本当にあげたいもの
日路の誕生日プレゼントを選びに来たはずが、すっかり成瀬とのショッピングを楽しんでしまった深雪は、千太郎に「いい加減にしろ」と低いテンションで諫められ、反省して本来の目的に従事しようと心を改めた。
しかし、ここまできても、何をプレゼントすればいいか、見当もつかない。
立ち寄った雑貨店で、成瀬が「あーあ」と言って天井を仰ぐ。
「本当に、大神先輩って考えれば考える程、わかんないわよね」
「羽澄、そんなに考えてなかっただろ」
成瀬の愚痴に、千太郎が辛辣につっこむ。その隣で、深雪は苦く笑うことしかできない。
いつまでたっても良い案が浮かばないでいると、それまで三人の様子をにこやかに見守っていた蓮季が口を開く。
「そんなに悩まなくても、立花さんが良いと思ったもので良いんじゃないかな ?日路、何でも喜ぶと思うよ」
「良いと思ったもの、ですか・・・・・」
すっかり敬語に戻っていたことにも気づかず、深雪は唸った末に黙り込む。
棚に陳列された商品はどれも魅力的だが、いまいち決め手に欠けてしまっている気がした。
蓮季のいうとおり、日路はきっとなにを貰っても喜んでくれるだろう。だからこそ、プレゼント選びが難しい。
成瀬や千太郎、蓮季まで巻き込んでいることへのプレッシャーを感じながら、一人で店内を彷徨うこと十分ほどが経った頃。
フォトフレームが置かれたコーナーで、深雪はふと、日路にもらった修学旅行のお土産のポストカードを思い出した。
日路がデータで送ってくれた写真含め、全てファイリングをしたのだが、今思えばこういったフォトフレームに入れて飾るのも良かったのかもしれない。
そんなことを思いながら、一番気に入ったデザインのものを何となく手に取って眺めていると、深雪のことを探しに来た成瀬が背後に現れた。
「いいものあった?」
「え? ああ、ええっと・・・・」
まさか、この期に及んで自分が興味があって見ていたなどとは言えず、しどろもどろになりながら誤魔化していると、成瀬は深雪が手にしていたフォトフレームを凝視した。
「フォトフレーム?・・・・・いいんじゃないの?体育祭の時に撮った、ツーショット写真入れてあげれば?」
「できるわけないじゃん!」
明らかに面白がっている成瀬の口調に、深雪が真面目にツッコむと、成瀬は「まあ、でもさ」と笑いをすっと引っ込めた。
「フォトフレーム自体はいいと思うわよ? 男の人って、そういうの自分で買わなさそうだし。 何より、深雪らしいわ」
「そうかな・・・・・?」
成瀬に思いのほか高評価を貰い、深雪はもう一度改めてフォトフレームを見つめた。
シンプルなデザインは、確かに日路に似合っているかもしれない。
まさかこの中に、自分の映る写真が入れられるとは想像もできないが、日路のかけがえのない一瞬が収められるのだと思うと、プレゼントするのが楽しみになる。
プレゼントをこのフォトフレームに決め、千太郎と蓮季の元まで持って戻ると、二人とも成瀬同様に賛成してくれた。
「すごく良いと思う。 男の三人暮らしだと、そういうの買う発想が無いから」
「立花らしくていいんじゃん?」
男子目線での意見も聞くことができ、深雪は日路に渡すことを想像しながら、緊張気味にレジに並んだ。
支払いを済ませ、ラッピング待ちをしている間、成瀬の姿を探していると、一人でレジに並んでいる姿が見えた。
何を買ったのだろうかと、支払いを終えたばかりの成瀬を直撃してみる。
「成瀬ちゃんも、何か買ったの?」
「うん。 ちょっとね」
正直、成瀬の様なお嬢様が何を買ったのかが気になったが、それ以上は教えてくれる気がないようだったので、深雪もそれ以上食い下がらない。
「ラッピング番号、三番のお客様―!」
店員の呼ぶ声に、深雪は足早にレジ近くへと向かう。
商品を受け取り、綺麗にラッピングされたそれを大事にバッグの中に仕舞った。
「楽しみね、先輩の誕生日」
「うん!」
成瀬の言葉に、深雪は満面の笑みで頷いた。




