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「ウォルフ?」
いつもよりやや高い彼の体温が伝わってきて荒い息が頬にかかる。手のひらも熱いが大丈夫だろうか。
抱きしめられているので、ウォルフの体を押してなんとか隙間を作って周囲の様子を観察した。
「殿下、なぜ彼女がここに? 彼女は危ない目に遭わせないという約束だったはずです」
約束とか、私何も聞いていませんけれども。
「ちゃんとそうしたつもりだった。エミリーにヴィクトル嬢を迎えに行かせた後に、彼女を襲おうと計画していた令息たちを捕えてすべて終わるまで一緒に待ってもらう予定だった。だが、ヴィクトル嬢の用心深さを舐めていた。エミリーが疑われたようでね」
偽名なのか本名なのか、エミリーは令息二人を縛り上げて一人を蹴とばし、もう一人を思い切り踏んでから私たちのところに軽やかに走り寄って来た。
「申し訳ありませんでした……あれほど人の目があると誰かに聞かれる可能性があったので事情も話さずにお連れする必要がありましたが……ヴィクトル嬢、足めちゃくちゃ早いんですもん」
彼女は最後の口調が素だろうか。それにしても、エミリーは味方なのだろうか。
「えっと」
「第三王女はウォルフを愛人にしてオルレーヌに連れて行くために、休憩室で君を男たちに襲わせる計画を立てていた。そのことでウォルフを脅して従わせようとしたんだよ。ウォルフがなかなか従わないでいたら、催淫剤を飲ませて同衾しているところを見せるつもりだったらしい。半分血がつながっている異母妹ながら……下衆で杜撰な計画だ」
「エミリー嬢は一体……」
「エミリーは私の部下で異母妹の侍女として潜り込ませていた。その男も私の部下だ。オルレーヌが一夫多妻制だとやっと知ってから、異母妹がやらかしそうな不穏な気配があったのでね」
王太子が騎士たちに指示を出しながら答える。パーティー会場でウォルフに声をかけてきたあの人もいる。
そしてウィンク令息も王太子の部下だった。彼は「ヴィクトル嬢がこの部屋に入ってきた時は失敗したのかと息止まるかと思いました。おい、エミリーほんとちゃんと仕事しろよ。プランBになるって」と呟いている。
「わぁ……どうりで男爵令嬢にしてはドレスの生地が高級すぎると」
「げ、そんなとこ見てたんですか! 殿下! もうちょっと次から安物にしてください! ドレスのせいで私疑われてこいつに仕事しろとか言われるんですよ!?」
「あ、いえ。エミリー嬢もしっかり受け答えされてはいましたがもちろん怪しかったですし……あとは給仕の人がエミリー嬢についていく途中で首を横に振ったので……ついて行ったら小説のようにまずいのかなと思いました」
「あぁ、だから急に走り出したんですね!」
「主催者である侯爵には今日起こることを話してあるが、使用人までは何が起きるか分かっていない。おそらく王女に指示された令息たちの下衆な会話を聞いて君を止めてくれたのだろう。あぁ、王女の生母である側室も今日の件は知っている。むしろ側室が言い出したからこうやって異母妹を処罰できる」
「いやいや、殿下。エミリーの言い方に問題あったんですって。ウォルフの代わりに呼びに来たからついてきてくれって言われて普通ついて行かないでしょ」
ウィンク令息が倒れたイスを片付けながら口を挟む。
「きぃ! これまでのご令嬢はそれで付いてきてたんですよぅ! ハンカチやアクセサリーなくしたから一緒に探して、の方が良かったですか? それだと周囲の他の令嬢も釣れるんですよ!」
「どんだけ他のターゲットがちょろい箱入り娘だったんだよ」
「私の雰囲気が怪しくなくて、信用に値する態度だったんですってば!」
「第三王女の取り巻きにはいないタイプのしっかりしたご令嬢だと思いましたが……商売関係なら第三王女の周りにいるのかなと」
「ほら、エミリー! 普通はヴィクトル嬢みたいに頭働かせるんだよ!」
「じゃあなんですか! 今度からストーカーが怖いからお手洗い付いてきてって言えばいいんですか! あんまり変なこと言うと王女周辺に話が漏れて、計画変更されたら夜会会場で騒ぎ起こしてたかもしれないのに!」
エミリーとウィンク令息は仲がいいらしくギャアギャア言い争いをしている。
ところでウォルフはいつまで私を抱きしめているつもりだろうか。さっきから私はウォルフに頭を撫でられて落ち着かない。
「私は今日の件を何も知りませんでしたが、ずっと計画されていたんですか?」
「いや、不穏な動きがあると分かってから注視していたがあの異母妹が何をしようとしているか、計画の全容が分かったのはつい最近だ」
「はい。王女殿下ってあれだけ杜撰なのに自分の中でよしと決めるまで周囲に言わないんですよね」
「だから急遽今日の件を計画した。騎士団も動員することにしたから婚約者である君には内密にしておかざるを得なかった。君も異母妹の標的ではあったわけだから余計におかしな動きをされるわけにはいかなかった」
「え、ウォルフ?」
ウォルフの体から急に力が抜けてずるずると膝をつく。慌てて支えようとするが、ウォルフは鍛えているので一緒に倒れこみそうになった。
ウィンク令息がルアーンからウォルフを引き取ると、部屋のソファに寝かせる。
「飲まされた催淫剤の影響だな。この件にはウォルフの協力が不可欠だったから許してほしい。本人も了解はしていたが……さ、これが解毒剤。飲んで時間が経っているから効きが悪いだろうが飲まないよりましだ。この部屋で介抱してやってくれるか」
「お医者様を呼んだ方が」
「大丈夫。この解毒剤は医者に用意させたものだ」
「なら解毒剤を飲ませますので公爵家に帰らないと……」
「まだパーティーは続いている。この姿のウォルフを他に見せない方がいい。これから第三王女を連行するから」
「あ、はい……」
「ヴィクトル嬢、君に計画を知らせることができずにむしろ危ない目に遭わせてしまったことは申し訳なかった。落ち着いたら改めて謝罪を」
エミリーがテキパキ水やらタオルやらを用意してくれて、ウィンク令息は横たわるウォルフの衣服を少し緩めてまたもウィンクしながら王太子たちと一緒に出て行ってしまった。




