和菓子地獄にたまごの花が咲く
ここは数多くの和菓子専門店が軒を並べる、通称『和菓子地獄通り』!
今日もトップを競う和菓子職人たちがしのぎを削っていた!
「オイオイ。てめーら、『菊兆庵』のモンだよなァ? ここいらは俺等『百萬堂』の縄張りだゼ? 何やってんだ? アァ!?」
三角棒を担いだリーゼントの若い職人が群れをなし、似たようなファッションの若者グループにイチャモンをつけた。かろうじて違うグループだとわかるのは、着ているのが片や白衣、片や紺の作務衣姿だからであった。
「ハァ!? 頭沸いてんのか、コラ。ここは『みんなの和菓子地獄通り』ですよだ! 勝手にてめーらの縄張りにしてんじゃねーよ!」
「んだと、ゴルァ!」
「やんのか、アァ!?」
今、まさに喧嘩が始まろうとした、その時!
「どう思う? 洸平」
横から二人の男の声がした。
「しょーもないよね。止める? 雄二」
その声に両グループが動きを止め、振り向くと、そこには二人の少年が立っていた。学生服のような調理着に二人とも身を包んでいる。
「なんだ、てめーらァ? 見慣れねー制服だナ? 余所モンか?」
「てめーらみてーなシャバ僧が来るとこじゃねーんだヨ、ここは」
二人の少年は、にこやかに自己紹介をした。
「ぼくらは和菓子職人のたまご、コウヘイとユージだよ」
「この街をシメにやって来たんだ」
和菓子職人たちから哄笑があがる。
自分たちより背の低い二人の少年を取り囲み、揶揄い始める。
「はい! かわいい、かわいい」
「夢見ちゃってんだねー、茶坊主どもが」
そして雄叫びをあげると、一斉にその場で練切を作り始めた。
桃の花、手鞠、ゆるキャラ等、さまざまな形のかわいい練切が、舗道脇に設置されたまな板の上にずらりと並ぶ!
「どうよ? こんな菓子おまえらに作れんのかァ?」
「やってみろや、ゴルァ!」
フッと笑うと、二人の少年は目を閉じたまま、超大型の練切を一瞬で作りあげた。
立ち並ぶモアイのように表情のかたまった和菓子職人たちが見上げる先に、彼らを見下ろす大怪獣『ネジラ』が薄桃色と黄蘗色を纏って出現した。
秋の晴れた空は大怪獣で塞がれた。
「ハハハ……」
再び哄笑があがる。
「バッカじゃねーの? やっぱ『たまご』だナ? こんなでけぇ和菓子、誰が食うって……」
女子高生たちが目の色を変えて駆けてきた。殺到してきた。
少女たちが近寄ると、大怪獣は牡丹の花に姿を変えた。優雅に甘く咲いた。
樹液に吸いつくカブトムシのような少女たちを眺め、和菓子職人たちは敗北を認めた。