ゲームオーバー?
小さな勇者を食べるのに夢中になった。自然とお腹が膨らんでいく感覚がし、口の中には血肉の味が広がる。ニタニタしながら頭がおかしくなった、と思いながらもゲームを進めていくと……大きな勇者2人にぶち当たる。
〝ラスト勇者2人の名前を入力して下さい〟
ラスト?ついにラスボスか?
2人と言ったら、俺を虫けらの様に扱って育てたアイツらの名前しかないだろう。
憎いあの2人の顔。
〝タカシ〟
〝ミユキ〟
両親の名前を入力。
2人はなかなか倒せなかった。俺は両親が振るう剣に切られ、気を失いそうになる。
痛い、痛い、痛みで気絶しそうだ。
これはゲームだろ?どうして痛いんだ?
意識が遠のいていき、俺は瞼を閉じて倒れ込んだ。
「……シ?」
「タケシ?」
父さん?母さん?
目を覚ますと、目の前には勇者の格好をした2人。右手には剣を握っている。2人とも何故か涙を流して泣いている。
「ごめんなさい、タケシ」
「ごめんな、タケシ」
「最低な親でごめんなさい」
「暴力を振るって悪かった」
「あなたが嫌いだなんて言ったけど、本当は愛しているのよ。嘘をついていてごめんなさい」
「本当は愛しているのに、お前をずっと傷付けていた。嘘つきで最低な親ですまん」
「どうして、今更……」
「ごめんなさい」
「ごめん」
2人は俺目掛けて、剣を振り上げる。
俺も鋭い爪を振り上げ、鋭い牙を出す。
涙が溢れ落ちて、胸の奥がぎゅっと痛む。
両親を殺したくない。でも腕が勝手に動いてしまう。
鮮やかな血飛沫が上がる。どちらのものか分からないぐらい、大量に飛び散る。
「グワグワグワ……」
倒れながら変なうめき声が出る。俺は本当に悪魔になってしまったんだ。
イソベ社長は俺を育てようと、本当は愛のムチをくれたのに。アユミだって、俺を本当に愛していたのに。
全ては俺の被害妄想のせいだ。
そんな2人を俺は、食べてしまった。
倒れている俺の背中に、父さんが剣をひと突きした。振り返ると父さんは苦しそうに泣いている。このゲームに勝手に参加させてしまったのは俺だ。ごめんなさい、父さん、母さん。
口の中に血の味が広がるのを感じながら、瞼をゆっくり閉じていった。
ん?
目覚めると、また両親が剣を持って立っている。たくさんの涙を流しながら。
ゲームだから……
ゲームオーバーにならない?
ずっと痛みを味わうのか?
いやだ、いやだ、そんなのいやだ!
誰かが向こうでコンティニューを押している。
俺は画面を見つめながら叫んだ。
「グワグワグワワワ!!」
助けてくれ!
ここから出してくれ!
この声は誰にも聞こえない。
俺はゲームの中で、永遠にコンティニューさせられる。
the end




