つまらない恋バナin修学旅行
お土産を見終えた日路、頼来、海織の三人は、グループの残り二人が合流するのを出口付近のベンチに座って待っていた。
手のひらサイズのイルカのぬいぐるみを手で弄ぶ頼来を、海織が横目で眺める。
「そんなものを買って、どうする気だ?」
「かわいいだろ? 海織にはやんない」
頼来が楽しそうにけらけらと笑うので、海織は面倒くさそうに首を横に振った。
「安心しろ。 来世に行ってもいらん」
「ひっど。 イルカに謝れよ!」
海織とのひと悶着の末、結局途中で相手にされなくなった頼来は、つまらなさそうに足と腕を組んで空を見上げた。
「あーあ、暇だなー。 暇だから、恋バナしようぜ」
「でた、何の脈絡もない頼来の恋バナ」
唐突な頼来の発言に、日路が呆れた声を出す。
海織は話の展開に付いていけない様で、そっとフェードアウトしようと気配を消した。
気乗りしない様子の日路に、頼来がむくれる。
「だって暇じゃん。 はい、日路の好きなタイプからどうぞ!」
「俺はパス」
頼来の勢いにも負けず、日路がばっさりと切り捨てると、頼来は早々に話の矛先を変えて海織の方に向いた。
「海織は? 海織の好きなタイプー」
「は?」
せっかく影を消していたはずが、話を振られてしまった海織は怪訝な顔で頼来を見返す。
「そんなことを聞いて、何になるんだ?」
「暇つぶし」
「頼来お前・・・・・」
頼来の発言に、海織から鉄槌が下るのではないかと日路は身構えたが、それより先に頼来が喚く。
「いいじゃん! 暇な時こそ恋バナっしょ!」
子供か、と胸中でつっこんで溜息を吐くと、同じタイミングで海織も息を吐いていた。どうやら、諦めの域に達したらしい。
「で、どんな奴が良いんだよ。 やっぱ、自分より強い男?」
「ふむ・・・・・」
頼来の雑なふりに、海織は案外真剣に考えている様で、顎にそっと右手を当てた。
少し間を空けた後、「そうだな」と話し始める。
「強いのはまあ、いいが・・・・・だが、自分より強いのは癪だな」
「癪って」
頼来が小さくつっこんだが、海織は特に気にする様子もない。
色々考えた結果、海織は最終的な好きなタイプを教えてくれた。
「私よりは若干劣るが、そこそこに手ごたえのある男かな」
「え、俺って好きなタイプ聞いてたよね? これ、何の話?」
「だから、お前は聞く相手を間違ってるんだよ」
いい笑顔で語る海織は、何故か恋愛からはかけ離れている様で、頼来が困惑して日路を振り向く。
日路は日路で、呆れて目も合わせてくれない。頼来は強引に日路の肩を引いた。
「じゃあやっぱ、日路しかいないじゃん。 恋バナしよ!」
「しません」
一ミリも妥協してくれる雰囲気の無い日路の肩を、頼来が子供の様に揺さぶる。
めんどうくさいな、と思っていると、ポケットに入れたスマホがメッセージの着信に震えた。
「お、野崎から?」
日路がスマホを取り出すと、頼来が漸く揺する手を止め、画面を後ろから覗き込んでくる。
日路もメッセージの送り主は、現在別行動している残りの班員からのものかと思いながら通知を確認し、当てが外れたことに少しだけ目を大きくした。
「蓮季からだった」
「なんだ、お兄ちゃんが恋しいって?」
くだらないことをほざく頼来は無視して、日路は蓮季からのメッセージを確認した。
メッセージには「友達記念」と謎の四文字があり、続いて一枚の写真も送られてきていた。タップして大きく表示すると、後ろで頼来が「おおっ」と声を上げた。
「あいつら、楽しそうにやってるみたいだな」
「そうだな」
頼来の言葉に、日路は笑みを浮かべながら頷く。
写真は学校帰りと思われるもので、蓮季と深雪、成瀬、千太郎ともう一人、何度か見かけたことのある蓮季の学校の友人が笑顔で映っていた。
どういった経緯でこのメンバーが揃ったかはわからないが、平和な日常の一枚に、日路はほっとした。
頼来はというと、隣で驚愕の表情を浮かべていた。
「成瀬が笑顔で可愛いだと!? これ、加工してるだろ!」
「また、そんなこと言ってると成瀬に怒られるぞ」
苦笑しながら、日路は今一度写真に目を向ける。
写真の左端で、遠慮がちに屈みながら笑う深雪の姿に、彼女らしさを感じて表情が緩んだ。
そして表情が緩んだことに驚いて、更にまじまじと写真を見つめてみる。
「大神。 二人が来たぞ」
写真と睨めっこしていると、海織から声をかけられた。
振り向けば、彼女が指さす方向に、残りの班員二人が笑顔でこちらに手を振って来ていた。
「うん。 今行くよ」
日路はスマホをポケットに仕舞いながら立ち上がり、頼来と海織の三人で並んで歩き出す。
今頃、彼女は何をしているだろうと、ふと考えてみた。




