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 お二人の白熱したファントークを当の本人が隣で聞くというのも不思議な体験だったけれど、楽しそうなお二人に、あたしもとても元気をもらった。もうゴシップ紙なんて気にしないでいられそうだ。

 そんなふうに心が軽くなった時だった。クラリーサ様があたしに向き直る。

「そういえば、本日わたくしのもとにゴシップ紙が届いたのですけれど。正確にはわたくし宛に届き、執事が中を確認したところ殿下とエレノーラ様のことが書かれた記事の新聞だと聞きました。わたくしは確認する必要も無いと判断し、執事に送り主へ抗議文を送る手配をいたしました。エレノーラ様は何もご心配には及びませんわ」

「え゛っっ」

 気にしないでいられると思ったタイミングでの話題だったから、濁った声が出てしまった。これはクラリーサ様もアリーチェさんもがっかりさせてしまうかもしれない。

「あらエレノーラ様ったらそんなお声で可愛らしいですわ」

 意外にもクラリーサ様はクスクス笑っている。こんな声を出す踊り子でも許してくださるなんて。

「エレノーラ様、水分でも」とアリーチェさんが紅茶のおかわりを入れてくれた。

 なんて優しい人たちなのだろう。舞台上だけではないあたしも好きになってくれる。

「わたくしはそのような記事よりも、もっと知りたい事があるのです」

 クラリーサ様は、少し頬を染めた。今度は何がくるのかとあたしは身構える。

「エレノーラ様の想い人のことですわ」

「えっっっ」

 突然の話題変換にあたしはまた驚きの声をあげた。今度は濁らずに済んだ。

「エレノーラ様が魅力的なのは恋をしているからに違いないと、わたくしは考えておりますの。決して、わたくしが恋バナをしたいからと言うわけではなく……いいえ、わたくしが学友とできなかった恋バナをしたいだけなのかもしれません。よろしければお聞かせくださらない?」

 少し照れて、クラリーサ様が言った。

 あたしはもちろん戸惑った。だって、恋なんてまだした事がないのだから。

 これはどうするべきかと悩んでいると、すぐにアリーチェさんが助け舟を出してくれた。

「クラリーサ様、恐れながら申し上げます。恋バナは、パジャマパーティーでされるのが一番盛り上がるかと存じます」

 キリッといつも以上に自信たっぷりに話すアリーチェさん。

 クラリーサ様は「まぁ、そうなのですか」と口元に手を当てる。

クラリーサ様のこの仕草がまさにザ・お嬢様という感じだ。

以前のあたしはこの仕草はなんだか媚びているようで好きじゃなかった。

けれど、クラリーサ様の柔らかい雰囲気と純真さと美しさで、その仕草はクラリーサ様のされる仕草の中でダントツに好きになってしまった。

貴族令嬢とこうしてお話しできるということは、やはりあたしの未来にとって必ず財産になる。

 こういう打算的な事を考えるのって、ずるいか。


「ではパジャマパーティーの招待状を送らせていただきますね」

 パジャマパーティーの開催を決めたらしく、クラリーサ様が嬉しそうに言った。

「あたしが参加なんてしていいんですか?」

 貴族のお嬢様、ましてや、国の王子様の婚約者とパジャマパーティーする踊り子なんている?

 嬉しさ半分、王子様に恨まれるんじゃ? と言う気持ち半分。

 素直にそう伝えることにした。

「クラリーサ様を横取りするなとか言って、王子様に恨まれそうです」

 そんなあたしの言葉に、「確かに言いそうですね」とアリーチェさんも同意してくれた。

 こわごわクラリーサ様を見ると、クラリーサ様は「まぁ」とクスクス笑い出した。

「ではわたくしから殿下に伝えておきますわ。時折、殿下は困ったお方になるのです。みなさまもよくご存知でしたのね。けれど、わたくしは愛されているのだなと思えるの」

 それはもう愛おしそうに、クラリーサ様は微笑んだ。

 あたしは悪いことを言ってしまったかなと少し反省した。王子様は、もちろんクラリーサ様のことが大好きすぎるから、あたしのことを王宮に呼んでくれたのだし。

「すみません。調子にのりました」と謝ると、「こんなお話ができて嬉しいのです」と微笑んだクラリーサ様がとてもキラキラして見えた。

 愛し合っている2人なんだなぁ。

 そんなふうに愛し合える人に、あたしも出会うのだろうか。


 王宮内での踊りを披露するステージについて、あたしはまずクラリーサ様に相談して、王子様にもお願いしてみた。

 王子様はわりとすんなり応じてくれて、クラリーサ様のおかげだと感謝する。

 クラリーサ様に言われたのか「クラリーサを独り占めばかりしないでもらいたい」と言われたけれど、もうあの冷たい目は無くなった。あたしが気づいていないだけなのかもしれないけれど。そうであってほしい。

 ついでに、ユーナに踊りを手伝ってもらえるようにもお願いした。

 そろそろユーナにも会いたいし、2人でできることに挑戦して、あたしの表現の幅は広いのだということをアピールしようと思っている。

 人を集めるのにいつものようにチラシを作ろうかと思っていたところ、アリーチェさんが「それならばファン同好会にぜひお任せください!」と言ってくださったのでお願いした。

 実を言うとあたしはチラシ作りが得意ではないのだ。だからとっても助かった。そう伝えると、「チラシは必要ありません。こういうのはやはり直接お声がけすることが一番です」と返された。

 それはとても大変そうだけれど、郷に入っては郷に従えというものね。



 クラリーサ様が作ってくださったドレスを待ちながら、数日後に行うステージの練習に励む。

 ステージの前日にはユーナも王宮へ来てくれる。それがすごく楽しみで、クラリーサ様とのお茶の時間にもついついユーナの話をしてしまうあたしだ。

 用意していただいた会場は中庭の広場だ。特に設営などはせず、このままの場所で踊りたいと伝えた。

 こんなわがまま、国一の踊り子でもないのによく聞いてもらえるなとつくづく思う。すべてはクラリーサ様のおかげだ。

 中庭のタイルを裸足で踏み締める。感覚は良い。

 そこへ、あの男がフラフラと歩いて来て、近くのベンチへ座り込んだ。遠目で見てもお疲れの様子だ。

「こんにちは」

 近づいて挨拶をする。ステージをぜひ見に来てもらわないと。

「はぁ、どうも」

 彼は手で日除けを作って眩しそうこちらを見た。

「あたし、今度ここで踊るので、よかったら見に来てください。疲れも吹き飛ばしちゃうから」

「そういえばそんな話してたな……」

 小声で言ったの聞こえたからね。あたしのステージの存在は知っているということね。

「都合が合えば」

 相変わらずあたしには興味がなさそうな返事で、あたしはムッとしてしまう。

「ぜひ! 来てね! そういえば先日は新聞の処分ありがとうございました!」

 強めの声に、さすがにびっくりしたのか、長い前髪の隙間に見える目が少し見開いたように見えた。

「あぁ、別にどうってことない」

「親切にしていただいたのに名前も知らなくてお礼にもいけなかったから、名前を教えてください」

「お礼なんて、いらないですよ。お詫びだったから」

 お詫びだとしても、おかげであたしはいくらか心が晴れたのだ。

 ってちょっと待って。あたしが名前を聞いてるのに教えてくれないの!?

「そうですか」

 強引に聞いてもいけないしな。もう名前は聞けないのかもと諦めかけた時。

「カイ・ランベアトだ」

 彼の顔を見ると、口元を手で隠している。

 不思議そうに見つめすぎたのか、「名乗るのはなんだか気恥ずかしい」とそっぽを向かれてしまった。

 可愛いところもあるじゃない。

「カイさんね! ステージ見に来てください。絶対ファンにしちゃうから!」

 なんだか嬉しくて、さようならを言った足でそのままスキップしながら部屋に戻ってしまった。

 最初の印象が最悪だったけど、わりといい人だってわかったし。意外と可愛いところもあるし。

 少しはあたしのファンになってきてるって期待してもいいかな?

 ちょっとうっかりして部屋に戻ってしまったから、アリーチェさんが「お戻りでしたか」とお茶を入れてくれた。

 あたしは練習中なのだった。うっかり忘れるなんておかしいな。

 せっかく入れてもらったお茶をのんで、また中庭に戻ると、さすがにもうカイさんはいなかった。

ようやく動き出してきた感じです!


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