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王太子がうまいこと権力と圧力で「婚約はダメになったけどお互い新しい婚約が決まってめでたい!」という空気に無理矢理持っていき、私と不能騎士と呼ばれる彼は別室に案内された。
主催の公爵の気遣いなのか別室には軽食が用意されている。侍女たちが退室したのを見て王太子はため息を吐いた。
「君、あんな状況でプロポーズを受けて良かったのか?」
「?? はい。大丈夫です」
「彼のことは知ってる?」
「ええっとウワサくらいしか知りませんわ。ご挨拶をさせていただいても?」
「初対面なのか。話が進まないから挨拶でも何でもしてくれ」
「はい。ヴィクトル伯爵が娘、ルアーンでございます」
「バートン公爵家の次男、アダルウォルフだ」
結婚したらこの方はアダルウォルフ・ヴィクトルになるのか。いいわね。
「バートン様は我が家に婿入りしてくださるということでよろしいのでしょうか?」
「あぁ、むしろ断られると思っていたから驚いている。ヴィクトル嬢こそいいのか?」
「えぇ、もちろん。ただ、一応父にも確認はしないといけません。ですがおそらくあそこまで目撃者がいらっしゃるので押し切れるでしょう」
「二人ともなんでそんな淡々としてるんだ? ヴィクトル嬢は異母弟と婚約をやめたばかりだというのに」
第五王子は側室様のお子様で、王太子は王妃様のお子様なので第五王子は王太子にとって異母弟なのだ。
「失礼を承知で申し上げますがあの状況、私は全く悪くないと思います。むしろうちに婿入り予定の第五王子が勝手に浮気して夜会で婚約解消を言い出したのですよね? 王子に捨てられた令嬢となるのを救ってくださったのは、このお方ですわ」
そういえば第五王子のお名前ってなんだっけ? 殿下って呼んどけばよかったから覚えてないわ。うちとしては押し付けられた婚約だもの。
王家としてはホイホイと王子に公爵家を興させるわけにもいかないし、第二王子や第一王女にあげちゃうから土地ないし、他国の王族とはすでに第三・第四王子や第二王女が婚約しているし。側室生まれの第五王子なら女児しかいない伯爵家に押し付けるわよね。
「それは王家としても慰謝料を支払うつもりだが……あの場で丁度良くプロポーズがくるとか普通疑わないか?」
「考えてみてください、王太子殿下。あなたはとある冒険者パーティーの一員です。ある日突然、冤罪でパーティーを追放されました。するとすぐにツーランク上のパーティーに勧誘を受けました。勧誘されたパーティーに入りますよね?」
「「入る」」
さすが主従。声が合っている。
「それと同じことです」
「いや、待て待て! 婚約と冒険者パーティーは違うだろう!」
「違いません」
「そうだな。同じだな。婚約も所属パーティーも未来が懸っている」
私とアダルウォルフ・バートンの意見は合っている。慌てているのは王太子だけだ。この人、さてはツッコミ属性だな。
「バートン様は私でよろしいのですか?」
「アダルウォルフと。いや、長ければウォルフやウルフでいい。第五王子相手でも引かないヴィクトル嬢の堂々たる姿勢を見ていたら声をかけてしまっていた。あのような場で見世物のようにしてしまって申し訳ない。しかし、羽虫という言葉のチョイスはあまりにも最高だった」
「ではウォルフ様と。私のこともルアーンとお呼びください。良かったですわ。もしウォルフ様があの時、万が一ですが私の外見を褒めてくださっていたらお受けしていませんでした。褒められるような外見ではありませんのであり得ないことですけれども」
「いや、そのようなことはない。外見には性格や心が反映される。あなたは真っ直ぐな素敵な人だ。あなたの輝くアンバーの瞳に自分が映り込みたいと思ってしまった」
「まぁ」
「いやいや、待って! 外見褒められたら嬉しいんじゃないの?」
私の頬がちょっと染まったであろう所で王太子が突っ込む。やはり、この方は立派なツッコミ属性。トップがボケているよりいいですわね。