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「ところで王太子殿下、婚約は認めていただけるのでしょうか?」
「あ、あぁ……私からも陛下に進言するし協力しよう。夜会で騒動になっているからスムーズに進むだろう。それに命がけで救ってくれたアダルウォルフのためだ。両家にも説明に行こう」
「まぁ、ありがとうございます。母が現在旅行中でして、うちの父はごねると思いますので大変助かります」
「話を聞いていて何となくそうじゃないかと思っていたよ。伯爵夫人は夫を置いて旅行に行ったのかい? 領地にでも?」
「母は父の愛人と旅行に行っておりますわ。仲が良いんです、あの二人。やはり共通の敵がいると絆が生まれるのかもしれませんわ」
「……うっすら思っていたけど、君の家って大丈夫なのか?」
「私にとっては普通のことですから。王妃様と側室様も仲が良いではありませんか」
「いや、それはそうなんだけど……父は彼女たちの敵ってわけではない……はず」
王太子は自信なさそうに眉を寄せている。
「バートン公爵家には殿下にご足労いただかなくとも大丈夫かと。両親は反対しません」
「あぁ、だが私がきっちり見届けたいんだ」
ウォルフは諦めた様に頷いた。
「ところで、第五王子殿下は今後どうなるのでしょうか? 腕に引っ付いていたご令嬢は確かヒギンズ子爵家のご令嬢でしたわね。あの家の跡取りは嫡男だったと思うのですが違いましたか?」
第五王子から変な言いがかりをされたらたまらないので確認する。
「あぁ、リリー・ヒギンズ子爵令嬢だ。彼女は跡取りではないな。それに子爵家に余っている爵位はない」
ウォルフがさっさと答える。つまり、第五王子は子爵家に婿入りはできないし、余っている爵位を継ぐこともできない。
「それについてはヴィクトル嬢に迷惑がかからないよう異母弟に一筆書かせよう。第三王女を他国に出すのかどうかでも第五王子の待遇に影響があるからな」
第三王女とはウォルフの元婚約者だ。側室の娘なので、王太子の異母妹だ。
***
王太子からこの婚約を進める上での協力をとりつけ、夜会の主催者である公爵に騒ぎの謝罪をし、帰宅した。仲良くしていた公爵家のご令嬢からは「物語みたい! 素敵!」とえらく羨ましがられた。
待っても父は帰宅しなかったため、どうせどこかでお酒を飲んでいるのだろうと家令に伝言を頼んでおいた。
そうすると朝帰宅した父はさも当然といったように私の頬を張った。第五王子との婚約がなくなったとしか伝えていないので予想の範囲内である。
「この役立たずが!」
「耳は良いのでそんなに大声でなくても聞こえます。お父様、また耳が遠くなったのですか? あと、大変お酒臭いです」
こういうところが可愛げがなかったのかもしれない。ただ、理由も聞かずに役立たずと罵られる謂れはないのでついつい嫌味を返してしまう。
それに、この後王太子の来訪を告げる先触れが来ることを私は知っている。酒臭さは絶対何とかした方が良い。
「アイツに似てお前が生意気になったから王子殿下との婚約がなくなるのだ!」
「婚約をやめたい理由は第五王子殿下にしっかりお聞きしませんと分かりませんわ。お父様に似て愛人を囲う様な人間になった方が良かったのでしょうか?」
もう一度頬を張られそうになったところで、王太子の先触れの到着を使用人が告げた。
別に私は演出上、もう一度叩かれるくらいは大丈夫だったのだが。
「な、なぜ王太子殿下が……?」
「婚約が無くなる説明と新しい婚約についてですわ。昨日の夜会で王太子殿下と少しお話しましたの。お父様、お酒臭いので大至急湯を浴びていらっしゃった方がよろしいですわ」
弱いものには強気だが、権力相手にはとことん弱い父を家令に任せて部屋に戻る。
侍女が頬を冷やすための水とタオルを持ってきてくれようとしたが断った。腫れていた方が絶対話し合いには有利だからだ。お母様と愛人が旅行中でなければお父様ももう少し大人しくしていたと思う。残念ながら我が家の頼れる女性二人は不在なので、新しい婚約のためにこのくらい体は張っておいてもいいでしょう。
王太子殿下がやってくると、お父様は朝とは別人のように畏まっていた。まだお酒臭い。どれだけ飲んだのか。
ウォルフも一緒に来ているので心強い。
「昨日の夜会で第五王子が騒動を起こしてね。ルアーン嬢という婚約者がいるにも関わらず、他の令嬢と婚約すると言い出したんだ」
王太子はつらつらと事情を説明してくれている。ウォルフの視線はルアーンの赤くなった頬に注がれていた。