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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
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王子の微笑み

「じゃあ、本屋に行きたかったのは、蓮季さん・・・・・なんだね」


 人ごみの中を歩きながら、深雪は漸く合点がいったと、納得して頷いた。


 慣れないタメ口は、いちいち言葉が詰まって仕方がないが、隣を歩く蓮季は気にした様子もなく「うん」と頷いて朗らかに笑う。


「成瀬さんたちに誘ってもらった時、本屋に寄ってから行くって話をしたら、迎えに行くから一緒に行こうって言ってくれて」


 どうやら、カフェで成瀬が言っていた「本屋に行きたいって言うから」の該当人物は蓮季であったらしい。


 成瀬と千太郎は、蓮季を家まで迎えに行ったということで、少し前を歩いていた成瀬が悪い笑みを浮かべた。


「大神先輩の家抑えたから、任せなさい」

「え、何やろうとしてるの・・・・・」


 不敵に笑う成瀬に、深雪は顔を引き攣らせた。


 成瀬のことだ。きっととんでもない計画を企てようとしているに違いない。


 考えるだけで恐ろしいので、それ以上を追求することを止めて、深雪が肩を竦めていると、成瀬は「それはそうと」と話を切り替えてきた。


「大神先輩のプレゼント、何か目ぼしつけてんの?」


 本日一番のテーマをずばりと聞かれ、深雪は思わず縮こまった。


「正直、全く何も浮かんでないです・・・・・」

「先輩相手に、難しさはあるわよねー」


 何も考えていないことを怒られると身構えた深雪だったが、意外にも成瀬は一緒になって頭を抱えてくれた。


 そして、すぐに蓮季へと話の矛先を向ける。


「王子、何か良いアイディアある?」

「んー」


 アドバイザーとして呼ばれた蓮季は、悩む素振りを見せた後「そうだなあ」と考えを口にした。


「剣道やってるし、スポーツ用品とかも良いと思うけど」

「スポーツ用品かぁ」


 蓮季の案に、成瀬が困った様な声を上げる。


「スポーツやらないから、何が良いのかわかんないのよね。 深雪はどう?」

「私も、スポーツはわからないからな・・・・」


 運動神経が悪いどころか、運動神経が無いレベルでスポーツができない深雪は、己の役立たずさに更に身を小さくした。


 話を振った蓮季も、悩まし気に腕を組む。


「俺も、スポーツはさっぱり。 千里ならサッカーやってるんだけど、今日は練習行っちゃってて」

「生意気少年は、お呼びじゃないから大丈夫」

「な、成瀬ちゃん」


 無表情で首を振る成瀬に、深雪が冷や汗をかく羽目になる。


 蓮季はというと、あからさまに千里を嫌う成瀬の様子を見て、申し訳なさそうに苦笑した。


「じゃ、ここは唯一のスポーツマンの千太郎に頼もうかしら」

「俺に押し付けんなよ・・・・・」


 成瀬が、後方を歩いていた千太郎に人差し指を向ける。向けられた側の千太郎は、めんどくさそうに溜息を吐いた。


 そのやる気の無さに、成瀬が更に溜息を重ねる。


 それから、あれでもないこれでもないと四人で意見を交わし、結局は蓮季の「一つ一つ、良いものがないか見て行こうか」という意見を採用し、片っ端からお店を巡ることになった。


 しかし、そうなると当初の目的である日路の誕プレ探しは、二十分も経てばすっかり女子二人のショッピングに移り変わっていた。


「成瀬ちゃん、あそこの雑貨屋さんが可愛いよ」

「ちょっと覗いていきましょうよ」


 最早全く関係のない、女性人気の高そうな雑貨店に深雪と成瀬が吸い込まれていく。


 置いてけぼりとなった男子二人は、先程から店前で待機するばかりである。


「ごめん、王子。女子のショッピングに巻き込んで」


 呼び出しておいて申し訳ないと、千太郎が蓮季に向かって謝ると、蓮季は「全然」と軽やかに笑った。


 王子は人が良過ぎるな、と何となく思っていると、店の中から成瀬と深雪の楽し気な笑い声が聞こえてきた。


 あれは完全に今日の目的を忘れているな、と千太郎は呆れた様に苦笑を漏らした。


 なんとなく店内の様子を眺める千太郎に、蓮季が声をかけてくる。


「双葉君は、いつも二人と一緒なの?」

「いつもってわけじゃないけど」


 千太郎は即答しながら、店内で商品を物色する成瀬を見つめた。


 高校に入って深雪と知り合うまでは、成瀬が友人とどこかへ出かけるということはほとんどなかった。


 その代わりにいつも連れ出されのが千太郎なのだが、それはまあ、今もあまり変わってはいない。


 深雪と友達になってから、随分と変わったなと一人でつらつら考えていた千太郎に、蓮季がいきなり爆弾を投げてきた。


「ああ、いつも一緒なのは二人共じゃなくて、成瀬さんとかな?」

「・・・・・」


 蓮季の言葉に、千太郎は珍しく間の抜けた顔をして、彼の方に視線を向けた。


 視界に映る蓮季は、全てを見透かした仏の微笑みを浮かべている。


 呆然とその横顔を見つめていると、店内から成瀬の呼ぶ声がした。


「千太郎! あの高いとこにあるの取ってよー」


 陳列棚の上の方を指さしながら、成瀬が声を上げている。


 都合の良い時ばかり呼びやがって、と思わないでもないが、なんだかんだと放っておくことができないのは、惚れた側の弱みか。


 隣では蓮季が、楽しそうに「ほら」と言って千太郎を急かした。


「呼んでるよ? “千太郎”君」


 それまではただ美しいと思っていた王子の微笑みが、今こうして見てみると”美しいだけ”ではないことがよくわかった。


「・・・・結構、いい性格してんのな、“蓮季”」


 千太郎に恨めし気に見つめられた蓮季が、楽しそうに微笑む。


 仏の顔をして、案外油断ならない相手だと思いながら、千太郎は成瀬の元へと歩き出した。


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