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やっと心配の声

 書斎で鼻血騒動の後、クロエのもとに足を運んでいる私とニコラ。

 その道中、屋敷の使用人の何人かとすれ違ったが、皆して私を見るなり驚愕した。

 理由は、メイド服についた血や鼻に詰め物をしているせいだろう。


 今の私の姿は悔しくも貴婦人や令嬢からは程遠い。

 自覚は十分すぎるくらいある。

 だからといって皆の反応はいかがなものか。


 ある者は、『きゃっ、マ、マリアンヌ様?! その血! どなたがケガをされたのですか?!』


 またある者達は、『鼻に詰め物?! あのマリアンヌ様が?! 返り討ちにでもあったのでしょうか……』『あのマリアンヌ様に仕返しするなんて……』などの反応を見せた。


 いくらマリアンヌの日頃の行いが悪かったとはいえ、こうも立て続けに被害を出したのかという反応は、さすがに気が落ち込む。


 そもそも出血に関しては、心配する声がほとんどないのだ。

 これでも屋敷の奥方という立場のはずなのに、気遣う言葉がないのは寂しいではないか。


 私が悶々と考え込んでいると、ニコラが心配そうな表情で顔を覗かせてきた。


「マリアンヌ様、お加減悪いですか? 先ほどから言葉が少ないですが……」


――前まで(マリアンヌ)の行動のせいで、かけてくれる言葉が予想外……なんて、ニコラには……。


「……なんでもないわ」


 本当は吐き出したかった言葉があるが、ここで吐き出すのは違うという思いが働き、言葉にするのを押しとどめた。

 その代わりと言うほどでもないが、別の言葉が口を突いて出た。


「そういえば、旦那様は普段はどんなお仕事をしているの?私が目覚めてから一度も会っていないし……。もっとこのお屋敷のことを知りたいのだけど――」


「今のマリアンヌ様は記憶があいまいでございましたね。

そうしましたら……」


 ニコラはふと思い出した素振りを見せて、お屋敷の事を話し始めた。

 ニコラが話してくれた内容。

 旦那様の名前はウィルバート・リシャール。

 仕事は、王宮で参謀として働いているらしい。

 今は他国との政治に駆り出されて出張中との事。


 前の奥方様に関しては、三年前に病気で亡くなったと教えてくれた。

 もともと体が弱かったそうだ。


「レオン君やノアちゃんが今よりもっと小さい頃ね」


「……はい。

旦那様は日頃からお忙しい方であまり帰って来ません」


「……だったらなおさら仲良くならなきゃ」


「え?」


「奥方様はいなくて旦那様もあまり家にいない……だったら。

子ども達が寂しい思いをしないように、私が賑やかにしなきゃじゃない?

一応、子ども達の第二の母で、現奥方様だし!」


「……」


「……そんな目でみないで」


 私の意気込みを聞いたニコラが、ジト目でこちらをみている。

 言わんとしている事はなんとなくわかる。

 子ども達に嫌われているのに、行動を起こすのかという目だ。


 嫌われているのはわかっているが、寂しい思いをしているかもしれない。

 広いお屋敷で両親と会えないのだ。

 たとえ表に出さなくても、まだ幼い子なら寂しいと思うだろう。

 私のワガママだとしても、小さい子にそんな寂しい思いはしてほしくない。


「よ~し、頑張るぞ~~!!」


「マリアンヌ様、そのように両手を大きく上に伸ばすのははしたないですよ!」


 私が軽い足取りで歩きだした矢先、両手いっぱいに花を抱えたリチャードとクロエが、何やら話しながら廊下の向こうからこちらに向かって歩いてくるのが見えた。


 私は二人に手を大きく振りながら、小走りで近づく。


「リチャードさ~ん!! クロエ~~!!」


「マリアンヌ様、奥方様がそのような振る舞い、はしたないですよ。

……といいますか……その詰め物もはしたないですよ。

それにその血痕……まさか――」


 私の様子に説教をしつつも、改めて様を見たクロエは、顔がみるみる蒼白くなった。

 クロエまでもと思った刹那、私の考えはリチャードの言葉によってかき消される。


「マリアンヌ様、そのお姿はどうされたのですか?! どこかおケガでも?!

出血はひどいのですか?! お医者は?!」


 そう。

 リチャードもまた顔面蒼白なのだが、今までにない反応を見せたのだ。

 あたふたした様子ではあるものの、今までの使用人たちとは違って心配の声をかけてくれた。


 私はその反応が新鮮で嬉しく、うっすらと涙を浮かべて彼に抱き着いてしまった。


「リチャードさん! そんな反応をしたのはあなたが初めてよ! ありがとう~~~。

あ~~神様、リチャード様~~~!!!」


 周りには大げさと思われるかもしれないが、それほどまでにリチャードの反応は嬉しかったのだ。


「マ、マリアンヌ様?! い、いったい何が……」


「皆ひどいのよ! この血は私の鼻血なのに! ただ子ども達の可愛い姿に興奮しただけなのに! それなのに、皆して誰かを傷つけただなんて! 今の私はそんなことしないのに!」


 私の様子を見て困惑するリチャードに大まかな説明をすると、なるほどと数回頷きながら一言こぼし、納得してくれた。

 いや、察してくれたと言うべきか。


「マリアンヌ様、今の説明ですとすごく不審なお方ですよ」


「いやいや、ニコラさん、私は把握しましたよ。

いろいろおありだったのでしょう」


「さっすが、リチャードさん! 話がわかる! 皆とは大違いね」


「わ、私だって、一応心配しましたよ! 今も心配しております!」


「え~、ほんとかな~」


 私達が賑やかに話し込んでいると、今まで事を見守っていたクロエが、淡々とした様子に戻ったのか、咳払いをしながら話に入ってきた。


「マリアンヌ様、話の途中で申し訳ございませんが、お客人がお見えです」


「そういえば、仕立て屋が来ているって……」


 目的を思い出した私は、リチャードに別れを告げてクロエとニコラとともに仕立て屋が待っているという応接間に向かった。


 仕立て屋とはどんな人物だろうか。

 私の考えるデザインを受け入れてもらえるかどうか、期待と不安で胸が膨らんで再び足取りが軽くなる。


 そうしてクロエとニコラ、そして私が応接間に入ると、中で待っていたであろう仕立て屋は、私の姿を見るなり、これまた皆と同じくあたふたと慌てたのは言うまでもない。

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