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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
80/109

願いは心に秘めて

 千太郎の隣には、成瀬がいるというのが通常なのだが、今日はそのポジションを千里が陣取っていた。


「双葉さんは、身長いくつですか?」

「スポーツは何か、やっているんですか?」

「部活は何部ですか?」


 質問攻めに合う千太郎だったが、きらきらとした目を向けてくる千里を邪険にもできず、短い返事を返していた。


 その寡黙さも、千里の中での千太郎の株を爆上げする要因となる。


 千太郎の横を千里に占領された成瀬は、代わりに隣を歩く頼来に愚痴を零した。


「生意気少年が千太郎に懐くなんて、なんかムカつくわ」


 渋い顔の成瀬の発言に、頼来がけらけらと笑う。


「千里、良い顔してるもんな~。 成瀬たちを見つけた時の反応とは、雲泥の差だな」


 頼来の言う通り、千里の顔からはいつもの機嫌の悪そうな表情が一切なく、その瞳は一途に千太郎を捉えていた。


 ああしていると、やっぱり日路に似ている。そんな風にぼんやりと深雪が思っていると、隣を歩く日路が嬉しそうに笑い出した。


「あんな楽しそうな千里、久々に見たな。 なあ、蓮季」

「そうだね」


 深雪とは反対側の日路の隣を歩く蓮季が、同意して頷く。


 確かに、深雪の中にある千里のイメージと、今の千里の纏う雰囲気は別人に近い差がある気がする。


 一行はそのまま参拝者の列に並び、寒さに耐えながら順番を待った。


 長い列を眺めながら、頼来が「そういえば」と一つの疑問を口にする。


「千太郎、俺たちがいることに対して、ノーリアクションだったな」


 確かに、頼来たちと偶然出会ったのは、千太郎がトイレに行っている間の出来事である。


 それにしては特に状況説明を必要としなかった千太郎に、深雪も今更ながら疑問を抱いた。


 解を与えたのは成瀬である。


「私が先に、メッセージで伝えてあったからね」

「何だよ、せっかくサプライズになったのに。 おもしろくねーな」


 ブーイングの頼来を、成瀬は「おもしろさとかいらないから」と一喝する。


 今日の気温よりも低いテンションで成瀬に返され、頼来はふくれっ面をつくったが、すぐにはっとした顔をして両手を叩いた。


「昨日って、千太郎の誕生日じゃね?」

「「えっ」」


 頼来の発言に、成瀬と千太郎以外の全員が短く驚きの声を上げる。


 頼来はそのまま更に続けた。


「一月一日が千太郎で、一月十四日が成瀬の誕生日だったよな?」

「・・・・・そうだけど」


 頼来から確認された成瀬が、小さく頷く。


 成瀬の誕生日は、深雪も把握していた。まさか千太郎の誕生日が昨日だったとは知らず、遅ればせながらのお祝いを述べる。


「双葉君、おめでとう」

「ん」


 深雪からの祝福の言葉にも、千太郎は短く頷くだけ。


 隣を歩く千里からは、更に煌めく視線を向けられた。


「おめでとうございます!」

「ああ、うん」


 前のめりになる千里相手に、扱いを迷った様子の千太郎が曖昧に頷く。


 後方では日路が、ばつの悪そうな顔をつくった。


「俺ばっかり祝ってもらって、皆の誕生日知らなかったな」


 申し訳ない、と日路が肩を竦める。


「立花は、誕生日いつなんだ?」


 唐突な質問と共に顔を覗き込まれ、深雪は緊張に心臓を飛び上がらせた。


 何とか口から飛び出そうになるのを堪え、一呼吸置いてから口を開く。


「二月二十七日ですっ」

「二月な」


 笑顔で頷く日路を見て、おこがましくも変な期待をしてしまう。


 日路は自分の誕生日を覚えていてくれるのだろうか。


 一人どきどきとしている深雪を他所に、成瀬が目を輝かせて蓮季を振り向く。


「王子は? 誕生日いつ?」


 盛大に祝いたい成瀬の質問に、蓮季が微笑を浮かべて答えてくれる。


「俺が十二月十八で、千里が十九日。 一日違いなんだ」

「えー! 王子の誕生日、逃しちゃってたわー」


 本気で悔しがる成瀬を、頼来がニヤニヤとしながらからかいにかかる。


「残念だったな、成瀬。 日頃の行いの所為じゃないのか?」


 何故か勝者の笑みを浮かべる頼来が相当むかついたのか、成瀬は無言で頼来の脛の辺りを蹴り飛ばす。


 「痛い!」と言って跳ね上がる頼来。それをざまあみろと言わんばかりに成瀬が笑う。


 それを皮切りに暫く続いた不毛な争だったが、参拝の順番が回ってきたことで、一旦休戦となる。


 成瀬、頼来、千太郎、千里の四人が横一列に並び、先に参拝を済ませる。


「頼来の口が塞がりますように」

「成瀬から毒が浄化されますよーに」

「神様の前でも争うのかよ」


 張り合う様にする成瀬と頼来を、千太郎がいい加減にしろと窘める。


 続いて深雪、日路、蓮季の三人が静かに参拝。


 まさか日路と並んでお参りをする日が来ようとは。深雪は昨年一年への感謝を心の内で述べつつ、今年は更なる進展があるようにと小さく祈る。


 参拝を済ませた一行は、何か温かいものでも買おうかと、出店が並ぶ場所へと足を向けた。


「立花は、何をお願いしたんだ?」


 寒さに震えながら歩いていると、日路が太陽の様な笑顔を深雪に向けてきた。


 まさか日路との進展を願ったとは言えないので、深雪は少しだけ焦る。


「な、内緒ですっ」


 力をこめた深雪訴えを、日路は「そうか」と妙に納得した様な表情を浮かべた。


「人に言ったら、叶わなくなるっていうしな」


 素直に受け止めてくれた日路に感謝しつつ、深雪は恐る恐る同じ質問を返してみる。


「・・・・・大神先輩は、何てお願いしたんですか?」


 好きな人のことなら何でも知りたい。一体どんなことをお願いするのだろうか。気になりだしたら夜も眠れないかもしれない。


 そんな深雪の思考を知らない日路は、徐にすっと人差し指を自分の唇に当てて、爽やかな笑みを浮かべた。


「内緒」

「!━━━━っ」


 ずるい!と、心の中で深雪は叫んだ。


 勿論、内緒なことが狡いわけではなく、その表情と言動が狡いという意味である。


 とんでもない人を好きになってしまったと、深雪は今更ながらに項垂れた。

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