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三題噺もどき

綴る

作者: 狐彪

三題噺もどき―ひゃくご。

 お題:綴る・教壇・眼鏡




 ほんの少し、雨の香りをはらんだ風が、ふわりとカーテンを揺らす。

 教室の中をクルリくるりと踊りながら、掲示物達をからかい、また外へと出ていく。

「……、」

 外からは、部活動生達の賑やかな声が聞こえてくる。

 先ほどの風が雨の訪れを伝えてくれたが、彼らが気づくことはないだろう。

 何せあれだけの人で群れているのだ。

 私だって、たまたま1人でいたから気づいたのであって、昼間、この部屋にあふれんばかりの人間がいる中では気づくことはないだろう。

「……、」

 しかしまぁ、今この時期はゲリラ豪雨とは言わないまでも、突然に雨に降られることは多々ある。

 だから、彼らもそのうち気づくだろう。

 それに、そんな急に降られたとしても、汗をかいているだろう彼らにとってはありがたいぐらいではないだろうか。

 ―いや、そんなわけはないか。普通に風邪を引きかねない、そちらのほうが問題になる。

 今この時期は、人によっては最後の部活動をして、最後の大会に向けての練習をしているのかもしれない。

 私の学校は、いわゆる強豪校というやつで、地元ではそれなりに有名である。

 まぁ、地元ではとつくあたり、たかが知れているというものだが。

 ―おっと、あまりこういう思考をするのはよくないな。私の悪い癖だ。

 こんなだから、友達やあまつさえ親にまで、ひねくれ者と呼ばれるのだ。

「……、」

 だけどこんなひねくれ者になったのは、親に起因するものもなくはないと私は思うのだ。

 子は親を見て育つというし、私の親もそれなりにひねくれ者だと思うのだが。

 そのひねくれ者相手に、ひねくれてると言う友達もなかなかではないかと思う。

 あなたのほうがひねくれ者では?と問いたくなる。

 類は友を呼ぶというし、私がそうならあなたもそうでは?―なんてこんなこと考えるからそう言われるのに、全く学習しないな私は。

「…この間0.2秒、」

 なんちゃって。

 多分少なくとも3分ぐらいは、外を眺めてぼーっとしてた。

 その間に考えていたことはたくさんある。

 夕日がきれいだとか、暑そうな人多いなとか、この眼鏡ブルーライト加工入ってるんだよなとか、そこから見たら青く見えるのかなとか―そんなしょうもないこと。

「……さて、」

 だが、あまり考えてばかりもいられない。

 そろそろ書き出さないと時間が差し迫ってきている。書くのに最低30分以上はかかるのだから、いい加減動くことにした。

「……、」

 机の脚元に置いていた鞄の中からお気に入りのノートを取り出す。

 B5サイズのリングノート―表紙の何とも言えないかわいらしい水色のような色に目を引かれて、ほとんど一目惚れで購入した。

 そして、机の上に置いてある筆箱の中からお気に入りのシャーペンを探す。

 こちらは、パステルカラーの紫―これも割と衝動買い。

 そして消しゴム、私は白が黒く汚れるのは好きではないので、本体が黒いものを使っている。

 よく使うので、3個セットで買った。今使っているのも半分ほどになってきている。

「……、」

 そして、ペラペラとページを捲り、何もない、罫線がひかれただけのまっさらなページを開く。

 私は中途半端が好きではないので、見開きで使用できるようにしている。

「……、」

 少しずり落ちてきた眼鏡をはずし、鞄にしまっていたケースの中へと戻す。

 実を言うと私は目が悪いわけではない。 

 むしろ良すぎるぐらいだと思う。

 けれど、私は私の素顔が好きではないし、スイッチの切り替えというか、気分の入れ替えの合図にするには丁度いいので、伊達メガネをかけて普段は生活している。

 家ではかけたりかけなかったりしているが、かけているとあのひねくれ者の親にからかわれるのでほとんどかけていない。

「……ふぅ、」

 カチカチとシャーペンを出しながら、さて今日は何を書こうかと今更考え始める。

 書出しを決めてさえすれば、私は設定など細かく考える人間ではないので、そのままの勢いで書き始める。

「……、」

 何かネタはないものかと、教室の中に視線を走らせる。

 私の席は一番端、窓側の一番後ろの席―最優良物件とでも言っておこう。

 教壇までの距離が一番遠く、居眠りをしていてもそうそうバレやしない。

 そのうえ、私の前に座る人間は背が高いので隠れることは容易だ。

 しかしまぁ、私は先生方には極度に好かれず嫌われずをモットーにしているので、そうそう目を付けられるようなことはしない。

 たまに居眠りするけど。

「……、」

 黒板に目を向けると、明日の時間割が書かれていた。

 私の位置からは、教壇が黒板のギリギリ下をかすめているのでチョークの置かれている場所は見えない。その黒板には、1~6限の時間割がすべて示されていた。

 そこから、私は今日の時間割を思い出す。

 わが校は文武両道を理念とした学校のため、1時間目より前の時間、0時間目とでもいうのか、がある。

 その0時間目が今日は私の大嫌いな英語だったため、朝から気分が最悪だったのだ。

 しかし、その時に起こった出来事は、少々脚色して物語にするのは面白いかもしれない。

「……よし、」

 書くことは決まった。

 自然と書出しも決まった。

 あとは時間との勝負だ。

 今日の出来事を、私の事を、私じゃない誰かの話のように綴る。

 どこかの誰かの物語のように、綴る。

「……、」

 私はこうやって、1人夕方の教室に残って今日の出来事や今までの事を物語として綴っている。

 ちょっとした趣味の延長のようなものではあるが、私はこの時間がとても楽しい。

 誰かに読んでほしいとかはあまり考えたことはないがーというか、ひねくれ者の私が書いてるせいでものすごい言い回しがめんどくさいというか、読みにくそうなので、人に読まれることは向いていない気がする。

「……、」

 けれどいつか、そんな日が来たらと思う私もいる。

 うん。

 それもいいかもしれない。

 読まれる読まれないは別として。

 私の自己満足でもいい気がする。

 いつか誰かの目に留まればいいなとか、それぐらいでいい。

 お気に入りを、どこかの誰かと共有できるのはいいかもしれない。

「……、」

 そんなことを考えながらも手の動きは止めず、今日の物語を綴っていく。

 少々考える時間が長すぎただろうか。

 そろそろ、下校時刻が近づいてくる。

 まぁ、書き終わらなかったら家で続きを書くまでだ。

 私は、私の思考が、続きを、物語の終点をどうしようかということで、一杯になるのが案外嫌いではないから。


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