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バートン公爵家での顔合わせからそれほど日を置かないある日。
件の第三王女と他国の王子との婚約があっさり決まった。
「どういうことかしら?」
「王太子殿下が手を回したそうだ。国内でも第三王女の嫁ぎ先がずっと決まらないのは困るからね。なんでも、婿入り予定の侯爵家の次男が婚約破棄騒動を起こしかけたらしい。殿下はこれ以上問題が起こる前に対処したんだ」
「それは王女殿下のお仲間?」
「取り巻きというか腰巾着だった令息だね」
「第五王子殿下のことがあっても婚約破棄騒動なんて。みんな懲りないのね」
「喉元すぎれば、ってやつなのかもしれない」
思わず息を吐く。あまりにあっさり決まりすぎて、情報を持ってきたのがウォルフなのに疑いしかない。
「でも王女殿下って結婚相手に求めるものが多くなかったかしら?」
「特に爵位が問題だった。王族相手ならいいんだろう。なんといってもお相手はオルレーヌ国の王太子だからね」
「あら、そうだったのね。え、でもオルレーヌ国って確か……その……」
「うん?」
ウォルフは何が言いたいか分かっているのか、悪戯っぽく微笑んでいる。その様子は第五王子よりもよほど王族らしい。
「一夫多妻制よね」
「そうそう。現国王と先代国王が一人しか妃を持たなかったから忘れられがちだけど、そうなんだよね」
「王妃に数年後継ぎができなかったら……という話ではないのよね?」
「そういう決まりはないね。限度はもちろんあるものの複数の妃を持つことが可能だ」
「それを王女殿下はご存知なの?」
「あの人は勉強嫌いだから自国ならともかく、他国のことなんて知らないと思うよ。それか王太子殿下の美しさに惚れてどうでもよくなったか」
少し考え込む。王女殿下は複数の女性と夫を共有するのに寛容なのかしら。それとも「私が一番愛されてるわ!」って他の女性を押しのけるのが好きなのかも。いや、確かに気が強そうな方ではあるけれど。
「第三王女で末っ子だから教育を熱心に施されたわけではない。一夫多妻制の国以外で王妃にするのも問題があるからね」
だから、複数の妃が容認される国に嫁がせると。王太子殿下、仕事が早い。
それにしても、最初から一夫多妻制と割り切っているなら夫が他の女性に向いていても心に波風は立たないのだろうか。嫉妬に狂うことはないのだろうか。私は最初から一夫多妻制と分かっていても無理だと思ってしまう。
「そろそろ送るよ」
日が傾き始めたところでウォルフが立ち上がる。今日は公爵家で二人だけのお茶会をしていたところだ。
すると、使用人が花束を持ってきた。ウォルフが花束を受け取ると「これを君に」と手渡してくれる。
「え? どうしたの?」
「いや、どんな花が好きかわからなかったから今まで渡せなかったんだ。伯爵夫人からミモザが好きだと聞いてね」
黄色のミモザが綺麗に束ねられている。
「あ、ありがとう」
花をプレゼントされるのはいつ以来だろう。
花をもらう直前まで普通に喋れたのに、もらってからウォルフの顔を見て話せない。
馬車に乗ってから伯爵家まで口数が極端に少なくなってしまった。こういう時にヒギンズ子爵令嬢を参考にしたらいいのかしら。媚びたように喜んだらいいのかしら。
「あ、あの。お花をありがとう。うまく言えないけど……記憶にないくらいもらったことがないから嬉しいわ」
媚びることもできず、たどたどしくお礼を言う。若干上から目線だったり、卑屈になったりしていないだろうか。
呆れられないか心配だったが、ウォルフはちゃんと微笑んでくれた。




