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私は夜鷹にさえなれない

作者: ナナシ

 私は実に醜い顔をしています。

 肌は他の人よりも白く、皮膚によって色が違い斑点みたいになっています。目は小さく、口は大きく、醜いところを挙げていくと終わりが見えません。背格好も不格好で背の順では前に人がいたこともありません。短足、チビ、アルビノの失敗作、ブス。だなんて、呼ばれることが日常です。

 私は東北の田舎に住んでいますから、学級というものは一年生、二年生と変わっても顔ぶれは変わらないし、変わるのは呼び方だけ。

 言ってしまえば、天国が続く人間と地獄が続く人間がいます。

 私は後者です。

 学校というものは、実に残酷なところです。いや、学校ではありません。社会です。この世界です。いつだって、いつの時代だって虐げられるのは弱者です。力を持たず、牙を折られ、抜かれたものです。涙の数が人を強くするなんて、嘘です。詭弁です。だって、私はこうも弱いじゃないですか。ああ、つらい、つらい。

 こうして、夜、孤独に耽る今も日は少しずつ昇っています。お日様。どうかお願いです。私をお日様のように明るい人のそばに行かせてください。焼けて死んでもかまいません。灰になって構いません。私を遠くに連れて行ってください。

 そんな声は届きません。届いているのなら私は今ここにいません。この声を上げるのが何回目か分かりませんから。


 お日様が連れていかなくても、私は遠くへ行かないといけません。

 同じクラスの人に言われました。

「お前、人間とは思えないぐらい醜いから二度と顔を見せるな。もしも、次見せたらお前の弟をいじめて家族も同じ目に合わせてやる」

「やめてください。私は我慢できます。私の弟や、家族には手を出さないでください」

「うるさい。お前が我慢できるかどうかなんて聞いていないんだ。醜いから俺たちが我慢できないんだ」

「そんな。ひどい。ひどいです。あんまりです」

「簡単な話だろ。家族を助けたいならこっから出ていけ。別に死ねっていうんじゃない。家族を連れてこっから出るのもダメと言っていないぞ」

「弟はこの場所が好きです。私の事情で家族は巻き込めません」

「なら、お前ひとりでここを出ればいいだろ。話は終わりだ。その口を開くな」

 そう言ってその人は振り返って歩いていきました。私はわんわん泣きました。つらい。ただ、ただ、辛い。泣いてしまったことが恥ずかしいのではないのです。いじめられていることが恥ずかしいのではないのです。私は家族を守れない弱い人間。弱者だったのが恥ずかしく、辛いのです。だから涙が出ました。


 お金はありません。お小遣いをもらっていないわけじゃありません。全部強奪されます。同じクラスの人たちは知っています。私がお金を持っていないことを。だけど、それは知ったことではないのです。ただただ、目障りな私はどこかへ行ってほしいのです。

 ああ、それなら私は遠くへ行ってしまおう。誰も私を知らないところで、誰も私を気味悪がらないところで暮らそう。ああ、寂しい。弟とは、会えなくなる。家族とは会えなくなる。辛い。ただ、家族が私と同じ目に合うのはもっと辛い。だから、私は遠くへ行こう。

 その前に、弟と少し話したい。それぐらいは赦してほしい。神様がもしも本当にいるのなら。

「起きてるかい」

 弟の部屋の扉を叩いて声をかけました。少し足音が聞こえて扉が開きました。

「どうしたの」

「お前と、少し話がしたくて」

 弟は何か言おうとしましたが私は続けました。

「お前は本当にいい奴だ。顔は整ってるし、背は高い。みんなが近寄ってくる、お姉ちゃん自慢の弟だ」

「どうしたの急に」

「お姉ちゃんは少し遠くに行くから。最後に言いたいことを言いに来たんだ」

「遠くに?なんでよ。おなか減ったの?俺の部屋ならお菓子あるから食う?」

 ああ、弟はこんな私のことも気にしてくれるのです。家族全員が優しいのです。なのに、私のせいでその優しい家族は不幸を被るのです。

 ずっとそうでした。母が作ってくれる食べ物。父と食べた外のご飯。全部が私は苦しいのです。おなかがいっぱいで苦しいのではありません。辛いのです。食べるものすべてに私は罪の味がするのです。

 優しくされる度、何かをしてもらう度、私は罪悪感でいっぱいになるのです。こんな出来損ないをどうしたいのですか。

「そうじゃないよ。遠くに、ここじゃないどこかに行くんだ。」

「なんでよ。どこか悪いの?」

「お前も、私についてこないでくれ。父さんと母さんにも今から言いに行かなくていい。お姉ちゃんのことが好きなら何もしないでくれ」

「まって、待ってよ。分からないよ。少し待って。俺と話をしよう」

「いいや、いつまでいても変わらない。さよなら。もうあわないよ。いや、会えないか。さよなら」

 私は玄関に走り、靴を履いて外にでました。


 外に出てから、どれくらい走ったかわかりません。感覚的にはかなりの距離を走りました。といっても、私は運動もろくにできませんし、体力もありませんから案外遠くには行けてないかもしれません。

 ただ、人気はありません。初めて、家族のために何かできました。家族と離れることで家族を守ったのです。

 意識が少しもうろうとしてきました。たくさん走って、のども渇きました。だけど、のどを潤すものなんて持っていません。いや、出てきました。目から、しょっぱい水が出てきました。

 ああ、このままずっと、いつまででも、泣いていたい。

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― 新着の感想 ―
[一言] つらい……主人公をそこまで追い込んでしまう周囲の目が、もしかすると社会全体が。 家族の愛と優しさは誰かを救うかも知れないけれど、逆に追いつめてしまうこともあるのでしょうか。 主人公は自分がい…
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