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厳しい警護

 なんとか対面を許してもらえて二人の子どもの容姿をみるなり、あまりの可愛さに気持ちが高ぶってしまった。


 その場の皆は私の様子を見るなり、驚愕した表情でその場で固まってしまった。


 だが、それも束の間で、二人の子どものうちの一人、男の子の方はすぐに我に返って険しい表情を浮かべた。


「……本当に……マリアンヌ様なのですか。そのような振る舞い、今まで見た事ありません」


「一応、マリアンヌです。急にお邪魔してごめんなさい」


――小さいのにしっかりとした口調。さすが侯爵家のご子息。


 紺色の髪色に深い青色の瞳を持つ男の子。

 子どもながらに鋭い視線を向けてくるが、私にとっては可愛いくらいだ。


 そしてその隣に立つ少女。

 ブロンズ色のサラサラとした髪に、ブロンズの瞳を持っている。


 彼女と視線が合ったのち、彼女は男の子の後ろに隠れてしまった。

 だが、隠れた背中から少し顔をのぞかせるしぐさがなんとも可愛い。


「えっと……ニコラ、お二人の名前聞いても良い?」


「そうでございますね――」


 ニコラの説明によると、男の子はレオン・リシャール。

 リシャール家の長男で歳は11歳。

 そしてレオンの後ろに隠れている女の子はノア・リシャール。

 リシャール家の長女で歳は7歳との事。


――レオン君にノアちゃん。なんて可愛い名前なの!


「……本当に記憶が?」


「え、えぇ」


 彼は鋭い視線を私に向けたまま動じなかった。


「……俺はあなたを信用しない。あなたのせいで、ノアは……妹は声が出せなくなったんだ。

記憶がないのなんて関係ない。これからは、あなたになんて思われようとも、妹を守るために立ちはだかります!」


 明確な敵意。

 大人だけじゃなくて、子どもにまでこんな風に思わせてしまうなんて。

 前途多難とはこういう事だ。

 「仲良くしたい」この屋敷ではそんな事、二の次かもしれない。


 それでも、やはりこのままというのも気が引ける。

 なので、ここでも私は頭を深々と下げた。


「な、なんのつもりですか! そうやって大人は俺たち子どもに油断をさせるんだ! マリアンヌ様だって最初は優しいフリをした! だけど、それは父様に気に入られるためだったんだ! 父様がいない時は俺たちをいじめるくせに!」


「……今まで、ごめんなさい」


 今のこの子達に謝罪は届かないだろう。

 弁明や言い訳なんてもってのほか。

 だけど、悪い事をしたのなら、大人だろうが子どもだろうが関係なく謝罪をする。

 私は保育園でそう子ども達に教えていた。


 大人が謝らないのに、目の前の子どもが謝れるわけがない。

 子どもは本当に大人を見ている。

 見ているがゆえに同じ道をたどらないと心に決める者もいれば、いつの間にか同じ道をたどる者もいる。


 この子達の信頼を得るためにも、今後は誠意をもって接しよう。


「あ、謝られても、マリアンヌ様の事は信じません!

ですが、頭をあげてください。……調子が崩れます」


 彼の言葉に頭を上げた私は、困ったような、もっと接したいような、なんとも言えない表情を浮かべているだろう。


「信じてくれなくてもいい。ただ、これだけは覚えておいて欲しい。仲良くなりたいだけなの」


「仲良く……」


「今後、お二人のお名前はレオン君にノアちゃんと呼ばせてくださいね」


「マリアンヌ様! それは街の子達が呼び合う名です! マリアンヌ様が使うなど!」


 ニコラの言う通り、これでも二人の母である私が(マリアンヌ)子ども達に「君」や「ちゃん」付で呼ぶのは違和感だ。

 だが、私は二人の母親としては信頼がない。

 いきなり呼び捨てでもすると、余計に壁が出来てしまう。

 そう考えて私はあえて敬称をつける事にしたのだ。


 私達が話し込んでいると書斎の扉が勢いよく開かれた。


「マリアンヌ様! このような所にいらしたのですか!」


「えっと……何かあったのですか?」


 勢いよく書斎に入ってきたのは、大広間に集まってくれた使用人の一人。

 恰好からして執事のようだ。


「何かあったのかではありません! お坊ちゃまやお嬢様にお会いできるのは一日に10分と申したはずです!」


「……。なんですって?! やっと会えたこんなかわいい子達に会えるのが一日10分ですって?! どうしてですか!」


「もうお忘れなのですか! そういえば、お忘れでしたね。では、再度申し上げます。

日頃からお坊ちゃま達に対する振舞い、及び、昨日のヒステリック事件。

以上を踏まえまして、マリアンヌ様がお坊ちゃま達にお会いできるのは一日10分までとさせて頂きます。わたくしの事はクビでもなんでも構いません。

ですが、これは旦那様の意思でもあるのです」


 マリアンヌはよほど使用人に対してクビという発言をしていたのだろう。

 皆、クビを覚悟で報告をしてくる節がある。


――簡単にクビなんてしないんだけどな。


「一日に10分しか会えない。そして距離も開けなければならない。警護が厳しすぎますよ! どうしてこうなったのですか!」


「失礼ながら、マリアンヌ様のせいでございます」


「……そうよね。わかったわ、今日の所は退散します。だけど、私は絶対に諦めないわ! 覚悟なさい!」


「マリアンヌ様、そのセリフですと悪役みたいですよ」


「悪いけどニコラ、彼らからすると今の私は悪役よ。仲良くなるために人の話を聞かない、横暴なマリアンヌよ!

ふふふ……おーほっほっほっほっほ」


「やはり、悪役継母でしたか」


「そこの執事! 悪役継母は不本意だけど、致し方ないわ! まずは、あなたの名前も教えて頂戴!」


「マリアンヌ様、この状況を楽しんでいませんか? ちなみに彼は旦那様専属の執事、クリスチャンです」


「楽しんでいないわ。やけくそよ」


――クリスチャン。また一人名前を覚えたわ。


 少しずつだが、屋敷の者の名前は知る事が出来ている。

 皆と仲良くなるという私の途方もない戦いは、ゆっくりだが、火ぶたを切っていっているのだった。

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