彼女には理由がある2
二年生組が修学旅行で不在だったある日。
放課後デートと称して、いつもの三人で街を歩いていたら、蓮季と遭遇した。一緒に居た黒田ともすぐに意気投合し、五人でカフェに入った時のこと。
飲み物を取りに、深雪と黒田が席を離れ、残された成瀬と千太郎と蓮季が適当な雑談を交わす。
話題は日路の話になった。
「大神先輩って、料理もめちゃくちゃうまいよね。 王子は毎日あの料理食べてるの?」
非の打ちどころがない日路を褒めちぎると、蓮季はくすくすと笑った。
「そういえばこの前、お弁当作ってたね。 前の日に頼君も泊まりに来て、気合入ってたよ」
「え、頼来泊まりに来てたの? めっちゃうざいじゃん」
「言いすぎだろ、流石に頼来サン可哀想すぎる」
サラリと暴言を吐く成瀬を、千太郎がやんわり窘める。
成瀬の頼来へのあたりの強さは今に始まったことではないが、たまに「こいつ本当にあの人のこと好きなのか?」と疑いたくなるほどの悪態をつくことがある。恥ずかしさの裏返しとはいえ、いい加減にしておかないと自滅してしまう気がする。
そんな千太郎の余計なお世話な思いは露知らず、話は頼来のことへと切り替わっていく。
「成瀬さんは、頼君とは昔からの仲なんだっけ?」
「小学校の縦割りが一緒だったの」
だから仕方なく仲良くなったのよと、思ってもいないことを言って、澄ました顔をする。
千太郎からすれば、白々しい限りで失笑ものだ。
「頼来の奴、王子に変なこと言ってない? 困ったらいつでも言ってね」
あっけからんと言う成瀬に、蓮季は微笑みながら首を横に振った。
「頼君といると、楽しいよ。 恋バナしたいって言われると、提供できる話が無くて困っちゃうけど」
「恋バナぁ?」
成瀬の表情が歪み、声色も低いものとなる。
彼女の空気の変化を敏感に感じた千太郎は、続く蓮季の言葉を緊張気味に待った。
「結局、頼君の好みのタイプを聞いて終わっちゃったけど」
「・・・・・頼来サン、なんて言ってた?」
隣で聞きたそうにしながらも、何かと葛藤して聞けずにいる彼女の代わりに、千太郎が棒読みで蓮季に尋ねる。
聞かれた蓮季は、うーんと唸ってから、申し訳なさそうに頭を搔いた。
「ごめん、あんまり覚えてないや・・・・・」
「え、何それ。 王子最高じゃん」
意外な回答に、成瀬が笑う。記憶力のよさそうな蓮季だが、頭に残しておく情報の取捨選択はかなりシビアなのかもしれない。
蓮季の新たな一面に和んでいると「あ、でもね」と、思い出したことを一つ教えてくれた。
「髪型は、ロングが好きって言ってたかな。 なんか、そんなことは言ってた、気がする」
「うわ、好きなタイプで髪型指定とか。 頼来ってばしょうもな」
成瀬がバッサリと切り捨てたところで、深雪と黒田がドリンク片手に席に戻ってきた。
席に座りながら「何の話してたの?」と聞いてくる深雪に、成瀬は「んー?」と誤魔化すように笑った。
「頼来がしょうもないって話」
「何それ・・・・・」
話の全容を掴めないでいる深雪への説明は曖昧に終わらせて、成瀬が新しい話題を持ち出すのを、千太郎は隣で静かに見つめていた。
あの日からだ。いつも一定の長さを保っていた髪を、少しずつ伸ばしていったのは。
しょうもないと切り捨てながら、そのしょうもなさにしがみつきたくなった。
それでどうにかなる関係ではないことはわかっていたが、それでも、どうしようもなく理想を描いていた。
だから、言われたくなかった。いつ切るのか、なんて。“切れ”と言われている様なものだ。
わかっていたのに。別に、どうこうなりたいわけではない筈なのに。どうしてこんなに苦しいのか。
成瀬は瞳から零れ落ちそうになった雫を、力強く右手で拭い取った。




