見知らぬ部屋
不定期更新です。
某月某日、私は見知らぬ場所で目が覚めた。
視界に入ってきた景色は見慣れない天井。
ゆっくりと体を起こして辺りを見渡すと、豪華な装飾が施されている部屋の中だった。
「マリアンヌ様、お目覚めになられて良かったです! お加減はいかがですか?」
「……マリアンヌ? えっと、どなたの事ですか? 私は茉里奈ですが……。
それに、あなたはどちら様ですか?」
「どうしましょう……マリアンヌ様が、マリアンヌ様が!」
どういう事だろうか。
目の前の彼女の服装からメイドだという事はわかる。
だが、私はメイドなんて雇った事などなく、そもそもマリアンヌという名前でもない。
ここはどこで、私にいったい何が起こっているというのだろうか。
とりあえず、状況を把握しない事には何も始まらない。
目の前で顔面蒼白になりながら慌てふためく彼女に、落ち着くように優しく促す。
すると彼女は、今度はひどく驚いた表情で私を見てきたのだ。
「あの……私、何か変なこと言いましたか?」
「……マリアンヌ様がお優しいなんて。きっと、嵐の前触れです!」
「えぇ、そんなに驚かれる事?」
そのマリアンヌとは、本当にどういう人物なのだろうか。
目の前の彼女の言動からますます状況が読めない私は、体調など大丈夫な事を伝えてしばらく一人にしてもらった。
「さてと……何かあったら声をかける約束もしたし、どうしてこうなったのか思い出さなきゃ。たしか――」
***
時は遡って。
私、倉崎茉里奈は保育士になって幾数年。
子どもが大好きな私は、幼い頃からの夢である保育士になった。
子どもは見ていて飽きない。
何をしでかすかわからない事も多く、肝が冷えて目を離せない事もある。
だが、基本的にはお世話するのが大好きだし、一緒に走ったり、おままごとをしたりと遊ぶのも大好きだ。
子ども達のために料理やお裁縫、ピアノや歌だって練習した。
子ども達の笑顔を見るだけで私も幸せになれる。
そのためなら努力だって惜しまない。
そんな忙しない日々だったが、私にも付き合っている人はいた。
もう二十も半ばを過ぎて、付き合っている人との将来を考えてもいいだろう。
だけど先日――。
「お前、通りすがりの子どもを見るたびにあんな服着せたいとか、こういう家庭築きたいとか、正直重い」
なんて事を言われて振られた。
どうやら彼はもう少し遊びたかったらしい。
実際、他にも彼女がいたようだ。
5年付き合った仲だ。
多少のダメージはあったけど、落ち込んでいると子ども達に感づかれてしまう。
子どもというのは、良くも悪くも大人を見ていて、少しの感情の変化にも敏感だ。
私情で子ども達に不安を与えるわけにはいかない。
そんな出来事をぼんやり思いながら、通常通り園に足を運んでいた。
「そういえば今日は遠足だったな……。こんな時くらい、元カレの事は忘れて子ども達と思いっきり遊ぼう!」
朝の点呼を取って、皆がちゃんと園に来てるか確認して。
体調を確認したり、持ち物を確認したり、出発まで慌ただしかったが、なんとか出発できそうだ。
そうして皆で遠足に行って、楽しい時間を過ごしてと名残惜しいが、帰る時間が来た。
子ども達の手を引いて、前方と後方で安全を確認しながら園を目指して歩いている。
私は後方から皆を見守っていたのだが、途中の横断歩道に差し掛かった時、歩行者信号が点滅を始めた。
「皆ー! 信号がチカチカしてる時は~?」
「「「進んではいけませーん!!」」」
「はい、よくできました!」
「あ! 先生! 愛ちゃんが!」
一人の児童に言われてその子の指さす方を見ると、横断歩道の真ん中で倒れこんでる児童が目に入った。
信号はすでに赤に変わっていて、右の視界の端にものすごいスピードを出す車が見える。
不思議と頭で考えるより先に体が動いていて、倒れこんでいる児童の体を急いで起こし、力いっぱい背中を押した。
それと同時に私自身、体に強い衝撃が与えられた。
痛いと感じたのはほんの一瞬で、地面に打ち付けられた時に痛みはほとんどなく、目の前に赤い液体が広がっていくのがわかった。
血だ。
打ち所が悪かったのだろう。
ほんの一瞬の出来事なのに、指先に力が入らなければ声を出す事すら出来ない。
遠くの方で慌てた様子で私を呼ぶ声や何人もの泣き声が聞こえる。
私はこのまま死ぬのだろうか。
子ども達の前でなんてものを見せたのだろう。
せっかくの遠足が、これでは保育士失格ではないか。
だが、愛ちゃんが無事でよかった。
子ども達に怖い思いをさせてしまったという申し訳ない気持ち、愛ちゃんにトラウマを与えてしまうのではないかという罪悪感。
そんな事を遠のく意識の中で考えていた。
力の限り出せた最後の言葉、それは――。
「……ごめ、ね……みん。めぐ……ちゃ、気……しな……で」
私の言葉を誰か聞いていて欲しい。
そしてそれを愛ちゃんや皆に伝えて欲しい。
誰のせいでもない。
大丈夫、私は児童を守れた事に誇りを持てるのだから。
***
時は戻り、今現在。
「そうだ、私……事故にあって死んだんだっけ」
今に至る経緯を思い出したのはいいが、それはそうとしてマリアンヌとは。
なぜ私がそう呼ばれたのか、疑問は残る。
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