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私だけを見て欲しいなんて重いことは言わない。そんなことはもうとっくに父で諦めている。
守って欲しいなんて思っていない。ただ、裏切らないで欲しい。
最初の勢いは一体どこへ行ったのか。
距離を詰めかねるまま、ルアーンとアダルウォルフの婚約は承認された。そして今日は婚約者として迎える最初の夜会だ。
さすがにこの夜会で「いつから用意していたんだ!?」と勘繰られそうな互いの瞳の色と髪色を取り入れた夜会服など着ない。だってつい最近、プロポーズされて婚約成立したのだから。
その代わり、ルアーンはウォルフの瞳の色である品の良いアメジストのネックレスをし、ウォルフは琥珀色のチーフをポケットに入れていた。
会場に入ると好奇の視線が次々に突き刺さる。
「本日の夜会では第五王子殿下がいらっしゃいますね。第三王女殿下はいらっしゃらないと聞いています」
「あぁ、第五王子殿下の謹慎は解けても今後の身の振り方があるからな。焦りもあるんだろう。第三王女殿下は見目の良い有力貴族のいるパーティーにしか出没しないから、今日のような伯爵家のパーティーには来ないだろうな」
二人で挨拶の合間とダンスの時にコソコソ話す。
ダンスは久しぶりだったが、ウォルフとはとても踊りやすかった。
好奇の視線は刺さるものの、挨拶の印象では概ね私に同情する人々が多い。ウォルフのプロポーズのインパクトが強かったらしく「良かったわね」と言う方が圧倒的だ。
「現場は目撃できなかったけど、ロマンチックよねぇ。結婚生活が辛くなった時に支えになるのはやっぱりロマンチックな思い出なのよ」
「初々しいわ~。私と旦那様との出会いを思い出すわね」
挨拶をするたびにご婦人方はアドバイスや惚気を置いていく。
「概ね好意的ですね」
「あぁ、王太子殿下の印象操作のお陰もあるだろうな。あ、あれが第五王子殿下じゃないか?」
食事が置いてあるテーブルの前でコソコソ喋っていると、会場が今日一番のざわつきを見せた。
食事をのせた皿を持ったまま、視線だけ向けると第五王子とヒギンズ子爵令嬢が会場に入ってきたところだった。が、残念ながら人は寄って行かない。チラチラと遠巻きにして様子を見ている。
うーん。さすがに二人とも衣装は新調していないみたい。王子の着ている衣装は見たことがあるし、ヒギンズ子爵令嬢の方は婚約云々の騒動があった時のドレスをちょこっとリメイクしている。
王太子殿下が一括で立て替えて慰謝料払ってくれたものね。王太子殿下への返済があるから資金はカツカツのはずだもの。
「どうやらヒギンズ子爵家の嫡男は後継者の座を譲ってもいいという考えだが、ヒギンズ子爵が猛反対しているようだ。令嬢と王子に跡を継がすなら親戚から養子をもらうとまで言っている」
「子爵は良識あるお方ですのね」
「あれに跡を継がせたら緩やかに没落に近付くだけだもんな」
「嫡男はなぜ後継者の座を譲ってもいいとお考えなんでしょうか?」
「長期間留学したいようだ。後継者だとなかなか難しいからな」
ウォルフの網羅する情報はさすがである。
「では、平民にならないようにご令嬢をどこかの養子にしようとしているのでしょうか」
「侯爵家以上には軒並み断られたと聞いている。何を考えているのかうちにも来た。もちろん兄が断ったが」
「なりふり構わず、なんでしょうかね」
王子とヒギンズ子爵令嬢は主催者の伯爵に挨拶しているが、伯爵は少し言葉を交わすと逃げるように他の人の所へ行ってしまった。
「伯爵家にも養子にして欲しいと声をかけ始めたようだな」
「王太子殿下は第五王子殿下の行いを止めないんですか?」
「第三王女と私とのことがあって、さらに君と第五王子のことがあったからな……。これを機にあの辺りを掃除したいらしい」
「あらまぁ……あ、こちらに来られますね」
会場にいる貴族達は第五王子の行動をがっちり目で追っている。多分第五王子殿下ってゴシップ要員かネタ提供要員として夜会に呼ばれたのかしらね……。
「王太子殿下からは好きにしていいと言われている」
「それは心強いですわ」
さすがに私に話しかけたり、頼みごとをしたりすることはないと思いますわよ?




