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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
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無自覚犯人

 レストラン「レアリゼ」の入り口の前で、深雪は緊張からごくりと喉を鳴らした。


 テレビでしか見たことがない様な、高級なレストランの外観にびびっているのは、どうやら深雪と黒田だけの様であった。


 日路と蓮季は、姉が働いている先ということもあり、何度か訪れているのだろう。頼来も呼んでもらったことがある様で、あまり緊張している様子は見られない。残りの凸凹コンビは、言わずもがなである。


「今、僕たちおんなじ気持ちだよね」


 黒田がこそこそと、深雪に近寄ってきて耳打ちする。


 深雪は何度も頷いて見せて同意を示した。


「腹減ったー。 どんどん入ろうぜ」

「はいはい」


 頼来に急かされて、日路が先頭を切ってレストランの中へと足を踏み入れる。


 その後に続いて、深雪も目だけきょろきょろとさせながら入店した。


「いらっしゃいませ」


 入るとすぐに、黒の制服に身を包んだ、スタッフと思われる男性が出迎えた。


 洗練された動作が、このレストランのランクの高さを思わせる。深雪は、酷く自分がこの場に似合っていない気がして、不安から身を縮こまらせた。


「予約した大神です」

「ああ、大神さんの」


 日路が名乗ると、スタッフはにこりと笑みを深めて頷いた。それから、店の少し奥に向かって声をかける。


「大神さん。 お客様がいらっしゃいましたよ」

「はーい」


 スタッフの声掛けに、遠くで返事をする女性の声がした。


 少し間を空けて、深雪たちの前に現れたのは仕事着姿の杏香だった。料理人の彼女は、声をかけたスタッフの制服とは違い、白のコックコートを着ている。


 杏香は、深雪たちの来店を心から歓迎してくれた。


「いらっしゃいませ。 若い子が沢山来てくれて、嬉しいわ。それに、美男美女ばっかり」


 そう言ってから、杏香は日路と蓮季の間に立ち、もう一人のレストランスタッフに向かって「見て見て」とはしゃぎながら声をかける。


「この二人、私の弟なの。 なかなか男前でしょ?こっちなんて、私にそっくり」


 杏香が蓮季を指さして同意を求める。男性スタッフは「そうですね」と当たり障りなく答えて微笑んだ。


「余計なこと言ってないで、仕事してよ」

「はいはい、悪かったわね」


 日路に諫められた杏香が、するりと弟二人の間から抜けて手を振ってくる。


「後でまた挨拶に行くわ! とりあえず、この子たちを案内してくれる?」

「承知しました」


 後ろに控えていた男性スタッフの案内で、一行は個室に移動する。


 部屋に入ってすぐ、成瀬が口を開いた。


「大神先輩のお姉さん、美人過ぎるんですけど」

「成瀬がそれ言っちゃうかぁ」


 頼来が笑っていると、後ろで黒田が眉をハの字にさせていた。


「僕、もう少しでレストランの外に出ちゃうところだったよ」


 顔面偏差値の高さに慄いていたのは、深雪も同じである。


 深雪は激しく同意して、黒田に向かって何度も頷いて見せる。


「私もっ」

「だよねっ」


 唯一の同志であると、深雪と黒田はお互い確かめあう。


 成瀬は席に着きながら、盛り上がるそんな二人の姿を見て目を細めた。


「バメちゃんと深雪って、なんか仲良いわよね」

「そうなのか」


 少しだけ意外そうに目を丸くした日路の機微を敏感に察知した頼来が、嬉々として日路にすり寄る。


「あれ、日路ちゃん、や・き・も・ち?」


 からかい口調の頼来の言葉を聞いた日路は、きょとんとした顔で首を傾げる。


「・・・・・? ここ、フレンチだぞ? 餅は出ないんじゃないか?」

「・・・・・」


 あまりにもな発言に、頼来が言葉を失う。


 近くで一連の流れを見守っていた千太郎から失笑を貰い、頼来の調子もすっかり削がれた。


「今日のハーフコースは、オードブル、スープ、メインのお肉料理、デザートが出るって」


 全員が席に着いた頃、蓮季が説明してくれた。ちなみに席順は、奥から成瀬、深雪、日路、頼来。その向かいの奥から千太郎、蓮季、黒田である。


 ハーフといえど、初めてのコース料理に、最初は緊張していた深雪だったが、運ばれてくるキラキラの料理に一瞬で心を奪われていった。


 隣に座る成瀬の所作を参考にしながら、覚束ない手つきでナイフとフォークを使ってメイン料理を頂いていた頃、反対側の隣に座っていた日路が「立花」と呼び掛けてきた。


「はい?」


 神経が完全に目の前の料理に向いてしまっていたところを呼びかけられ、深雪は動揺しながら顔を上げた。


 優しく笑う日路と目が合い、動きが止まる。


 そんな深雪に向かって左手を伸ばした日路が、そのまま深雪の口元近くを親指ですっと拭ってきた。


 唖然とする深雪に向かって、日路が更に笑顔を深める。


「うん、とれたよ」

「━━━━っ」


 どうやら、お肉料理に使われていたソースが顔についてしまっていたらしい。


 いろいろな恥ずかしさに見舞われ、ショート寸前になった深雪は勢いよく立ち上がる。


「お、お手洗い行ってきますっ・・・・・」


 そそくさと部屋を出て行こうとする深雪に、日路が心配そうな顔を向けてきた。


「大丈夫か? 場所わかる?」


 「大丈夫です!」と捨て台詞の様に叫んで、深雪は部屋を飛び出す。


 一部始終を見ていた頼来が、さっと腕時計の時間を確認した。


「はい、十二時十九分! 大神日路、現行犯逮捕っ」

「はぁ?なんでだよ」


 罪状に心当たりのない日路が、怪訝な顔をする。


 しかし、決定的瞬間を目撃していた頼来の威勢は崩れることがない。


「いやあ、今のは犯罪だったでしょ。 ねえ、皆の衆」


 全員に向かって同意を求めると、他のメンバーは一様に半笑いで目を逸らす。


 暫くして、成瀬が水の入ったグラスを持ちながら不敵に微笑んだ。


「頼来を肯定するのは癪ですけど。 まあ、今の罪は重そうですね」

「ええ・・・・・・」


 成瀬に言われては、言い返すこともできないと、日路が困った様に黙り込む。


 追い詰められた日路の珍しい姿に、蓮季が静かに微笑んだ。


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