プレゼント選別隊、結成
日路の誕生日を、成瀬の家で祝うことが決まり、深雪は休日を利用して日路への誕生日プレゼントを買いにデパートへ訪れていた。
勿論、そんな大事な買い物を一人でできる筈もなく、成瀬と双葉に泣きついて二人にも付いて来てもらえるようにした。
美男美女の二人と出掛けるというのは、かなり気を遣わなければならない。
朝からクローゼットをひっかきまわし、二人と並んでも恥ずかしくないコーデを考える。
考え過ぎて、あっという間に家を出なければならない時間になってしまったので、結局カーキのパーカーに黒のスキニーという、着慣れた格好で家を出発した。
待ち合わせ場所である、デパートの入り口付近のカフェに入ると、既に成瀬と双葉が先に着いていた。
席に座って優雅にカフェラテを飲んでいた、テラコッタ色のオールインワン姿の成瀬が深雪に気が付き、こちらに向かって手を挙げてくる。
「深雪、こっちよ」
「お待たせー」
深雪が二人の元まで駆け寄る。すると、成瀬の向かいに座っていた千太郎が、ちらりと左手首につけていたメタリックな腕時計を見た。
「まだ十分前。 俺らが来るの早すぎたんじゃん?」
グレーのジャケットを羽織った千太郎が、眠たそうに大きな欠伸を漏らす。
会う前からわかっていたことだが、店内においてこの幼馴染コンビは、非常に目立っていた。
端麗な容姿は勿論目を惹くし、身に付けるものも一級品で、ここだけ世界線が違うような気までしてしまう。
深雪が人知れず居心地の悪さを感じていると、眠そうにする千太郎に成瀬が眉を顰めた。
「だって、本屋に寄りたいって言うから」
成瀬の台詞を聞いて、深雪は意外そうに眼を丸くした。
「双葉君、本屋行きたかったの?」
「いや、全然」
「?」
千太郎の返答に、すっかり状況が掴めずに、今度は深雪が眉を顰めた。
二人の会話にいまいち要領を得ないでいる深雪を他所に、成瀬が手にしていたカップをかちゃりと皿の上に置いて「さあ」と話を切り替える。
「そろそろ行きましょうか?」
「あ、うん。 そうだね」
今日の目的である日路の誕生日プレゼント探しを達成するため、深雪は意気込んで歩き出した。
しかし、二歩ほど歩いたところで成瀬に呼び止められる。
「あ、待って待って深雪」
「え?」
出鼻をくじかれた深雪は、つんのめりながらも立ち止まって成瀬を振り返った。
そろそろ行こうと言い出したのは成瀬であるというのに、当の彼女は未だ席に座ったままだ。
全く意図が読めずに、深雪が困惑していると、成瀬は口の片端をにやりと上げた。
「今日はね、スペシャルゲストを呼んであるのよ」
「ゲスト?」
てっきり、今日は三人での買い物だと思っていたのだが、頼来でも呼んだのだろうかと深雪はちらりと考えて、すぐにその可能性を却下した。
頼来だとしたら、成瀬はきっと“スペシャルゲスト”なんて呼ばない。
そこはかとなく失礼なことを思いながら、深雪は更に思考を巡らせたが、遂に思い当たる人物はいなかった。
深雪が一人で困惑していると、千太郎が「あっ」と小さく声を上げた。
「来たよ」
深雪の後ろに向かって、千太郎がゆっくりと手を振るので、深雪は咄嗟に振り向いた。
そして、そこにいた人物に驚愕した。
「おはよ、立花さん」
「蓮季さん!?」
心地よい低音と、眩しいまでの秀麗な姿に、深雪はその名を呼びながら立ち眩みを覚えた。
秋らしいオフホワイトのカーディガンに、紺色のシャツを合わせたコーディネートは、蓮季の中性的な顔立ちをよく引き立たせている。
深雪は驚きに高まった鼓動を落ち着かせながら、上ずった声を発した。
「ど、どうされたんですか?」
「だから言ったでしょ、呼んだのよ」
深雪の問いかけに答えたのは、得意気な顔をした成瀬である。
「な、何で?」
「大神先輩に何あげたら良いかなんて、私と千太郎だってわからないもの。 その点、王子なら適任じゃない?」
「そうかもしれないけど・・・・・」
大胆過ぎる、と深雪は顔を引き攣らせながら、深雪は視線を蓮季に戻す。
美しい微笑を浮かべる蓮季と目が合い、ぐっと足に力が入った。
「日路、楽しみにしてると思うから。 俺ができることなら、手伝うよ」
蓮季の言葉に、深雪は緊張を高めた。
日路が、誕生会を楽しみにしているという。
恐らく、その倍近く自分の方が楽しみにしていると思ったが、深雪は今日のこの買い物は一世一代のものになると覚悟を決めた。
「あ、ありがとうございますっ」
気合を込めて、深々と蓮季にお辞儀をする。これには流石の蓮季も驚いて、遅れて楽しそうに笑った。
一連のやり取りを見届けた成瀬が、漸くその腰を上げた。
「そうと決まれば、さくっと買いに行きましょ」
成瀬の音頭を皮切りに、日路の誕プレ探しがスタートした。




