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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
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十一月二十五日 午後一時七分

 成瀬の母親が一人興奮して喧しくしていると、成瀬のポケットの中で携帯が鳴った。


 メッセージの着信だった様で、画面を見た成瀬が「あ」と小さく声を上げる。


「千太郎からだ。もうすぐ着くって」


 今日、千太郎は日路と頼来を成瀬家に連れてくるという役を担っている。


 日路が午前中は部活ということで、午後からお昼を兼ねての誕生会だ。


 成瀬の報告を聞いた成瀬の母親が、更に歓喜する。


「私もご挨拶しなくっちゃ」

「それはいらん」


 誰よりもやる気のある成瀬の母親を、成瀬が白けた目で見つめる。


「大体母さん、今日は午後から用事があるって言ってなかった? もう行かないといけないんじゃないの?」

「あ、そうだった」


 指摘された成瀬の母親は、ぱっと気持ちを切り替えて、くるりとこちらに背を向けた。


「それじゃあ、お客様に宜しくね。 深雪ちゃんもまたお話しましょ」


 あまりの切り替えの早さに、深雪はワンテンポ遅れて頭を下げた。


「あ、髪のセットありがとうございました!」


 ひらひらと手を振って去っていく成瀬の母親の背を見送り、「さてと」と成瀬が一歩前に出る。


「私たちは玄関で待ってましょ」


 そう言って部屋を出ていく成瀬に続き、深雪も慌てて部屋を後にした。


 来た道を戻っている筈だったが、まるで迷路の様な道順を覚えている訳もなく。完全に成瀬の後を付いていくしかない深雪を、成瀬が「そういえば」と顔だけ振り向いた。


「大神先輩へのプレゼント、ちゃんと持ってきた?」

「勿論だよ!」


 深雪は肩に提げたバッグを上から軽く叩いた。


 先日、成瀬たちに付き合ってもらって購入した、日路へのプレゼントを渡すというのが、今日のミッションだ。


 どう渡そうか、昨日の夜、何パターンも考えてプランを用意した。考え過ぎてよくわからなくなってしまったが。


 やっぱり、プランBかな・・・・いや、Dの方が自然か?などと考えながら歩く深雪の耳に、やがて聞き慣れた声が届いた。


「あら、もういるじゃない」


 同じ様にその声を耳に捉えた成瀬が、廊下の角を曲がりながらそう零す。


「あ、成瀬発見!」


 角を曲がるとすぐ、テンションの高い頼来の声がこちらに向けられた。


 深雪が成瀬の影から顔を覗かせると、私服姿の日路、頼来、千太郎が既に屋敷の中に入って来ていた。


 一番に目を惹いたのは勿論、日路の姿。


 黒のテーラードジャケットに、インナーはオフホワイトのハイネック。シンプルなモノトーンコーデが、日路の誠実さを表している様だった。



 ジャケットカッコいい!ちゃらちゃらしてない所が先輩らしい!ちゃらい先輩も見て見たいけど!




 心中での興奮を、顔面に出さない力はつけてきた。深雪は必死に平静を装って、視線を他の二人に向けた。


 千太郎は、ワインレッドのブルゾンと黒シャツに、ホワイトパンツを合わせたファッション。身長の高さも相まって、完全にモデルにしか見えない。


 デザインの凝ったニットとデニムパンツ姿の頼来は、お洒落なお兄さんといった感じだ。


 普段学校の中で、制服姿で顔を合わせる人たちと私服で集まるという新鮮さに、深雪は高揚感を覚えた。


 深雪と成瀬が三人の前まで来ると、まずは日路が軽く頭を下げた。


「今日はお招き、ありがとう」

「相変わらずでっけー家!」


 続けて頼来が辺りを見回しながら声を上げる。ひとしきり見回ったところで、頼来はその視線を深雪で止めた。


「てか深雪ちゃん! 髪型超かわいい!」

「あ、ありがとうございます」


 率直な感想に、深雪は反応に困って俯いた。


 その様子を見ていた成瀬が、無言で頼来の頭をスパンと叩く。


「痛ってぇ! 何で叩かれんの?」

「ばっかじゃないの?頼来の感想なんて、二の次で良いんだけど?」


 怖い顔の成瀬に睨まれ、頼来が委縮する。


 その横で、日路が深雪を見て爽やかに微笑んだ。


「うん、いつもと雰囲気が違うな。 そっちも可愛い」

「ありがとうございますっ━━━━━」


 平静を装うのはもう無理だった。顔が熱くなって、深雪はぐっと奥歯と言葉を噛み締めた。


 「そっちも可愛い」って、言葉選びがイケメン過ぎて狡い。


 照れた様子の深雪を見ていた頼来が、つまらなさそうに口を尖らせる。


「うわー、あからさまに俺の時と反応違くて、地味に傷つくわぁ」

「あんたはお呼びじゃないのよ」


 成瀬のダメ押しを受け、頼来が更につまらなさそうに肩を竦めた。そして、ふと何かに気が付いた様に「そういやあさ」と続ける。


「成瀬も髪伸びたよなぁ。 切んないの?」


 何の悪気もなく首を傾げる頼来を見て、成瀬はそのまま首を折ってしまおうかと考えた。


「・・・・・死ねば?」


 低い声で冷たく返され、頼来は仰天した様子だった。


「なんで!? 俺、何かした!?」

「頼来サン、一回黙った方が良いかも」


 成瀬の暴言の意味が分からず、動転する頼来に、千太郎が面倒くさそうにアドバイスをする。


 そして成瀬はというと、すっかり頼来のことは無視をして「さあ」と素早く切り替えた。


「頼来はほっとくとして。 今日は大神先輩の誕生会だもの。 早く会場に行きましょ」


 そう言う成瀬を先頭にして、一行は場所を移動することにした。


 今日の準備は、ほぼ成瀬にお任せ状態なので、この先何が待っているのかは、深雪も知らない。


 一体何が待っているのか、日路へのプレゼントはちゃんと渡せるのか。


 深雪は、いろいろなことをぐるぐると考えながら、成瀬の後ろをついて行った。


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