森の中
「ん?…おいおい、ここはどこだよ?」
目を開けると、俺は森の中にいた。さっきまでラスベガスの地下にいたのにどういうことだ?周りを見渡しても、人の気配が全くしない。もしかして痛みで気絶したのか?
「痛っ!腕は怪我したままか…。もしかして現実なのか?」
森に連れてこられるような心当たりはない。その時、脳内に遠い昔の記憶が浮かび上がった。
「おい斗真!たまには本を読んでみないか」
「いや、俺は練習しておくよ」
「相変わらず真面目な奴だな~。いいからこのライトノベル読んでみろよ!異世界転生ものだけど、他の作品と違って主人公がさ~」
「なるほど、これが異世界転生か。いや、異世界転移が正しいのか?まさか、あいつのウザがらみが役に立つとはな。たしか、あいつは相撲辞めたんだっけ」
俺は少し懐かしい気持ちになると、心の中であいつに感謝する。お前のおかげで少し状況が理解できた。田中君ありがとう。
「さて、状況は把握できた。だけど、まったく何をしたらいいか分からないな」
「ウウウゥゥゥー」
「まあ、まずはこいつをどうにかするか」
俺の目の前で、灰色の犬が威嚇をしている。空腹なのか、よだれを垂らして獲物を睨んでいる。
「大きさは1.5メートルぐらいか。なら、片手で十分だな」
「ウウウゥゥ…、グラォォ!」
犬が叫び声をあげて、とびかかってきた。俺は右手で喉をつかむと、左回転し、犬の頭を木に叩きつける。頭蓋骨と首が砕ける音と感触から、一瞬で命を奪ったことを確信する。
「一撃か…やっぱり大したことなかったな。まあ、異世界でも動物の強さは変わらないか」
俺は死骸を捨てると、近くに生えているツルをむしり取る。まずは左腕の止血をしないといけない。
「よし、とりあえず左腕の止血はこれでいいか。応急処置だから早く治療を受けないとまずいな。森を出て、人か街を探さないとな…」
これからの目標を考えていると…。
「急げ!何としてでもお嬢様を守るぞ‼」
「ん?」
突然、人の声が聞こえてきた。