ゲームはゲーム
着ていたTシャツも返り血を浴びたみたいに、赤黒く染まっている。急いで洗面所で洗い流すと、排水溝に渦巻く液体に吐き気がした。
鼓動が早くなる。何だ、これは?この血は?
昨夜の事を思い返していると、テレビのニュースを見て一気に血の気が引いた。
「昨夜1時頃、〇〇市の住宅で株式会社イソベの社長、磯部康雄さんの惨殺遺体が見つかりました。犯人はまだ捕まっていません」
……え?イソベ社長が殺された?
ま、まさか、ゲームで殺したから、殺された?
ははは、そんな事あるわけないよな……。
ゲームはゲームだ。
俺は変な汗をかきながらも、またゲーム機の電源を入れた。小さな勇者を食べながら、今日はお腹が空かないなぁ〜なんて事を思う。全然ストーリー性もなく、ただ勇者を食べるだけのゲームなのに、のめり込んでいく自分が怖く感じる。時間も忘れてしまう程だ。気付いたら、画面の目の前まで移動していてハッとしてまた後ろへ下がる。
〝勇者の名前を入力して下さい〟
また大きな勇者の名前を決めなきゃいけない。ふと、会社に入る前に働いていたコンビニで知り合った女の事を思い出した。美しい女で一目惚れをした俺は必死でアピール。恋人同士になったが、彼女に好きな人が出来て捨てられたんだっけ。
「あんたなんか嫌い、気持ち悪い」
それから俺は女性恐怖症になってしまったんだ。憎い、憎い、あの女。
〝アユミ〟
その女の名前を入力。
〝タケシがアユミを殺しました〟
まさか、また殺される事なんてないよな?
ゲームはゲームだ。ゲームの中の悪魔はなぜか、俺に似てきたみたいだななんて思いながらゲーム機の電源を切り、瞼を閉じた。
次の日、手に生温かい感触を感じて目覚めると、手のひらにはドロドロの赤い液体、爪は鋭く尖っている。また、Tシャツにも返り血。洗面所に向かうと自分の顔面が真っ赤なのに気付き、悲鳴を上げた。また心臓が早くなる。
「何だ、これは?!まさか……」
あらゆるものを洗い落とし、テレビを急いで付ける。その画面には恋人だった〝アユミ〟が昨夜惨殺されたというニュースが映し出されていた。俺は手のひらに残った感触と、脳内に流れる「助けて……殺さないで」の言葉を浮かべながら体が震え出して止まらなかった。
まさか、まさか……俺が?
どこまでがゲームか?現実か?
分からないまま、俺は呪われるように自然とゲーム機の電源をONにして、コントローラーを鋭い爪で握り締めた。




