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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
52/109

王子の友人は天才です

 成瀬を先頭に、五人はカフェに入った。


 中は空いてはいなかったが、丁度席が空いたようで、すんなりと座ることができた。


 全員ドリンクバーで飲み物を調達してから、メニュー表を手にする。


「わー、本当にケーキの種類いっぱいだあ・・・・・」


 並ぶケーキの名前と写真に深雪が嬉しそうに顔を綻ばせる。


 その様子を見た蓮季が、柔らかく微笑んだ。


「立花さんは、ケーキ好きなの?」

「甘いものが好きなんです・・・・・じゃなくて、好きなので? ええっと・・・・・」


 無理に敬語を抜こうとして、深雪が言葉を詰まらせていると、蓮季の隣に座っていた黒田が、メニューに目を通しながらにこにこと笑顔を浮かべた。


「僕も好き。 頭使うと、甘いもの食べたくなるよね」


 さっと話を拾ってくれたのは、黒田としては多分無意識なのだろう。


 白南生と同じ次元で頭を使ったことはないので、頷くにはおこがましかったが、深雪の緊張は多少落ち着いた。


「そういえば、三人とも部活は? お休み?」

「休みだよ」


 それぞれが注文を終え、会話が再開する。


 蓮季の問いに、千太郎が短く答え、逆に質問を返した。


「王子とバメ君は、部活入ってるの?」

「うん。 僕らも今日は、久々にお休み」

「何部?」


 興味津々に成瀬が尋ねると、蓮季はレモンティーを一口飲んでから教えてくれた。


「言語学部。 外国語講座みたいな感じだよ」

「部活までエリートなのね」


 感心する成瀬の隣で、千太郎が更に質問を重ねる。


「王子って、何か国語喋れるの?」

「俺は未だ、全然喋れないよ。 英語と、中国語がちょっとだけ」

「充分だろ」


 謙遜する蓮季に、千太郎が苦く笑いながらアイスコーヒーを口にする。


 難関校に通うだけあって、蓮季のスキルは相当なものらしい。


「バメちゃんはそれに加えて、ロシア語とドイツ語もぺらぺらだよ」

「あっはは。 褒めんなってー」


 黒田が照れくさそうに、癖の付いた髪を掻きまわす。


 蓮季の上をいく天才児に、深雪たちは言葉もなく驚愕した。


「やっぱ、白南てすごいわ」

「会話を聞いてるだけで、頭良くなれた気がするよな」

「ははは・・・・・」


 凸凹コンビのやりとりに苦笑しつつ、深雪はオレンジジュースを口にした。


 そのうちに頼んだケーキが運ばれきて、一時それぞれが目の前のケーキに心奪われる。


 深雪は悩んだ末に、シンプルなチーズケーキをセレクトしていた。


 隣の成瀬はイチゴのたっぷり乗ったショートケーキで、二人で一口ずつ交換をした。


 美味しいケーキに舌鼓を打っていると、成瀬が話の続きをし始めた。


「エリートに勉強教えてもらえば、ちょっとは頭良くなるかしら」

「うーん。 僕は向いてないかもぉ」


 成瀬の言葉に、黒田は意外にも首を振った。隣に座る蓮季が、柔らかい笑みを浮かべてフォローを入れる。


「バメちゃん、天才肌だから。 人に教えるのは苦手なんだよね」


 フォローを受けた黒田が、何故か元気いっぱいにガッツポーズをつくった。


「勉強は感覚だかんな!」

「すげぇ。 頭良いはずなのに、馬鹿っぽく見える」

「勉強を感覚論で語る人、初めて見たかもしれないわ」

「ふ、二人とも・・・・・」


 容赦の無い凸凹コンビを、深雪が遠慮がちに諫める。


 しかし、二人の言う通り、黒田はエリート然とはしておらず、どこか庶民感が漂う。


 特徴的な猫目は可愛らしく、癖の多い髪型は直してあげたくなる様なもどかしささえあった。


 蓮季と並ぶと兄弟の様で微笑ましいと、深雪が胸中で思っていると、黒田が何かを思い出した様にはっとした表情を浮かべた。


「勉強教えてもらうならさ、蓮季のお兄ちゃんがいいんじゃん?」

「大神先輩?」


 ここで急にきた日路の話題に、深雪は俊敏な反応を示した。


 その反応に少しだけ驚いた顔をしつつ、黒田が更に続ける。


「ああ、そうじゃん。 蓮季のお兄ちゃんも翼蘭じゃん。 じゃあ、やっぱり教えてもらった方がいいって」


 モンブランの山を崩しながら、黒田がにこにこと語る。


 黒田も日路と知り合いなのだろうか。


「前に蓮季の家に行った時、蓮季のお兄ちゃんが、弟君に勉強教えているところを横で聞いてたんだけど、すっごいわかりやすかった」


 名門校に通う黒田が言うくらいなので、嘘はないのだろう。


 深雪は、いつかの勉強会を思い出す。黒田の言う通り、日路の教え方はとても分かりやすく、実際テストの点数にも反映された。


 白南生が認める程の人物に勉強を見てもらったことに、今更ながら感動を覚えた。


「私たちも教えてもらったことあるわね。 確かに、教えるの上手だった。 ねえ、深雪?」

「うん。 すっごくわかりやすかった」


 成瀬に話を振られ、深雪は間髪入れずに頷いた。


 自分で思っていたよりも力の入った肯定になってしまい、一同の視線を集めてしまう。


「日路に言っとくね。 深雪ちゃんがべた褒めしてたって」

「きょ、恐縮です・・・・・」

「・・・・・」


 蓮季に微笑まれ、深雪は肩を小さくして頷く。


 何故か黒田に凝視されていたが、頷いたまま俯いてしまった深雪が気が付くことはなかった。


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