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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
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恋したかくれんぼ

 成瀬家を舞台にしたかくれんぼが始まり、深雪は一人でウロウロと建物の中を歩き回っていた。


 果てしなく伸びた廊下には、いくつものドアが並んでいる。ドアノブを回して、恐る恐る部屋の中を覗いては閉じるという行為を、もう何度も繰り返していた。


 既に元居た部屋に戻る道すらもよくわからなくなり、隠れる時間として与えられた制限時間も間近に控えている。


 「かくれんぼで見つかった人は、見つけた鬼の言うことを聞く」というオプションがつけられたこのゲーム。成瀬に見つかったら、またとんでもないミッションを与えてくるに違いないと、深雪はぶるっと身震いした。


 いい加減どこかに隠れなければな、と思いながら突き当りを左に曲がった時、何故か直ぐに壁にぶつかってしまい、深雪は驚いて「わっ」と小さく声を上げた。


「・・・・・っと、立花か」


 ぶつかったのは壁ではなく、人。深雪はその人物の顔を確認して、もう一度声を上げた。


「大神先輩!」


 深雪が驚きに目を丸くすると、日路は「よっ」と言って片手を上げた。


 お互いぐるぐるしている間に、進路がぶつかってしまったらしい。


 先ほどまでこの迷宮の中、一人きりで不安があった深雪は、日路の登場にほっと肩を撫で下ろした。


「頼来じゃないけど、迷子になりそうだよな」

「はい、本当に・・・・・」


 日路の呟きに、深雪も激しく同意する。


 しかし、一人で心細さがあった反面、探検気分を味わっていた自分がいたことは否めない。


 お宅拝見というにはあまりにも豪勢なお宅だが、好奇心は比例して大きく膨らんでいた。


「でも、こういう造りの建物って珍しくって、ちょっと楽しんじゃったり・・・・・」

「わかるわかる」


 日路も深雪と同じだったようで、笑みを浮かべて軽く頷いた。


 それから暫く二人で並んで歩きながら、屋内を見て回った。


「あっちは、中庭何ですかね?」


 深雪がふと、窓の外を指さす。


 広大な美しい庭に見惚れていると、かくれんぼをしていることを忘れてしまいそうになる。


 日路も「綺麗に整備されてるなぁ」と隣で頷くばかりで、二人してのんびりと過ごしてしまう。


 先に我に返ったのは、深雪だった。


 たまたま入ったメッセージの着信にバイブしたスマホを取り出した時、画面に出た時刻が目に入ってきて青ざめた。


「はっ・・・・・もうすぐ五分経ちますっ」

「え、それはまずい」


 二人は慌てて、一番近い部屋のドアを開けて、急いで駆け込んだ。


 そこでもう一度スマホの画面で時刻を確認すると、丁度制限時間の五分が過ぎたところだった。


 とりあえずは部屋の中に隠れることができ、二人でひとまずほっと息をつく。


 それから、きょろきょろと当たりを見渡した。


「ここは部屋というより、小ホールみたいな感じですね」


 ダンスレッスンが行えるようなフロアに、深雪がそっと呟く。


 同じ様に辺りを見渡していた日路が、ある一点でその視線を止めた。


「ピアノが置いてあるよ」


 日路が真っすぐに、奥にポツンと置かれたグランドピアノへと向かった。


 その後を付いていき、まじまじと黒のグランドピアノを眺めてみる。


 この屋敷は普段使っていないと成瀬は言っていたが、埃一つ被っていないこのピアノを見るに、管理は相当厳格に行われているのだろう。


 深雪はふと顔を上げて、ピアノの後ろへと視線を変えた。


「後ろの棚、盾とか賞状が沢山ですね」


 ガラス張りの三段の棚の中には、ぎっしりとトロフィーなどが飾られていた。


 並べられたものの中には、海外で獲ったと思われるものも混ざっている。


「全部、ピアノのコンクールみたいだな・・・・・成瀬イズミって書いてある」

「成瀬ちゃんのお家の方ですかね」


 深雪はなんとなく、今日会った成瀬の母親のことを思い浮かべた。彼女なら、ピアノを弾いている姿が容易に想像できる。


 成瀬はピアノは弾かないのだろうかと深雪が考えていると、近くにいた日路が「それにしても」と言って辺りを見渡した。


「頼来がいたら走り回りそうなところだよな」


 日路の言葉に、深雪は思わず笑ってしまう。


 確かに、この家具もろくに置かれていない広いフロアを駆け回る頼来の姿は、容易に想像がついた。


「ドラマとか漫画で見る様なダンスレッスンとかを、ここでしてたんですかね」


 深雪はそう言いながら、成瀬がダンスの練習をする姿を想像した。成瀬のことだから、きっと卒なくこなすのだろうなと思って、なんとなく笑みが零れる。


 深雪の呟きをどう思ったのか、日路は思案気に顎に手を当てた後、徐にすっと深雪の方へ右手を差し出してきた。


 何だろう、と深雪がきょとんとしていると、日路の口が開く。


「一緒に踊って頂けますか?お嬢さん」

「っ━━━━」


 唐突な日路のノリに、深雪は頭がついて行かない。


 すっかり機能を停止した脳では、差し出された掌に、自身の手を重ねるという考えが浮かぶことがない。


 数秒間をおいて、日路がすっと手を下ろした。


「・・・・・なんてな」

「ははは・・・・」


 笑いながら、深雪は顔が赤くなっていくのを止めることができずに俯いた。


 流石の日路も、自分のしたことに照れを隠すことができずに頭を搔く。


 むず痒い二人の間の空気を、入り口の方からしたわざとらしい咳払いが切った。


「あのー。 お二人で楽しんでるところ、悪いんですけど」

「「!?」」


 深雪と日路が反射で振り向くと、そこには開けたドアに寄りかかって立つ千太郎の姿があった。



 見られてた!?いつから!?



 慌てた深雪だったが、それらの問いが口から出ることはない。


 見られていたことを確定させてしまうくらいなら、いっそ一縷の望みにしがみついていたいという思いが強い。


 千太郎は特に、深雪と日路が何をしていたかどうかについては突っ込んでこなかった。


 その代わり、白けた視線を向けてくる。


「二人とも、かくれんぼしてる自覚ある?」

「悪い・・・・・」

「ごめんなさい・・・・・」


 それについては、深雪も日路も申し訳なさに身が縮む。


 ちらりと日路の方を見やると、彼もこっちを見てきていた。


 日路が「やっちゃったな」と、小さく舌を出して肩を竦める。



 何そのレア表情!

 


 日路の珍しい反応に、深雪が固まる。


 そんな二人のことはさておいて、入り口付近にいた千太郎は、ポケットからスマホを取り出した。


「あ、羽澄? 立花と大神先輩見つけたわ・・・・・うん、二人とも」


 連絡相手は成瀬の様で、話の内容を聞くに、既に頼来も成瀬によって見つかってしまっているらしい。


 これはもう、凸凹コンビの完全勝利。なんてスピード感のあるかくれんぼだったことだろう。


 最初から勝てるゲームではなかったのだと、諦めの境地に達する。


 徐々に平静を取り戻してきた深雪と日路に、千太郎は「戻るよ」と言って足早にその場を去っていこうとしていた。

 

 千太郎に置いて行かれては、戻れないどころかそれこそ迷子になってしまう。深雪は慌てて千太郎の背を追いかけた。


「立花」

「!?」


 部屋を出ようとしていた深雪の腕を、咄嗟に日路が掴む。驚いた深雪は、声も無く振り返った。


 真摯な目をした日路の目とぶつかり、深雪は逸らすことができない。再びの緊張に、先程より強く体に力を入れた。


 無言のままの日路の右手が、そっと深雪の左耳に触れる。瞬間的に心臓が跳ね上がり、一気に頭に血が上る感覚を覚えた。


 くすぐったいぐらいの感触に一人動揺する深雪を他所に、日路は優しい手つきで、深雪の耳近くで留められていたピンを外し、もう一度しっかりと止め直した。


「ちょっと緩くなっていたみたいだから」

「━━━━っ」


 ゆっくりと、日路の手が離れていく。浮かべる笑顔は眩しすぎた。


 あまりのことに、深雪はお礼を言うこともできない。


「それじゃあ、行こうか」


 その言葉にはなんとか頷いて見せたが、とても言葉を返せるほどの余裕は深雪にはない。


 千太郎の後を追いかける日路の背を更に追いながら、深雪は地に足がつかず、夢の中を歩いている様な心地だった。



 どうしよう!絶対ヤバい顔してる!



 深雪は両手で自分の両頬を抓った。夢じゃないことに、歓喜を超えて気を失いそうになった。




 この時の深雪は、日路にプレゼントを渡すというミッションを完全に忘れていたのだった。


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