にわか雨
駅前の立ち食い蕎麦屋で一杯四百円のかけそばをすすっていると、どこからともなく演説が聞こえて来た。
「我々は!いつから水溜りを避けるようになってしまったのか!いつから傘でチャンバラをしなくなってしまったのか!」
どうやら、子ども心を取り戻すことで社会不安から逃れようという思想の団体が演説をしているようだ。ずるずる。
「諸君!もう一度子どもにならないか!もう一度、雨の中を走り回っていたあの頃に戻らないか!」
なぜ雨や傘に関する話しかしないのかはさておき、確かにあの頃は将来に対する不安などは感じていなかったなと自分の過去を振り返る。いや、考えるほどの材料が無かったという方が正しいかもしれない。
ただ、それは決して子どもに悩みがないということではない。子どもには子どもの、大人とはまた違った種類の悩みがある。「子どもが楽な生き物」というわけではない、と私は思う。かまぼこをぱくり。
「雨が降ってきて傘を差して、『傘のせいで空が見えない!空が見たい!』などとめちゃくちゃなことを言ってもいいではないか!だって我々は、子どもなのだから!」
ごくごくごく、と蕎麦つゆを飲み干して私は思う。
「ビニール傘使えよ」と。
ちなみに本日は晴天である。