある?」


「いいえ。マリアンヌ様はドレスしか注文しなかったです」


 ドレスしかないのなら、新しく新調するしかない。

 以前、何かで聞いた事があるのだが、貴族の女性は素足を見せてはいけない言っていた。

 ここでもそうなのだろうか。


「ねぇ、女性は素足を見せてはいけないって本当?」


「は、はい、本当です。基本、女性は丈の長いワンピースやドレスを身にまとわれます。

そのためにメイド服も丈が長いのです」


「それなら、新しく服を新調したいのだけど」


「それでしたら、仕立て屋をお呼びしますので少々お時間を頂きます」


「わかったわ。それと、ここのドレスも少し整理したいの。

いらないドレスは売りに出すか再利用できないかな?」


「できますが、よろしいのですか?」


「今の私には飾りは必要ないから! 素の私でいる事にしたの!

そのためには~……ふふ、ふふふ」


「マ、マリアンヌ様? 何をなさるのですか?」


 じりじりと距離を詰める私に対して、少しずつ距離を取るニコラ。

 彼女は顔を引きつらせているが、私はお構いなしに彼女のメイド服に手を掛けた。


「そのメイド服……私に頂戴?」


 このセリフだけなら追いはぎのセリフと思われてもおかしくはないだろう。

 だが、仕立て屋が来て服を新調するまでの間だ。

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