フルーツの
子ども達にもデザートにふわふわのパンケーキを食べさせたかったのだが、材料が少なく、作れそうになかった。
カットしたフルーツだけを出すのも気が引けた私は、少ない材料でも作れるとあるデザートを作る事にした。
そのためにはまず、フルーツをカットしていく。
キウイにリンゴ、イチゴやブドウ、様々なフルーツが揃っており、大きい物は子ども達が食べやすい大きさにカットしながら形を整えていった。
フルーツによっては切り方や形も様々だ。
ウサギの形に整えたリンゴや、角ばったキウイ、イチゴに関してはそのままの形でも可愛いので特に何もせず、ブドウもそのままの形を選んだ。
「マリアンヌ様が、本当にフルーツをカットしている……」
「相変わらず慣れた手つきですね……」
「信じられません……」
私の後ろにいる皆の呟く声が聞こえる。
一個、また一個とフルーツをカットしていくたびに聞こえる声に、こんなにも興味を持ってくれる事に少しだけ嬉しくなって頬が緩んだ。
――「いつか子どもが出来たら」って、練習していたのがここで活かせてよかった。
そうしてカットを終えたフルーツを、見栄え良く器に盛りつけていき、最後の仕上げに入るために、私は砂糖に手を伸ばした。
「お砂糖? 何をされるのですか? デザートでしたら、フルーツだけでもいいのでは?」
「たしかに、フルーツだけでも色鮮やかで可愛く見えるけど、子ども達に喜んでもらうためにはもう少し手を加えたいの」
そう言いながら、手を伸ばした砂糖を鍋に入れて、さらに水も加えて鍋を弱火に掛ける。
少しだけ鍋の中をかき混ぜてじっと待つ事数分。
鍋の中の砂糖は水に溶けて、液体がふつふつと泡立ち始める。
その状態を混ぜる事無くさらに待つと、液体がうっすらと茶色に色づき始めた。
頃合いになった所で火を止めて、鍋をコンロから降ろし、少しだけかき混ぜる。
鍋で作っていたものは飴で、程よくとろみもついており、焦げもなく上出来だと確信が持てた。
それを器に盛ったフルーツにかけていき、完全に冷ますと完成だ。
「出来た!」
「いったい、どんなお菓子なのですか?」
後ろにいた皆が知りたそうに顔を覗き込んできたので、皆にも見えるように器を両手で持って体を皆に向ける。
そして器を皆にも見えるように差し出す。
「これぞまさに、フルーツの宝石箱や~」
「「「「「……」」」」」
「……」
――あ、あれ? 皆、器をジッと見つめたまま動かなくなっちゃった。よし、もう一度。
「う、ううんっ……これぞまさに、フルーツの宝石箱や~」
「聞こえておりますよ。いったいなんですか、それ?」
「え、この名言が伝わってないですって?!
ほ、ほら、器の中のフルーツたちも宝石に見えるようにジュエリーカットしているし、飴のおかげでキラキラしているし!」
何という事だ。
この名言が伝わらないだなんて。
これでは滑ったみたいではないか。
いや、この場では滑ったのか。
だが、私の説明を聞くと、皆して「あぁ、なるほど」とようやく言葉の意味を理解してくれた。
「飴……というのですね」
「砂糖と水を煮るだけだなんて、簡単ですね」
「キラキラして見えるし、より一層フルーツを引き立たせてくれているでしょう?
フルーツの酸味と飴の甘さも相性抜群なの」
「「「「「……」」」」」
「そんなに食べたそうにしてもダメよ。
あなた達にはパンケーキがあるでしょ? これは子ども達のためのものよ」
そんなに私の作るお菓子が気に入ったのか、パンケーキだけでなくフルーツ飴にまで興味を示す使用人たち。
さすがにこれには、皆の行動を制止した。
フルーツ飴まで渡すと、子ども達用のデザートがなくなってしまう。
デザートがない事を知ると、子ども達は悲しむだろう。
それだけは阻止しなければならない。
フルーツ飴の器を皆に見せた後、適当な場所に置いて完全に冷めるのを待つ事にした。
時計を見るとすでに昼食の時刻になっており、私の周りにいた使用人たちは慌ただしく自分の持ち場に戻ったり、休憩に入り始めた。
そして子ども達にも昼食が運ばれ始めたのだった。
私は飴の温度を早く下げるため、ニコラが買ってきてくれた白紙などを給湯室から持ってきて、器を仰いだ。
器を仰ぐ事数分。
フォークで優しくフルーツに触れると、硬い感触が指に伝わってきた。
飴が固まった証だ。
これでいつでも子ども達に出せる。
子ども達に食事を運んでいる執事の一人に、デザートが出来上がった事を伝えた。
すると彼は、頃合いを見てデザートを食堂に運ぶと言ってくれた。
――今度もまた、こっそり様子をみよう。
私は再び、子ども達の様子をこっそりと見るため、食堂の別の扉に移動してそっと扉を開けて様子を見ていた。
私は一人で食堂内の様子を見ていたのだが、いつの間にか私の後ろにはニコラやクロエが立っていた。
そんな彼女たちに私は小声で話しかける。
「ちょ、どうしてあなた達までここにいるのよ!」
「マリアンヌ様がコソコソしているので気になってここに来ました」
「なるほど、お坊ちゃま達のご様子を見ているのですね。
マリアンヌ様、もう少しかがんで頂けませんか? 見えづらいです」
「あ、私も同じこと考えてました! マリアンヌ様、お願いします!」
「……しょうがないわね」
クロエとニコラ、二人が見えやすいように言葉に従って腰をかがめた。
女性三人が扉にしがみつきながら食堂内を眺める様子は、側から見ると異様な光景だろう。
だが、今はそんな事よりも子ども達のデザートに対する反応だ。
そうこうしていると、デザートの器をトレーに乗せた執事が食堂内に入ってきた。
――クリスチャンだ! スープやメインは他の執事が運んでいたのに、デザートはクリスチャンなんだ?! ここにいるのバレたくないな~。
「いよいよですね……」
「ドキドキしますね~」
「あなた達、この状況を楽しんでない?」
「「まぁまぁ」」
――「「まぁまぁ」」って……。
彼女たちは嬉々とした状況だが、 私はというと、別の事でドキドキしている。
そうこうしていると、クリスチャンが子ども達の前にデザートをゆっくりと置いた。
そして彼の次の発言に私は耳を疑った。
「レオン様、ノア様、こちらのデザート……「これぞまさに、フルーツの宝石箱や~」との事です」
――ちょ?! あの人何を言っているの?! それさっき私が言って滑ったセリフ!
子ども達は彼の言葉に、ぽかんと口を開けて固まってしまった。