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「どうしよう。もしかして結婚してから『あなたを愛する気はありません』って初夜に言われるやつかな?」
バートン公爵家ではその頃、アダルウォルフが頭を抱えていた。アダルウォルフの兄であるドレイク・バートンはそんな弟に呆れている。
「それって女性がされるのが多いやつじゃないか。『君を愛することはない』って言っておいてからの溺愛パターンの小説が流行ってるぞ。男性がやられるのは斬新だな」
「婿入りしたら実は愛人がいましたとか……だって他の女性とパーティーに行く時は事前にはっきり言ってくれとか……おかしいだろう……あと婿入り前に愛人は困りますなんて……婿入り後ならいいのかよ!? 好ましいの意味は!?」
「愛人OKならウォルフにとってもいいんじゃないか?」
「いや、良くないだろ!」
「ウォルフにとっては婿入り先ができたから細かい事は良いじゃないか。あんなことになってしまってから未亡人やどこぞの夫人達から愛人にならないかっていう誘いが多くて大変だっただろう?」
なまじウォルフの見てくれが平均以上なだけに「子供ができるリスクがないならば」「あなたは嫡男じゃないんだし」と変なお誘いがたくさん来た。愛人というより王女と同じでアクセサリー感覚である。
「細かい事というか……愛人って道徳的な問題だろ。きっと第五王子殿下のことや生い立ちが絡んでいて……彼女の価値観はちょっと変わってるんだ」
「ふぅん。どのみち好かれるように頑張るしかないだろう。幸い、好意は他よりも抱いてもらっているようだし? お前、顔はイイんだから頑張れ。ほら、そうと決まったらヴィクトル嬢に手紙でも書け。愛を囁け」
ドレイクは弟が案外真剣に女性のことを考えていることに目を細めた。
「一体、何を書けばいいんだ……」
「エレオノーラ王女殿下の時みたいに、ないことを誇張して書けばいいだろう」
エレオノーラ王女というのは元婚約者だった第三王女の名前である。
「はぁ。あれは手紙を書かないとネチネチ言われるから書いていただけで……。ほとんどどれかの本を丸写ししたり、侍女に手伝ってもらったりして書いてた」
「うわぁ、酷いな、それって。バレなきゃ丸写しでも良かったのか」
「王女殿下にとっては手紙やプレゼントが届いた事実が大事なんだろう」
「なるほど。誕生日や記念日に薔薇の花束を渡されるのが好きな女性もいるが、毎日薔薇を贈ってもらうのが好きな女性もいるしな。王女は後者なのかな」
そうじゃないとアダルウォルフは思いながらもため息を吐く。王女はチヤホヤされるのが好きなだけだ。ルアーンとは全く違うタイプの女性だ。
「まぁ大丈夫だろう。だって今の時期にウォルフ以外に残っているのはみんな男爵家や子爵家の次男以下だ。あとは女遊びが激しいあの侯爵令息と、使用人をすぐ辞めさせるというウワサのあの伯爵令息あたりだろ。ウォルフが残っている男の中ではトップクラスにイイ男だ。自信を持て。愛を育めなくても愛情は持ってもらえるかもしれないぞ」
全く助けにならない兄の助言。
執事が用意した品の良い便せんを前にして、ウォルフは一日唸る羽目になった。最近まで王女と婚約していた上に、女性に熱い視線を送られるのが日常だった彼にとって女性に自分から手紙を書くのは非常に難しいことだった。