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ふわふわでしゅわしゅわ

 子ども達が勉強をするとの事で、書斎を出た私は、なんとなく厨房に足を向けていた。

 その途中、前方から駆け足で近づいてくる人物に、ようやくなのかと嬉しさが込み上げ、こちらも駆け足でその人物に近づく。


「ニコラ―! おかえりなさい! 買い物から帰ったのね!」


「ただいま戻りました!」


 駆け足で近づいてきたのは二コラだ。

 彼女には昨日、欲しい物があるからと買い物を頼んでおり、それが済んだようで、買い物袋を手渡された。


「中の確認をお願い致します」


「わかったわ。歩きながらでいい?」


「はい……どこに向かわれる予定だったのですか?」


「厨房よ。子ども達のお昼ご飯のお手伝いをするの」


「マリアンヌ様がシェフたちのお手伝いをされるのですか?」


「そうよ?」


 厨房でお手伝いをするという話に、不思議そうに質問してくるニコラ。

 以前のマリアンヌからは想像すら出来ない事なのだろう。


 彼女が納得できるよう、事の経緯を説明すると、今度はひどく驚かれた。


「あのマリアンヌ様が、リンゴのウサギを……」


「そうなの。今、書斎で頑張っている子ども達のためにお手伝いをするのよ。そういえば、さっき――」


 私はここで、先ほど疑問に思った事をニコラに聞いてみる事にした。

 以前、ニコラからもらったメモ書きに子ども達の予定が書かれているのだが、パトリシア婦人の授業以外にも何か勉強をしているのか疑問に思ったのだ。


 彼女からの返事は、昼食前に領地に関する事をクリスチャンから習うというものだった。


――なるほど、さっきのクリスチャンの書類は勉強用の資料だったのかな。


 ニコラの話を聞いて一人納得した私は、歩きながら渡された買い物袋の中を確認しはじめた。

 袋の中を見る限り、渡したメモ書き通りの物を買ってきてくれている。

 私が欲しかったものばかりだ。


 さっそく袋の中から頼んだポシェットを取り出し、身に着ける。

 肩ひもは長く、首や肩から斜めに掛けられるので、走っても簡単には落ちそうにない。

 さらに、袋の中から小さい双眼鏡やガーゼ、包帯を取り出してポシェットにしまった。

 懐中時計も取り出したが、それはポシェットに取り付ける事が出来たので、チェーンをポシェットに付けて時計である本体は、ポシェットの前ポケットに入れた。


 袋の中身を一通り確認をすると、頼んだ品の色紙やお絵かき用の白紙、色鉛筆が入っていた。

 さらに奥の方には、頼んだ覚えのない品が入っているのが見えた。


「ニコラ、頼んだ覚えのない品が入っているのだけど?」


「それは簡易的な救急箱でございます。

ガーゼや包帯があるのですから、簡易的でも救急箱が必要と思いまして」


 ニコラが気をまわしてくれて買い足してくれたのは、手のひらに乗せれるくらいの小さな小箱だった。

 これがあれば、ガーゼも包帯も用途に合わせて切って使う事ができる。


「ありがとう、ニコラ!」


「い、いえ……お気に召してなによりです」


 ニコラに笑顔を向けたのだが、いまだに慣れないのか、少しだけたどたどしい様子だ。


 そんなやり取りをしていると、いつの間にか厨房までやってきた。


 私は買い物袋を厨房の隣にある給湯室に置いて、声を掛けながら厨房に入った。


「お邪魔しま~す! お昼ご飯のお手伝いに来ました~」


「マリアンヌ様! お願いを聞いてくださりありがとうございます!」


「いえいえ! こちらこそまた厨房に入れてくれてありがとう!

そうだ! もう一つ相談なのだけど……」


「はい、なんでしょうか」


「シェフの皆が使わない間、時々厨房を使わせて欲しいのだけど……」


 私の相談内容に厨房の皆は不思議そうに顔を見合わせる。


「えっと……何をされるのですか?」


「料理するのよ! 子ども達にお菓子を作りたいの!」


「え、マリアンヌ様が……ですか?」


「お菓子……作れるのですか?」


 私の発言には、シェフの皆だけでなく、ニコラまでも驚愕している。

 中には信じられないものを見るような表情のシェフまでいるのだ。

 それほど信じられない事なのだろうか。


「もう~、しょうがないなぁ。それなら、証拠を見せてあげるわ」


「本当に……ですか?」


「本当よ。そんなに信じられないかしら」


「マリアンヌ様は以前、「私に料理なんか出来るわけないじゃない、何を言っているの」と仰っていましたので」


「……そうだったかしら。でも、今は出来るわよ」


 私は驚きを隠せずにいる料理人やニコラの言葉に応じながら、腕まくりをして手を洗い、材料や道具の場所を聞きながら料理に必要なものを全て準備した。


 厨房でのやり取りがどこまで外に聞こえたのかわからないが、厨房の入り口に一人、また一人と使用人たちの人だかりが出来始める。


――人だかりが出来るほどの事……なのかな。まぁ、いっか。


 少しだけコソコソと話し出す人だかりが気になったが、今は料理に集中しようと材料を手に取り、手際よく料理を行っていった。


――とりあえず、簡単な材料で美味しいものなら~……アレね!手間は少しかかるけど、致し方ない! 必要作業!


 私が料理をしている間、所々驚きの声が上がったが、気にせずに淡々と仕上げていく。

 出来上がった物を器によそってハチミツをかけて、フルーツを可愛く切って盛り付けたら完成だ。


「出来た!」


「マリアンヌ様が……本当にお菓子を作られた」


「な、なんですか……このお菓子」


「材料は簡単な物を使ったのに……」


「途中で何か白い物を作っていましたが……」


「ふっふっふ、これは幸せのパンケーキよ!途中の白いものはメレンゲね。

そのメレンゲのおかげでこんなにもふわふわでしゅわしゅわなのよ」


「平べったいパンケーキはよく見ますが、これほどまでにふわふわなものは見た事がありません……」


――まだ開発されていないのかな? それとも日本の食が進みすぎ?


 皆は私の作ったパンケーキに見入っており、お皿をまわしながら様々な角度から観察をしている。


 そしてその見入っているシェフの一人が、フォークを持ち出してパンケーキに切れ込みを入れて口に運んだ。


「うっま! なんですかこれ! すっごくふわふわです! それに、ふわっとしてしゅわっとして……口の中で溶けるような触感がたまらないです!」


「そうでしょう、そうでしょう! 幸せのパンケーキだからね!」


 幸せのパンケーキの触感にはまったのか、勢いよくむさぼりつく様子に、周りも興味津々にフォークを取り出してパンケーキをつつきだした。


 その様子をみてさすがの私も得意げな表情になってしまう。


 これほどの菓子を作れるならと、ライムに許しをもらえて今日のおやつからさっそく厨房に入る事を許された。


 そしてまさかの屋敷の使用人たち用にも作って欲しいと頼まれた。

 屋敷の使用人全員分となると、さすがに一人では厳しい仕事量だ。

 そこで、シェフたちに手伝ってもらう事を条件に、お菓子の大量生産を行う事になったのだった。


 もちろん、シェフたちの名前と顔を覚えつつの作業で、また一つ、楽しみが増えた事にまたも浮足立ちそうだ。

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