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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
77/109

今年を締めくくるは

 クリスマス当日を例年通りケーキを食べて過ごし、冬休みの宿題に追われ、年末の掃除を済ませれば、あっという間に大晦日。


 お昼を食べ終えた深雪は、自室に戻ってベッドにどかりと横になった。


 いろいろあった今年ももう終わり。深雪はゆっくりと目を瞑る。


 本当にいろいろあった。まず、高校生になって大きく生活環境が変わった。


 元々人づきあいが得意ではない深雪だったが、席が近かったという理由で仲良くなった成瀬と友達になった。


 その成瀬の幼馴染である千太郎とも知り合い、クラスでは三人でよく一緒に過ごした。


 そして、日路との出会い。


 初めて出会ったのは入学したばかりの頃、駐輪場でのことだ。あの時は完全なる一目惚れで、まさかそれから夏祭りに一緒にでかけたり、体育祭でお弁当を作ってもらったりするような仲になるとは夢にも思っていなかった。


 今年は他にも、様々な人と知り合った。


 頼来に蓮季、海織や黒田、千里と杏香。


 その一つ一つが、かけがえのない出会いだと思うと感慨深く、深雪はゆっくりと目を開けながらしみじみと息を吐く。


 そして横になった状態のまま、ふと視線を部屋の隅にある机の上に置かれたフォトフレームへと向けた。


 そのフォトフレームは、深雪が日路に誕生日プレゼントとして渡したものと色違い。収められた写真は、その日路の誕生日を皆で祝った際に撮影したものである。


 恐らくだが、日路も同じ写真を飾っているのだと思う。


 ここで言っておきたいのは、深雪はこの色違いのフォトフレームを自分で買ったわけではないということ。


 “図らずも”日路と色違いのおそろいになってしまったのだということを、深雪としては声を大にして言いたいところなのである。


 深雪は再び瞳を閉じ、あの日のことを思い出していた。



***



 日路の誕生日、成瀬家でのことである。


 渡しそびれそうになっていた日路への誕生日プレゼントを、ぎりぎりで彼に手渡すことができた深雪は、駆け足で成瀬と千太郎の元まで戻り、ミッションコンプリートの報告をした。


「ちゃんと渡せたよ! 二人ともありがとう」

「よかったわね」


 顔を赤くしながらも、心底嬉しそうにはしゃぐ深雪の様子に、成瀬も満足げに笑みを浮かべていた。

 

 隣の千太郎は無言だったが、目が合うと小さく頷き返してきてくれた。多分「お疲れさま」と言ってくれているのだと思った。


 未だ夢心地の深雪に向かって、成瀬が「そうそう」と言いながら手招きをした。


 何だろうと疑問符を浮かべた深雪を元居た部屋まで誘導した成瀬は、準備していたらしいラッピングされた白い袋を渡してきた。


 反射で受け取った深雪だったが、わけがわからず首を傾げる。


 要領を得ていない様子の深雪に、成瀬はにやりと笑みを浮かべた。


「プレゼントよ。 ミッション達成のご褒美ってところかしらね」

「えっ」


 深雪は驚いて手にしていた袋を凝視した。それから、困惑した表情を浮かべる。


「で、でも今日は大神先輩の誕生日な訳だし。 私が成瀬ちゃんから、一方的にプレゼントもらうなんて・・・・・」


 今日、成瀬にプレゼントをもらう理由が深雪にはない。深雪の誕生日でもなければ、どこか旅行へ出かけたお土産ということでも無さそうである。


 深雪がごにょごにょと言いながら、プレゼントを受け取ることに対して後ろ向きになっていると、目の前の美少女は「だぁからぁ」と声を大きくした。


「ミッション達成の褒美だって言ってんでしょ。 黙って受け取りなさいよ」

「は、はい・・・・・」


 最早ご褒美という名の押し売りだが、プレゼント自体は喜ばしいことなので、深雪は引き攣った笑顔を浮かべながらラッピングを解いていった。


 一体何が入っているのだろうと、どきどきしながら袋の中に手を突っ込む。


 何か固く角ばったものが手に触れ、そのまま袋から取り出してみる。


 プレゼントの中身を目にした深雪は、驚きに目を丸くした。


「こ、これって」

「ナイスでしょ」


 成瀬が鼻高々に腕を組む。


 深雪の後ろから、千太郎が覗き込んでプレゼントが何であるかを確認した。


「フォトフレームじゃん」


 千太郎がの呟きが、深雪の耳に届いて頭の中に文字として浮かぶ。


 そう、フォトフレームだ。深雪が日路にプレゼントしたものと色違いの、深雪があの店で見かけたものの中の一つ。


 深雪は驚いたままの瞳を成瀬に向けた。成瀬はというと、得意気な顔のまま口を開いた。


「あの時深雪が、大神先輩へのプレゼントっていうより、自分が興味あるものを物色してたことなんて、お見通しなのよ」


 成瀬の言葉に、深雪はぎくりとして肩を窄めた。


 確かに彼女の言う通り、あの時フォトフレームを手に取ったのは、単に自分が興味を持ったためである。


 買い物に付き合ってもらいながら、まさか関係のないものを見ていたとは言えなかったが、最終的には日路へのプレゼントに繋げることができたので、勝手に結果オーライにしていたのだが、成瀬には全て見抜かれていたらしい。


 肩身が狭くなった深雪は、フォトフレームに既に収められている写真を確認して、再び目を丸くした。


「この写真、さっき撮ったやつ」


 つい先ほど、頼来が日路に手渡していた写真と同じもの。


 深雪が成瀬に視線を向けると、彼女はやれやれと頭を振った。


「頼来がプリントさせろって言うから、その代わりに深雪の分としても一枚プリントさせろって言ったのよ」

「そうだったんだ・・・・・」


 道理で二人とも、かくれんぼ終了後に部屋へと戻ってくるのが遅かったわけだと、今更納得する。恐らくあの時、二人は写真をプリントしていたのだろう。


 深雪は感心しながら写真を眺め、それからはっとして顔を上げた。


「吉井先輩、大神先輩にも同じ写真を渡してた。フォトフレームに飾れば良いって」


 色違いのフォトフレームに、同じ写真。まるで示し合わせた様ではないか。


「あら、良かったじゃない。 晴れて大神先輩とおそろいね。 写真立ても写真も」

「勝手におそろいって大丈夫かな? き、気持ち悪くない?」


 動揺して挙動不審になる深雪に、成瀬が真顔でフォローを入れる。


「バッカじゃないの? たまたま一緒になったのよ。 偶然偶然」

「白々しいな」


 適当にほざく成瀬を千太郎は鼻で笑ったが、成瀬は知らん顔。


 深雪に向かって「家まで送るからさっさと支度しなさい」と言って、とっとと部屋を出て行ってしまう。


「待って、成瀬ちゃん!」


 フォトフレームを袋へと丁重に戻しながら、深雪は慌てて成瀬の背中に呼びかける。


 プレゼントをもらっておいて、お礼もできていない。深雪は急いで成瀬の背中を追いかけたのだった。



***



 後方から聞こえたスマホのバイブ音に驚いて、深雪は視線をフォトフレームから外した。


 意識がすっかり過去に飛んでいたので、急なバイブ音に無駄に鼓動が高まった。


 寝転がった状態で体の向きを変えれば、ベッドの上に放られていたスマホが着信を知らせていた。


 メッセージの着信ではなく、珍しく電話が鳴っている様で、深雪は画面に表示された名前を確認して慌てて電話に出た。


「もしもし、成瀬ちゃん?」

「あ、深雪ぃ。 今ちょっといい?」


 電話口の成瀬の声はいつもより穏やかで、ゆっくり休みを満喫しているだろうことを感じさせた。


「うん、大丈夫だよ。 どうかした?」


 成瀬と話すのはクリスマス会をした二十三日以来である。大して日が経ったわけでもないし、メッセージのやりとりはちょくちょくしていたのだが、彼女の声は酷く懐かしい感じがした。


 話を促す深雪に、成瀬は単刀直入に尋ねてきた。


「深雪、二日って空いてる?」

「二日? 空いてるっていうか、まあ・・・・・予定はないよ」


 年末年始の予定は、いつもぼんやりしている。


 なんとなく年を越し、なんとなく祖父母の家を訪れ、なんとなく正月セールをしている店を回る。


 特にこの日、この時間にこれをするということは決めないのが、深雪の年末年始の過ごし方。


 成瀬に予定を聞かれた一月二日も、勿論例外ではない。


 深雪の返事はいまいちはっきりとしないものだったが、成瀬はそれを都合よく捉えた様だった。


「初詣、行きましょ」


 成瀬の唐突な提案に、深雪は電話越しに仰天する。


「初詣!?」


 少しオーバー気味に深雪が驚くと、成瀬が「何よ」と怪訝な声を漏らした。


「人ごみ嫌いな成瀬ちゃんが、初詣に誘ってくるなんて。 雪降っちゃうかなあ」

「うるさいわよ」


 ぴしゃりと跳ねのけられ、深雪は渋々押し黙る。


 それから、成瀬の言った初詣へと考えを巡らせた。


 友人と初詣など、行ったことがない。いつも正月を大分過ぎたぐらいに、観光目的で訪れた神社で、そういえばこれが初詣かもしれないと思うのが通例である。


 初めての経験を思い描いてうきうきした深雪だったが、すぐに頭の隅で警鐘が鳴った。


「またなんか、ミッションとか言い出さないよね・・・・・?」


 深雪は恐る恐る尋ねる。成瀬のことだから、無理難題をくっつけてくるくらいのことはありえない話ではない。


 身構えた深雪だったが、意外にも成瀬に笑い飛ばされてしまった。


「言わないわよ。 それに今回は、私と深雪と千太郎の三人だけで行こうと思ってるし」

「え、そうなの?」


 あまりに意外な展開で、深雪は素っ頓狂な声を上げてしまう。


 電話口から、成瀬の低い笑い声が聞こえてきた。


「あら、大神先輩がいないじゃ不服?」

「そ、そんなことないよ!」


 からかわれた深雪は慌てて全力否定する。成瀬と初詣に出掛けるというだけで充分な楽しみだ。


 電話の向こうの成瀬は、緩く笑ってから言葉を続けた。


「まあ、たまにはね。 気楽に一年だけで集まりましょ」


 成瀬にしては静かな落ち着いた声だった。深雪は耳元で響く彼女の声に、同姓ながらどきどきして少しだけ緊張した。


 なんだか成瀬ではない人と話している様で、落ち着かない。


「そうだね。 楽しみっ」


 何とかそれだけ返すと、成瀬は「そうね」と相槌してきた。


「千太郎の家の車で迎えに行くから。 時間とかは後で連絡するわ」

「了解!」


 「来年もよろしくね」「こちらこそ」と今年最後の挨拶をして、通話を終了する。


 深雪はスマホを握ったまま、楽しみに胸を膨らませた。


 ふと、フォトフレームに収められた写真の日路と目が合う。


 冬休みの間会うことができないのは、少しだけ寂しい。しかし、休み明けに会える喜びは高まること間違いないはずだ。


 深雪は来年への期待を胸にして、顔を幸せに綻ばせた。


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