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化粧室の前を通り過ぎて歩いていると、一室から話し声がした。
休憩室は先ほど向かっていた方向のはず。誰がここにいるのかしら。
部屋に近付くとぼそぼそと話し声が聞こえる。ルアーンの耳はその中からウォルフの声を聞き分けた。
やっぱりさっきのって嵌められそうになってたんだわ。扉の前に人がいないから協力者は多くないということ? それとも、考えたくはないけど……ウォルフがまさか浮気してる?
夜会に参加した時に分かりやすく放っておかれたことはこれまでない。デートだってお茶会だってよくしている。
でも、それは元婚約者の第五王子と比べて、である。普通はどのくらいの頻度で会うのか知らないし、平気な顔して浮気する人がいるのもルアーンは知っている。
父で培われた価値観がずっと頭の片隅に巣くっていて、少しでも不安になった瞬間に囁いて思い出させようとしてくる。
もういいか。ウォルフが浮気していたらしていたで、その時考えよう。ここなら叫べば誰か駆けつけてくるだろうから。
頭を振って迷いを振り切るように扉を勢いよく開けた。
中にいたのは――。
ローズゴールドのドレスを纏った華やかな第三王女殿下。彼女は立って腰に手を当てて大変偉そうだ。
ウォルフもいたが、彼は男性二人がかりでおさえつけられて王女殿下の前のイスに座らせられている。男性二人は夜会に出席するような格好だから使用人ではなく、どこかの令息だろう。
あら? これは浮気現場ではなさそう?
「ルアーン、どうして……」
ウォルフがこちらに顔を向けて目を見開く。
「あら、そろそろ向かおうと思っていたのに計画と違うわね」
第三王女はルアーンの姿を認めると、令息二人を見て問いただすように言う。
「問題なく呼び出したはずです!」
「まぁ、ちょうどいいわ。あなたが要らないと言えば済む話だもの。ねぇ、あなた。ウォルフとの婚約を解消してウォルフを私に返して下さらない?」
「は?」
軽く言われて耳を疑う。王女は側室様によく似た綺麗な顔をこちらに向けて笑みをたたえている。見た目だけは綺麗な王女様だ。
「私が捨てたものをあなたが運よく屑籠から拾っただけでしょう? それを返してと言っているの」
「話が見えませんが……」
令息の一人は扉が開いたままではまずいとこちらにやってこようとしたが、ウォルフが身をよじって逃れようとしたので慌てて元に戻る。
「だって私以外に妻がいる男に嫁がないといけないのよ? 私にも愛人くらいいないと不公平だわ」
オルレーヌ国が一夫多妻制ってやっと分かったのか。
それにしても……言っている意味が分からない。
「美男子で不能なら子供ができないし、愛人にいいわ。私の護衛騎士としてオルレーヌに連れて行けばちょうどいいもの。そうすれば、王太子殿下も嫉妬してくれるわ」
いかにも名案というように王女は話しているが、他国に嫁ぐのに愛人を連れて行くなんて戦争を起こしたいのだろうか?
「オルレーヌ国を舐めているんですか? 君たちもこれに加担したら罪になるぞ!」
ウォルフが声を上げる。よく見たらウォルフの手には噛み跡があり赤くなっている。
声を上げた後はぜぇぜぇ苦しそうだ。
「もしかしてウォルフに何かしたのですか?」
思ったよりも静かな声が出た。




