表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
73/109

みんなで待ち合わせです

 待ち合わせは、十二月二十三日 午前十一時、最寄り駅改札口前。


 早く着きすぎてしまった深雪は、冷えた手にふーっと息を吐きかけた。


 今日は、今回の為に用意した、ベージュのAラインコートに身を包み、雑誌と睨めっこしながら髪をアレンジしてきた。


 おかげで両腕はぱんぱんだが、自分でも納得のいく出来栄えになったと思う。


 深雪は、徐に左腕につけた華奢な腕時計をちらりと見た。


 待ち合わせの時間の十分前。深雪の他は未だ来ていない様で、きょろきょろと周りを見回しては、時間を確認することの繰り返しである。


 五分程して、 漸く後ろから声がかかった。


「深雪ちゃんが一番? 俺、に~ばんっ」

「吉井先輩!」


 声に振り向けば、カーキのチェスターコートを着た頼来が、明るく手を振っていた。


 深雪は癖で、頼来の近くに日路の姿を探してしまう。


 その様子に、頼来が申し訳なさそうに肩を竦めた。


「あー、毎度のことで悪いんだけど、今日は日路とは別で来てるんだ」

「な、なんか、すみません・・・・・」


 深雪が慌ててへこへこ謝っていると、今度は改札口とは反対側から声がかけられた。


「頼来、なに深雪に謝らせてんのよ?」


 テンションの低い声のする方を向けば、千太郎を後ろに引き連れた成瀬の姿があった。


 丈の短いピンクのピーコートが、これほど似合う少女がいるだろうか。伸びた髪は煌びやかなピンで纏められ、華やかな姿は成瀬のポテンシャルを更に引き上げる。


 後ろに立つ千太郎は、丈が長い黒のピーコート姿。背の高さも際立ち、成瀬と並ぶと女王とそれを守るナイトのように見える。


 相変わらずの美しさに見惚れる深雪の横で、頼来は口を尖らせていた。


「人聞き悪い! 今日は日路と一緒じゃないよって、話をしてただけだから」


 喚く頼来の言い分を聞いた成瀬が「ああ」と頷いて目を伏せる。


「大神先輩と一緒じゃない頼来なんて、何の価値もないものね」

「酷い! 成瀬が謝れ!」

「・・・・・頼来サン、うるさいっす」


 いつもの通り、成瀬と頼来に挟まれる形となった千太郎が、うんざりした様子で肩を落とす。


 普段の平和な情景を見ることができ、安心して笑っている深雪の耳に、一番聞きたい人の声が飛び込んでくる。


「お待たせー。 もう、全員いるか?」


 改札を通ってきた日路が、蓮季と黒田と一緒に深雪たちの元に合流した。


 それまで成瀬と口論していた頼来が、ぱっと日路の方を向く。


「遅いぞ、日路ぉ」


 詰る頼来に、日路は眉を顰めながらスマホの画面で時間を確認した。


「丁度ぐらいじゃないか」

「深雪ちゃんなんか、三十分も前からいたんだからな!」

「そんな前からは居ないです・・・・・」


 確かに一番乗りで来たが、流石に三十分前は未だ家に居た。


 適当なことを言う頼来に向かって、日路が短いため息を漏らす。


「頼来は話を盛りすぎるからな。 悪い癖だぞ」

「そうよそうよ」


 日路に乗っかって、成瀬が煽る。二対一の苦境に、頼来が威勢を崩していると、日路の隣に居た蓮季がすっと前に出てきた。


「ごめんね、頼君。 俺がのんびり準備してたら、一本電車逃しちゃって、ぎりぎりになったんだ」


 伏せ目がちの蓮季そんな風に謝られて、許さない人類は多分いないと思う。


 勿論それは頼来も例外ではなく、腕を組んで「それなら仕方ないな」とわざとらしく納得したふりをした。


 そのやりとりを見ていた深雪は、人知れず今日の大神兄弟のファッションチェックを実行する。


 日路は太いベルトがアクセントになった、紺色のロングコートを着ており、いつもより大人っぽい印象を受ける。


 対して、蓮季は薄い水色のスタンドカラーコート。襟に口元を埋めて寒そうにする姿は、今すぐ絵に描いて残したい。


 そんな最強兄弟の後ろに隠れるようにしていた黒田が、ひょっこりとその陰から顔を出した。


「お、新顔。 蓮季の友達?」


 黒田の姿を捉えた頼来が、興味津々に聞いてくる。蓮季が「そうだよ」と言って、黒田の背をそっと前へ押し出した。


「クラスメイトのバメちゃん。 バメちゃん、幼馴染の頼君だよ」

「初めまして! 黒田鐔芽ですっ」


 黒田は、グレーのダウンコートの袖から出した右手を真上に挙げて自己紹介をした。


 くりくりの目は純粋そのもので、その真っ直ぐな視線を見た頼来が、感動した様に口元を両手で覆う。


「なに、この素直な子! 成瀬とは大違いじゃん」


 自己紹介も忘れて感激する頼来に、苛立った様子の成瀬が負けじと口を開く。


「あ、バメちゃん、このうるさいのは吉井頼来っていうんだけど。 まあ、名前は覚えなくても大丈夫」

「覚えて! 頼来さんと呼んでくれて良いよ」


 成瀬を遮って、頼来が黒田にそう声をかけると、黒田はニコリと笑顔を浮かべた。


「はい! 頼来さん、宜しくお願いします」


 ぺこりと頭を下げる黒田にダメ押しされてしまった頼来が、涙を拭う素振りを見せる。


「やばい、俺、バメちゃん推しになるわ!」

「はァ? 何言ってんの? 私の方が先に、バメちゃんと仲良くなってんだからね?」

「二人とも、その辺にしといて・・・・・」


 おかしな形でヒートアップしてしまった二人の争いを、日路がやんわりと制止する。深雪はのほほんとその様子を眺めていた。




 そんな風にして、暫くその場所で実りの無い時間を過ごしていると、思いのほか早く時間が過ぎて行った。


「あの、そろそろ行きません?」


 千太郎のその一言で、漸く一行が動き出す。


 駅を出て、大神兄弟を先頭に、彼らの姉である杏香の働くレストランを目指す。


「あー、外寒いわぁ」

「成瀬、首元が寒そう。 蓮季も鼻赤くなってんじゃん」

「寒いの、苦手なんだよね」

「バメちゃん、そんなに跳ねながら歩いて、滑って転ばないようにな」

「はーい。 双葉君、優しいね」


 入り乱れる会話を楽しく聞いていた深雪だったが、いつの間にか隣にやってきていた日路に声をかけられて、思わずフリーズしてしまう。


「立花、今日も髪型違うんだな」


 見つめられ、深雪は視線を合わせられずに俯いた。


「あ、はいっ・・・・・今日は、自分でやってみたので、あんまり綺麗じゃないですけど」


 おまけに腕もぱんぱんで、と心の中で続けていると、日路が暖かな陽だまりの様な笑顔を向けてきた。


「ちゃんと綺麗にできてるよ。 似合ってる」

「ありがとうございますっ━━━━」


 日路からの褒め言葉を噛み締めれば、外の寒さや、腕の痛みなどすっかり忘れてしまえた。


 日路は、寒い季節も溶かす太陽の様な人だと、深雪は思った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ