みんなで待ち合わせです
待ち合わせは、十二月二十三日 午前十一時、最寄り駅改札口前。
早く着きすぎてしまった深雪は、冷えた手にふーっと息を吐きかけた。
今日は、今回の為に用意した、ベージュのAラインコートに身を包み、雑誌と睨めっこしながら髪をアレンジしてきた。
おかげで両腕はぱんぱんだが、自分でも納得のいく出来栄えになったと思う。
深雪は、徐に左腕につけた華奢な腕時計をちらりと見た。
待ち合わせの時間の十分前。深雪の他は未だ来ていない様で、きょろきょろと周りを見回しては、時間を確認することの繰り返しである。
五分程して、 漸く後ろから声がかかった。
「深雪ちゃんが一番? 俺、に~ばんっ」
「吉井先輩!」
声に振り向けば、カーキのチェスターコートを着た頼来が、明るく手を振っていた。
深雪は癖で、頼来の近くに日路の姿を探してしまう。
その様子に、頼来が申し訳なさそうに肩を竦めた。
「あー、毎度のことで悪いんだけど、今日は日路とは別で来てるんだ」
「な、なんか、すみません・・・・・」
深雪が慌ててへこへこ謝っていると、今度は改札口とは反対側から声がかけられた。
「頼来、なに深雪に謝らせてんのよ?」
テンションの低い声のする方を向けば、千太郎を後ろに引き連れた成瀬の姿があった。
丈の短いピンクのピーコートが、これほど似合う少女がいるだろうか。伸びた髪は煌びやかなピンで纏められ、華やかな姿は成瀬のポテンシャルを更に引き上げる。
後ろに立つ千太郎は、丈が長い黒のピーコート姿。背の高さも際立ち、成瀬と並ぶと女王とそれを守るナイトのように見える。
相変わらずの美しさに見惚れる深雪の横で、頼来は口を尖らせていた。
「人聞き悪い! 今日は日路と一緒じゃないよって、話をしてただけだから」
喚く頼来の言い分を聞いた成瀬が「ああ」と頷いて目を伏せる。
「大神先輩と一緒じゃない頼来なんて、何の価値もないものね」
「酷い! 成瀬が謝れ!」
「・・・・・頼来サン、うるさいっす」
いつもの通り、成瀬と頼来に挟まれる形となった千太郎が、うんざりした様子で肩を落とす。
普段の平和な情景を見ることができ、安心して笑っている深雪の耳に、一番聞きたい人の声が飛び込んでくる。
「お待たせー。 もう、全員いるか?」
改札を通ってきた日路が、蓮季と黒田と一緒に深雪たちの元に合流した。
それまで成瀬と口論していた頼来が、ぱっと日路の方を向く。
「遅いぞ、日路ぉ」
詰る頼来に、日路は眉を顰めながらスマホの画面で時間を確認した。
「丁度ぐらいじゃないか」
「深雪ちゃんなんか、三十分も前からいたんだからな!」
「そんな前からは居ないです・・・・・」
確かに一番乗りで来たが、流石に三十分前は未だ家に居た。
適当なことを言う頼来に向かって、日路が短いため息を漏らす。
「頼来は話を盛りすぎるからな。 悪い癖だぞ」
「そうよそうよ」
日路に乗っかって、成瀬が煽る。二対一の苦境に、頼来が威勢を崩していると、日路の隣に居た蓮季がすっと前に出てきた。
「ごめんね、頼君。 俺がのんびり準備してたら、一本電車逃しちゃって、ぎりぎりになったんだ」
伏せ目がちの蓮季そんな風に謝られて、許さない人類は多分いないと思う。
勿論それは頼来も例外ではなく、腕を組んで「それなら仕方ないな」とわざとらしく納得したふりをした。
そのやりとりを見ていた深雪は、人知れず今日の大神兄弟のファッションチェックを実行する。
日路は太いベルトがアクセントになった、紺色のロングコートを着ており、いつもより大人っぽい印象を受ける。
対して、蓮季は薄い水色のスタンドカラーコート。襟に口元を埋めて寒そうにする姿は、今すぐ絵に描いて残したい。
そんな最強兄弟の後ろに隠れるようにしていた黒田が、ひょっこりとその陰から顔を出した。
「お、新顔。 蓮季の友達?」
黒田の姿を捉えた頼来が、興味津々に聞いてくる。蓮季が「そうだよ」と言って、黒田の背をそっと前へ押し出した。
「クラスメイトのバメちゃん。 バメちゃん、幼馴染の頼君だよ」
「初めまして! 黒田鐔芽ですっ」
黒田は、グレーのダウンコートの袖から出した右手を真上に挙げて自己紹介をした。
くりくりの目は純粋そのもので、その真っ直ぐな視線を見た頼来が、感動した様に口元を両手で覆う。
「なに、この素直な子! 成瀬とは大違いじゃん」
自己紹介も忘れて感激する頼来に、苛立った様子の成瀬が負けじと口を開く。
「あ、バメちゃん、このうるさいのは吉井頼来っていうんだけど。 まあ、名前は覚えなくても大丈夫」
「覚えて! 頼来さんと呼んでくれて良いよ」
成瀬を遮って、頼来が黒田にそう声をかけると、黒田はニコリと笑顔を浮かべた。
「はい! 頼来さん、宜しくお願いします」
ぺこりと頭を下げる黒田にダメ押しされてしまった頼来が、涙を拭う素振りを見せる。
「やばい、俺、バメちゃん推しになるわ!」
「はァ? 何言ってんの? 私の方が先に、バメちゃんと仲良くなってんだからね?」
「二人とも、その辺にしといて・・・・・」
おかしな形でヒートアップしてしまった二人の争いを、日路がやんわりと制止する。深雪はのほほんとその様子を眺めていた。
そんな風にして、暫くその場所で実りの無い時間を過ごしていると、思いのほか早く時間が過ぎて行った。
「あの、そろそろ行きません?」
千太郎のその一言で、漸く一行が動き出す。
駅を出て、大神兄弟を先頭に、彼らの姉である杏香の働くレストランを目指す。
「あー、外寒いわぁ」
「成瀬、首元が寒そう。 蓮季も鼻赤くなってんじゃん」
「寒いの、苦手なんだよね」
「バメちゃん、そんなに跳ねながら歩いて、滑って転ばないようにな」
「はーい。 双葉君、優しいね」
入り乱れる会話を楽しく聞いていた深雪だったが、いつの間にか隣にやってきていた日路に声をかけられて、思わずフリーズしてしまう。
「立花、今日も髪型違うんだな」
見つめられ、深雪は視線を合わせられずに俯いた。
「あ、はいっ・・・・・今日は、自分でやってみたので、あんまり綺麗じゃないですけど」
おまけに腕もぱんぱんで、と心の中で続けていると、日路が暖かな陽だまりの様な笑顔を向けてきた。
「ちゃんと綺麗にできてるよ。 似合ってる」
「ありがとうございますっ━━━━」
日路からの褒め言葉を噛み締めれば、外の寒さや、腕の痛みなどすっかり忘れてしまえた。
日路は、寒い季節も溶かす太陽の様な人だと、深雪は思った。




