19
いつもお読みいただきありがとうございます!
第三王女も参加する侯爵家の夜会の日はすぐにやってきた。
ウォルフが迎えに来て、一緒に夜会のある侯爵邸へと向かう。
「良く似合ってる」
「あ、ありがとう。ウォルフも一段とかっこいいわ」
異性に褒められ慣れていないので声が若干上ずったが、伝えたいことはちゃんと言えた。我ながら成長しているのではないか。
「侯爵家は側室様の親戚だから第三王女が夜会に来るんだ」
「ということは第五王子も?」
「子爵家に婿入りするんだからさすがに来れないだろう。後継者教育もこれまでサボっていたんだ」
「じゃあ、来ないかしら。そこは自業自得ってところね」
私と婚約していた時に補佐の勉強をしていたら少しは楽だったのに。
「よほどのことになりそうだったら王家から子爵家に人材を送るそうだよ」
「あぁ、だからヒギンズ子爵は嫡男に継がせるのではなく、婿入りを承諾されたのね」
「王太子殿下も没落はお望みではないから。それにかたっぱしから高位貴族に養子の声掛けをしたのを見かねた側室様の提案だそうだ」
王妃と側室は意外にも仲が良い。側室が王太子を亡き者にして自分の子供を王位につかせようということはないようだが、周囲や王子本人たちまでそうとは限らない。だからこそ王太子は狙われてウォルフが庇ったわけだ。
夜会会場である侯爵邸に到着して挨拶をする。
他国から取り寄せたであろう食器類や陶器がたくさん配置されている。
「まだ来ていないみたい」
「ギリギリだろう。注目されるために遅く来るから」
ウォルフと一緒にバートン公爵家と縁のある方々に挨拶して回る。夜会クラッシャーだと迷惑そうに見られたら嫌だなと思っていたが、周囲は「第五王子殿下の婿入りでやっと一件落着ね」という反応だ。
「そういえばこの前は結局第五王子のせいで踊れなかった」
「婚約してから今日踊るのが初めてね」
伯爵家での夜会では第五王子とヒギンズ子爵令嬢に絡まれたので結局踊れなかった。王子とはそんなに踊っていなかったのでダンスがきちんとできるか不安だったが、ウォルフとは踊りやすい。
ダンスを終えて飲み物を飲もうかという段階でウォルフの同僚が近づいてきた。
「来てたのか」
「あぁ、ちょっと」
「お仕事のお話でしょう? 私はあちらの知り合いのところに行ってくるわ」
ウォルフの同僚が声を潜めたので仕事の話かと察して声をかける。
「ごめん。なるべく早く戻るから誰かと一緒にいて」
第五王子にはよくほったらかしにされていたから一人行動は慣れている。
軽食が並ぶテーブルに行って食事を摘まみ、知り合いの令嬢たちに声をかけた。一人行動をしていた時に、同じく婚約者に放置されていた壁際のご令嬢と仲良くなることもあったのだ。
ご令嬢たちと談笑していると、見覚えのない顔のご令嬢が近寄ってきた。
「失礼します。ヴィクトル様にお話が。バートン様に伝言を頼まれまして」
誰だろう。男爵家や子爵家は数が多い上にお金で爵位を買う人がいるので、顔と名前がすべて一致しているわけではない。子供がたくさんいる家の場合はなおさらだ。
「何かご用かしら?」
「ここでは……」
「分かりました。皆さま少し外しますね」
ご令嬢たちに断ってから輪を抜ける。
「この辺りでよろしいかしら? お名前を教えて下さる?」
「ジュール男爵家が娘、エミリーです。バートン様がこちらにすぐ来れないため、ヴィクトル様を別室にお連れするように言われました」
夜会会場をぐるっと見渡したが、ウォルフらしき人は見当たらない。仕事の件で会場から出たのかしら?
「どうして別室へ?」
「仕事の件でどうしても動けないそうです」
ウォルフは王太子殿下の護衛だからいろいろあるのだろう。何かあったのかしら。
「分かりました。案内していただけますか?」
そういえば第三王女がまだ会場に到着していないなと考えながら、ルアーンは令嬢の後について会場を出た。




