特別なバースデー2
久々の更新になります。
去年は、途中からなかなか投稿出来ませんでしたが、今年は沢山書いていきたいと思います!
また、お付き合い頂けますと幸いです。
※前話(97話)の編集も行っていますので、話を思い出しながら読み直して頂ければ…
鐘の音と共に、成瀬がいつにない素早さで立ち上がる。
「行くわよ、二人とも!」
「え、走るの!?」
あたふたと帰る準備を整えて、深雪は急いで防寒具を身に付けた。誕生会の為に、時間で店を予約しているということで、遅れるわけにはいかないらしい。
ところが、成瀬を追いかけて深雪が教室から出た瞬間、すぐに成瀬の背中に勢いよくぶつかった。
「うわっ・・・・・な、何で止まってるの・・・・・」
「あ、ごめん」
短く謝る成瀬の視線は、スマホを向いている。誰かとメッセージのやりとりをしている様で、内容を確認した成瀬は、にっこり微笑んだ。それから、ゆっくりと深雪を振り向く。
「急がなくてよくなったわ。 ゆっくり行きましょ」
「え、あ、そうなの?」
あれだけ予約時間を気にして急いでいた成瀬が、急にのんびりと歩き出す。理由がわからず、深雪は小さく首を傾げたが、問いかける間を成瀬が与えてくれない。
「あーあ、大神先輩も部活が無ければなあ」
大きな声で、残念そうに嘆く成瀬。深雪は隣で苦笑いを漏らした。
自分の誕生日会が開催されること自体、深雪は今日初めて聞かされたのだが、成瀬はこの誕生日会に日路も誘っていたらしい。しかし、部活がある為に来られないという。
当然だろうと、深雪は寂しさを感じつつも納得していた。部活も隔日、他に予定もろくにない、暇人な自分とは違うのだ。当日、自分の誕生日をやるからと言われて、問題なく参加できてしまう自分とは。
そう思う深雪の横では、成瀬が永遠に文句を垂れる。
「頼来も生徒会活動があって来られないって言うし。 頼来のくせに」
忌々し気に拳を握り締める成瀬を、深雪は引き攣った顔で宥めるしかない。頼来も忙しい人だから、来られないのは仕方がない。
深雪と千太郎の二人がかりで宥められても、なかなか機嫌を直さない成瀬に、深雪は優しく微笑んだ。
「成瀬ちゃんと双葉君の二人が祝ってくれるってだけで、私、すっごく嬉しい」
「・・・・・あ、そう」
幸せそうに笑う深雪の反応が、成瀬の溜飲を下げる。まあ、本人がそう言うならと機嫌を直した成瀬だったが、すぐに「あ、でも」と話を切り返してきた。
「私たちだけじゃないわよ、今日の面子」
「え、そうなの?」
深雪は目を丸くして驚いた。
てっきり、三人だけで誕生会をするものだと思っていた。というより、日路も頼来も不参加の中、他に参加し得る人物が思い浮かばない。
一体誰なのだろうと、道中考える深雪だったが、成瀬が予約したという店の前に来たところで、その人物は現れた。
「あ、おーい!」
店前で、学ラン姿の小柄な男子生徒が、元気よくぴょんぴょんと跳ねながら、こちらに大きく手を振ってくる。
「皆久しぶりぃ~」
その人物は、深雪たちの到着が待ちきれず、遂には小走りにこちらまで駆け寄ってきた。
深雪はその人物の顔を認識すると、驚きに目を丸くした。
「黒田君!」
「やっほ、立花さん。 誕生日おめでとー」
にかっと笑って祝ってくれたのは、去年のクリスマス会ぶりに会う黒田だ。深雪は「ありがとう」と返しながら、まじまじと黒田を凝視した。気のせいかもしれないが、若干身長が伸びた様に思える。そんな黒田に向かって、後から優雅な足取りで現れた成瀬が、ゆっくりと片手を上げる。
「来てくれてありがとね、バメちゃん」
「こっちこそ! 誘ってくれてありがとっ」
きらっと光る様な笑顔は変わりがないようで、深雪はなんとなく安堵の息を吐いた。
それから黒田は、成瀬に向かってびしっと敬礼のポージング。
「先に、受付済ませておきました!」
「ありがと、助かったわ~」
すっかり仲を深めている二人の様子を微笑ましく思っていると、黒田の後方から、もう一人の影が現れた。
「バメちゃん、急に走り出すからびっくりしたよ」
「ああ、ごめんごめん」
ゆったりとした低い声色に振り向いた黒田。その視線を一緒に追えば、そこには学ラン姿の王子が一人。
「蓮季さん!」
深雪がその名前を呼ぶと、蓮季は天女の如き微笑みを深めた。マフラーに顔半分を埋めていたが、目元だけでその美しい笑顔の輝きを放つ。
「こんにちは、立花さん。 お誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございますっ」
蓮季のお祝いの言葉に、深雪は恐縮して頭を深々と下げた。まさか、成瀬がこの二人まで呼んでいるとは知らなかったので、動揺を隠しきれない。
店前ですっかり盛り上がってしまった一行だったが、千太郎の「寒いから早く中に入ろう」という言葉に全員異議なく頷いた。未だ日は高いが、肌を刺すような冷たい風が、確実に体感温度を下げていく。スペシャルゲストの登場に気を取られていたが、凍える体は寒さに正直だ。
成瀬を先頭にして店に入れば、暖房の効いた空間に、肩に入っていた力が徐々に解けていく。
防寒具を外しながら、そういえば、鼻も赤くなっているかもしれないと、深雪は急に気になった。手に息をかけるふりをして、冷たい鼻を掌で覆う。
成瀬に気にするなと言われたばかりだが、やっぱり不意に気になってしまうのだ。
寒そうな仕草をする深雪を見た黒田が、同じ様に自分の手に息を吹きかける。
「外、寒かったねー」
「ねー」
深雪は共感の声をあげながら、鼻に被せた手にきゅっと力を籠める。鼻が赤いからと、揶揄ってくる様な人はこの中にいないことは明らかだったが、長年の癖はどうにも抜けないらしかった。




