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いつもお読みいただきありがとうございます!
木曜日に更新しようとしたのですが、間に合わなかった!
王子とヒギンズ子爵令嬢は周囲に遠巻きにされているせいか、肩身が狭そうに真っ直ぐに食事のテーブルまでやってきた。
私達以外にも数組食事をしている参加者がいたのだが、王子と子爵令嬢はよく見ていないらしい。
目は口程に物を言うから目を合わせるのが怖いのかもしれないわね。
ぼんやり二人の動向を目で追っていると、ヒギンズ子爵令嬢がやっと私に気付いた。
「あ……」
「あら、到着したばかりなのにお腹が空いていらっしゃるの?」
先手必勝。
ヒギンズ子爵令嬢が口を開いて何か言う前にしっかり被せてしまった。でも、これは嫌味が過ぎたかしらね……。
ヒギンズ子爵家にも慰謝料を請求したので、さっきのセリフは「夜会に到着した途端に食べ物のところに行くなんてマトモなものを食べていないの? 慰謝料払うのにカツカツで? この夜会は食事目当て?」みたいな意味に聞こえるだろう。
隣でウォルフはちょっと笑った気配がするし。
「ルアーン、お前は本当に嫌味な女だな」
子爵令嬢はささっと王子の後ろに隠れ、相変わらず名前が出てこない第五王子が嫌そうに顔を顰めた。嫌味が通じたらしい。
「殿下、物忘れが激しくなってしまったのですか。もう婚約者でもないのに私の名前を呼んでしまわれるなんて」
ウォルフが腰を抱いてくれたので笑って言い返すと、殿下は口ごもる。なんだ、こんなことで口ごもるなんて他愛もない。女性のお茶会はこれより数段酷い嫌味が日常茶飯事だ。いっそ貴族を辞めた方がこの二人は生きやすいのかもしれない。
最初からこの場所にいた私達がここで立ち去ると「前の婚約者を前にしてすぐ逃げた」なんて言われる可能性がある。退くならあちらに退いてもらわないと。
子爵令嬢が王子の袖を引いて何かコソコソ喋っているのを視界の端に捉えながら、ゆっくり飲み物を飲んでウォルフを見上げた。
「飲んだらもう一度踊ろうか」
「喜んで」
私達、なかなかに婚約者らしい雰囲気が出ているのではないだろうか。自画自賛していると後ろから声がかかった。
「そうだ、お前の家でリリーを養子にすればいい。どうせ相手は不能騎士なんだから跡継ぎができないだろう」
「リリーとは一体どこのどなたのことでしょうか?」
忌々しい提案がされたので振り返る。相変わらずリリー・ヒギンズ子爵令嬢は王子の後ろに隠れていた。
「とぼけるな。彼女がリリーだ」
「あら、ご紹介いただいていないので分かりませんでしたわ」
「リリーという名前のご令嬢はたくさんいるしな」
私がムカついているのが分かったのか、ウォルフ様もしっかり加勢してくれる。
「どのみち将来、跡継ぎに困るんだ。ここで決めておくと安心だろう」
何を決定事項のように言っているのか、この王子は。
「なぜ婚約解消の原因になった方を養子にしないといけないのか理解に苦しみますわ。そちらのご令嬢が言い寄ったのか、殿下が言い寄ったのか存じませんが。それに殿下も当主補佐の教育でさえ逃げ回っておられたのに、跡継ぎなどと口にされるなんて。伯爵家をバカにされているのですか?」
「王族は家の跡継ぎについて口出ししてはいけないハズなんだが……いつの間にかルールが変わったのか?」
「殿下ぁ。養子の受け入れ先はすぐに決まると言っていたのに全然決まらないじゃないですか~。もううちの子爵家でいいじゃないですか、お父様説得すれば済むんだし」
周囲の目も冷たくなっていく中で、場違いなほど呑気な声が響く。出所は王子の後ろだ。
「え、あなた喋れたの?」
リリー・ヒギンズ子爵令嬢はずっと王子の後ろに隠れたままだから喋る気がないのかと思っていた。うっかり出てしまった私のツッコミもおそらく嫌味に聞こえてしまうのだろう。




