表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
7/108

勉強がんばります

 昼休み、購買へ行く深雪に成瀬がくっついてきた。


「頼来のやつ、いつも購買でパン買ってるらしいから、探して勉強会の話をとり付けてきましょ」


 有言実行派の成瀬は、そう言って足取り良く購買部へ向かう。

 ちなみに千太郎は既に飽きたのか、教室でスマホをいじりながら、深雪と成瀬を見送った。


「結構人いるのね」

「成瀬ちゃん、購買で買わないもんね」


 いつも豪勢な弁当を持って来る成瀬に、購買部は一生縁のないものとも言える。物珍し気に人ごみを見つめる成瀬の視線が、ある一点で留まった。


「頼来はっけーんっ」

「見つけるの上手だね・・・・・」


 成瀬の視力の良さと探知能力には感服するしかないと、深雪は乾いた笑いを漏らした。成瀬が指を差して頼来を示すので、深雪もそちらへ視線を向ける。丁度、頼来がパンを購入しているところだった。その後ろに、憧れの人物を見つける。


「あっ、大神先輩もいるっ」

「え、どこ?」


 今度は深雪が、日路を指差す。成瀬は急に眼が悪くなったかのように目を細め、日路の姿を探して捉えた。


 仲良さげに会話をしている日路と頼来の姿を、しばらく遠目で見つめてから、成瀬が「ふーん」と言って腰に手をあてる。


「ほんとに仲いいんだ、あの二人」

「まだ疑ってたんだ」


 成瀬の本音に苦笑で返す深雪は、それから視線をそっと日路へと戻す。彼は今日も眩い光に包まれているように輝かしく、最早神々しい。


 見とれる深雪の横で、成瀬の有言実行が執行された。


「頼来!」

「・・・・成瀬? なんか既視感デジャヴ~」

 

 群衆の中から的確にこちらを振り向いた頼来が、パンを持った手でこちらに手を振ってくる。そのまま日路と共に歩み寄ってきたところで、成瀬は単刀直入に要件を告げた。


「頼来、勉強教えてほしいんだけど」

「え?何、どっきり? いっつも俺のこと、馬鹿馬鹿言ってるのに」


 わざとらしくカメラを探す素振りを見せる頼来に、成瀬は相変わらずの冷めた視線を向ける。


「頼来にどっきりとか、無意味且つ、図々しい」

「な、成瀬ちゃんっ」


 流石に言い過ぎだと、深雪は成瀬の腕を引いたが、言われた当の本人はへらへらと笑うばかりである。

 二人の間には強い信頼関係があるのだろう。成瀬の性格をよくわかっている頼来は、こんなことでは傷つかないし、怒りもしない。


 二人の関係性が羨ましいな、と思っている深雪の横で、成瀬が話を再開させる。


「二週間後、テスト週間じゃない? 私たち、高校じゃ初めての中間テストだし。 出やすいところとか教えてほしいんだけど」


 それっぽい理由を述べる成瀬が、頼来に意味ありげなアイコンタクトを送る。成瀬の意図を一瞬で理解した頼来は、ごく自然に了承してくれた。


「俺と、大神先生が請け負ってやるよ!」

「え、俺も?」


 頼来に勢いよく肩を抱かれ、バランスを崩しながら、日路が驚きに目を丸くする。その反応に、頼来が「なんだよー」と口を尖らせた。


「やりたくないのかよ?」

「いや、そうじゃなくて・・・・・」


 日路が、参ったなという感じで頭をかいた。


「人に教えたことないから、役に立てるかどうか・・・・・」


 なんて謙虚なんだと、深雪の中で日路の株が更に急上昇する。その隣で、成瀬は淡々と話を続けていった。


「大神先輩は、勉強がお友達とお聞きしたので」

「・・・・・頼来、なんかお前、変なことを後輩に吹き込んでないか?」

「えー、言ってないよ?」


 日路に疑いの目を向けられた頼来は、これ以上追及されてはまずいと、わざとらしく咳き込んでから話を継いだ。


「とにかく、困っている後輩がいるんだから、お願いを聞いてやるのが先輩だろ?」

「それは勿論だけど、力になれなかったら悪いというか・・・・・」

「悪くないです!」


 深雪は思わず、心の声を漏らした。その場にいる全員が驚いたが、一番驚いて動揺したのは深雪だった。


「あ、ああ、その、先輩がご迷惑でなければ、お力を拝借し、したいとぉ・・・・・」

「落ち着いて」


 赤面してどんどん俯いていく深雪を、成瀬が冷静につっこむ。

絶対に変な奴だと思われたと、深雪は絶望したが、意外にも日路は驚いた顔を崩して、柔らかく微笑んでみせた。


「わかった。 後輩にそこまで言われたら、気合入れて頑張るよ」

「物理は俺に任せてねっ」

「深雪は、物理選択してないから。 頼来はお呼びじゃないのよ」


 ノリノリの頼来を、成瀬が軽くあしらう。


 深雪は、未だに火照る顔を気にしながら、そっと日路を覗き見た。成瀬と頼来のやりとりを、楽しそうに眺める日路のことは、正直一生見ていられる気がした。


「そうとなったら、一年の範囲をおさらいしとかないとだな」


 成瀬の計画にのせられた日路は、その責任感の強さからそんなことを言い出した。隣で頼来が信じられない、という様な顔をする。


「うわ、真面目かよ」

「期待されたら、応えたいって思うのが普通じゃないのか?」


 本気で首を傾げる日路に、頼来は「うわぁ」と言って耳を塞いだ。

 頼来の言う通り、真面目な日路の言葉を聞いて、深雪は罪悪感に苛まれる。


「すみません。 先輩もテスト勉強したいのに、ご迷惑ですよね・・・・・」


 今更そんなことに気が付いて恐縮する深雪に、日路は慌てて否定してきた。


「全然、迷惑とかじゃないから」

「そうそう、日路は優等生だから。 テストなんて、普段の授業受けてれば、それなりに点数とれるっていう、嫌味な奴だから」

「深雪が心配してるのは、頼来の方なんじゃないの?」


 調子良く喋る頼来が気に入らなかったのか、成瀬の攻撃は静まることがない。

 

 苦笑いを漏らす深雪と、日路の視線が自然とぶつかった。彼が、にこりと微笑む。 


「勉強、頑張ろうな」

「はいっ」


 深雪は人生で初めて、本気で勉強を頑張ろうと決心した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ