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仕立て屋が完成したドレスを持ってやってきた。
第三王女も参加する夜会で着るものだ。婚約してすぐの夜会クラッシャーになりかけた伯爵家の夜会では、ここまでウォルフを婚約者だとアピールしたドレスではなかった。
「まぁ……ルアーン。綺麗ねぇ」
「お嬢さん、綺麗だよ。本当に。早く婚約者にみせてあげたいねぇ」
濃淡のある紫のドレス。足元にいくほど薄くはなっているものの完全にウォルフの瞳の色だ。
袖などに金糸で刺繍が入っており、光の加減できらきらと透けて見える。
「今日のデートはオペラでしょう?」
「あぁ、あの人気でチケットが取りにくいっていう」
母とミカエラはニコニコ、ニマニマしている。
ドレスを汚すわけにもいかないのですぐに着替え終わったルアーンは頷く。
「いいじゃない。ルアーンはなんだか最近トゲがなくなってきたわ」
「恋の効果ってやつかね?」
「殿下と婚約していた時はこんな感じじゃなかったものね」
「アタシが言うのもなんだけど家庭環境がねぇ。でも恋でこんなに変わるとはねぇ」
ルアーンとしては大して変わった気はしないのだが、子供のころから見ている二人には感慨深いものがあるらしい。
「さ、デートの準備をしなさい」
「夜会が楽しみだねぇ」
二人でさんざん盛り上がっている。
最近、父は影が薄い。
ウォルフが婚約者になったばかりの頃は、伯爵家の補佐の教育をしてマウントを取ろうとしていたようだがウォルフが優秀なのですぐ覚えてしまい、威張り散らせなくなった。
そもそも私と家令に任せてあまりやっていないのだから、威張れる部分もほぼないのだが……。
母はスルースキルが培われてしまったので、父をうまくスルーしている。ミカエラは態度を変えず言いたいことを言うので父が追い出すのかと思ったら、むしろミカエラに脅されていた。「アタシを追い出したら種無しだって認めたことになるだろうね」なんて言っていたっけ。
「ドレスは気に入った?」
「えぇ、とても。着るのがもったいないくらい」
「着てもらわないともったいないな」
「そうね、戦闘服だしね」
ウォルフが迎えに来てくれてオペラに向かう。
人気のオペラなだけあり、身なりのいい人々が劇場に入っていく中で舞台が良く見えるボックス席にウォルフはエスコートしてくれた。
「人気なのにどうやってこんなにいい席を?」
「知り合いの伝手だよ」
「公爵家ってすごいのね」
「すごいのは母だね」
ウォルフは軽くウィンクした。ウィンクが嫌味なくよく似合う。あまりに似合うので顔が赤くならないようにルアーンは前を向いた。
「あら、あれは……」
集団の中でも目立つ人が劇場に入ってきた。第三王女ともう一人は資産家の伯爵家の令息だ。
「あれって」
「王女殿下だな」
こそこそ話すので二人で身を寄せ合う。ウォルフは王女が来るのを知らなかったようで苦い顔だ。
「あれは取り巻きの令息の一人か」
「結婚前に遊んでおくのかしら。もう婚約者もいらっしゃるのだし、国際問題にならないといいけれど……」
「あの王女殿下ならそうだろうな……。王太子殿下が知らないとも思えないんだが」
第三王女たちの席はルアーンたちの席とは離れていたので遭遇することはなかった。
久しぶりに遠目で見る第三王女は相変わらず自信に満ち溢れ、華やかな魅力をもっていた。ウォルフとの婚約を身勝手な理由で解消しても、王女というだけで彼女はチヤホヤされて優遇され、幸せそうだ。国内で婚約が調わなくても、一夫多妻制とはいえ他国の王太子と結婚できるのだ。その陰でウォルフが苦しんでいたとしても。
遠目で見ただけなのに、ルアーンは無意識に難しい顔をしていたようだ。姿を見せただけでこんなに負の感情をかき乱してくる第三王女は素直にすごい。
嫌な感情が渦巻いていると、ウォルフがそっと手を取ってくれた。オペラの間中、ウォルフはルアーンの手を握って離すことはなかった。




