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「どうしよう……彼女にどんな花を贈ればいいか分からない」
ウォルフが手紙を出すよりも先にルアーンからの手紙が届いてしまった。ウォルフにとっては返事を書けばよいのでハードルが下がったはずなのだが、相変わらず便せんを前に頭を抱えて悩んでいる。
「無難に薔薇だろうか? ただ……薔薇が嫌いだったらどうしよう……」
めんどくさい男だなと兄はこっそり思う。
「香りの強い花は好き嫌いが分かれるから、好みが分からないうちは避けた方がいいな」
「う……うちにある薔薇は母の好みで香りが強いものばかりじゃないか……」
右往左往するウォルフを見て、大丈夫なんだろうかこれでとさらに心配になる兄。
「いっそ、プレゼントの類はリヒトール王太子殿下に相談した方が早いんじゃないか? あと、早く返事を書けよ。何日も手紙を返さなかったら相手は不安になるぞ」
「そっか……そうしようかな……」
ルアーンにどう思われるかを気にしすぎて行動を起こせない弟を、早々に王太子に押し付けようとする兄であった。
***
その頃、ヴィクトル伯爵家では――。
「ぶぶぶっ。ありえない。そんなことが!」
「良かったわね、ルアーン。王子殿下のこと好きじゃなかったものね」
「王子が自分から自滅してくれたのはラッキーだね。次の令息はカッコイイのかい?」
「まぁ、ルアーンは顔で決めたわけじゃないわよ」
「置物でも綺麗な方がいいじゃないかい。王子だって当主の補佐としての教育をしようにもからっきしでお嬢さんにおんぶに抱っこだったけど、綺麗な顔をしてただろう?」
帰宅した伯爵夫人と愛人ミカエラがルアーンの婚約で盛り上がっていた。
「でも、夜会でプロポーズしてくれるのはロマンチックよ」
「ロマンチックというか、決めるべきところで決める男っていうのは大事だよ」
二人のウォルフへの評価は、会っていないのに高い。
「えぇ、とてもお得で好ましい方です。ただ、婚約の前に契約書を交わしておいた方が安心できるので愛人項目について相談を」
旅行から帰ってきて満足度が高く、さらに新しい婚約の件でテンションの高い二人に考えた契約内容を話す。
「……お嬢さん、アタシのせいで……変な方向にしっかりさせちまってごめんよ」
「いえ、それなら伯爵である父のせいでしょう。そして元婚約者も、ですね」
「ルアーン、さすがにいきなり愛人のお話はダメだと思うわ。普通のご家庭の方はそういう話はしないし、いきなりされると引かれてしまうものよ。いろいろお話して仲良くなってからの方がいいんではなくて?」
「お嬢さん、特殊な環境で育っちまったからね……世の中の半分の男は浮気しているとしても半分の男は浮気していないんだよ。そういう男もいるんだ。そういう普通の男に愛人だのなんだのと言ってしまうと男は信用されてないと思っちまうよ」
二人にも全力で愛人項目については反対されてしまった。
「でも……契約書にしておいた方が安心だもの」
「ルアーン。あなたは不安なのね? 浮気をされたり、愛人を作られたりするかもしれないって不安だから、わざわざ契約書を作って傷つかないように予防線を張っているのね」
「なるほど。相手が不能騎士だろうがアホ王子だろうが関係ないんだね。いや、好ましく思っている分、今回は余計不安なのかねぇ」
ミカエラはルアーンの頭をぽんぽんと不器用に撫で、伯爵夫人はそっと抱きしめてくれる。
ルアーンは契約書を作成するのは正しいと思っていたのに、なんだか胸がモヤモヤした。




