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そっと恋して、ずっと好き  作者: 朱ウ
そっと恋する一年生編
50/109

思い出をください

 秋も深まり、中間テストを乗り越えた頃。


「明日から二年生は修学旅行だね」

「沖縄でしょ?」


 いつもの如く、深雪と成瀬と千太郎の三人は、揃って部活へと向かっていた。


 翼蘭学園では、二年生のこの時期に修学旅行がある。行先はいくつかの候補の中から、毎年生徒たちの希望の多い場所に決定する。


 今年は沖縄らしい。


「いいなあ、沖縄。 行ったことないなあ」


 深雪が一人羨ましがっていると、成瀬が興味なさそうに「ふーん」と言ってから、ある提案をしてきた。


「お土産頼めば?」

「え、誰に?」


 真顔で聞き返す深雪に、成瀬の目が一瞬でギラリと光る。


「大神先輩に、決まってんでしょうが」

「む、無理だよお・・・・・」


 成瀬に凄まれた深雪は、控えめに弱音を吐く。


 日路にお土産を頼む勇気も度胸も、深雪にはない。そんなことわかっているだろうに、成瀬はいつも無理難題をさらりと口にしてくる。


 ついでに、愚痴まで始まるのがワンセットである。


「頼来なんて、頼んでもないのに、シーサー買って来るとかほざいてたわよ。 ねえ、千太郎」

「全力で止めてもらう様に、大神先輩に頼んだよ」


 ドライな性格同士の成瀬と千太郎は、苦笑いが漏れるほど良いコンビだ。


 暫く成瀬の愚痴を聞いていると、部活動に使用している教室まで辿り着いた。


 入室しようとしたところで、聞き慣れた声がかかってくる。


「おー、いたいた。 入り待ち成功!」


 テンションの高い声は、案の定頼来のもの。その隣には、いつもの如く笑顔の日路が立っていた。


「大神先輩っ」

「深雪ちゃん、俺もいるよ・・・・・」


 深雪が日路の名前だけを呼ぶと、頼来がわざとらしく口を尖らせた。そんな仕草が気に障ったのか、成瀬が舌打ち交じりに口を開ける。


「何の用? 入り待ちとかキモイんだけど」

「ご、ごめん・・・・・」


 頼来と一緒に“入り待ち”していた日路が、その笑顔を引きつらせる。一方で、言葉を向けられた筈の頼来には一ミリも響いていない。


 その様子に機嫌を悪くする成瀬の気を感じたのか、千太郎がテンション低く割って入ってくる。


「何か用でしたか?」

「はい、よくぞ聞いてくれたな!」


 切り替えの早い頼来が、こほんと一つ咳払いをしてから決め顔をつくった。


「お土産何が良いかヒアリング調査にきたんだよっ」


 頼来の言葉に、そんなことを聞きに来たのかと、成瀬と千太郎から表情が抜ける。


 凸凹コンビの反応に、頼来はもう一度口を尖らせた。


「だってお前ら、全然何が良いか言わねーんだもん。 シーサーの置物買って来るぞ!」

「そういうの、押しつけがましいって言うんだけど、知ってた?」


 どこまでも冷静に白けた目を向けてくる成瀬。頼来は諦めに近いため息を吐いた。


「ほんっと、お前らは冷めてんな・・・・・深雪ちゃんは何が良い?」

「ええっと・・・・・」


 急に話を振られ、深雪は急いで脳みそを回転させた。



 沖縄のお土産って何だろう?ちんすこう、紅芋タルト、サーターアンダギー・・・・・食べ物しか思い浮かばない!



 いろいろ思い浮かべた結果、深雪は遠慮がちにリクエストを口にする。


「あの、じゃあ、写真が良いです」

「「写真?」」


 思いがけない回答に、二年生二人が揃って反芻した。


 深雪は慌てて言葉を付け加える。


「沖縄行ったことないので、海とか景色の写真を・・・・・」


 自分としては最善の答えだったのだが、その場がすっかり静まり返ってしまったことに背筋が冷えた。


「・・・・・ダメですかね?」


 恐る恐る、日路と頼来の顔を下から窺う。


 少しだけ間を置いた後、頼来が器用に瞳を潤ませた。


「全然だめじゃない! 深雪ちゃんのピュアさにフリーズしちゃったよー」

「頼来まじきもいわ」

「成瀬に分けてあげて、その純粋さ」


 頼来と成瀬のお馴染みの抗争が始まり、例によって挟まれた千太郎は現実逃避して意識を飛ばしていた。


 その様子を笑いながら眺めていると、ふと、日路と視線が交わる。


 どきりとして、目線を外すこともできないでいると、日路から深い笑みが返ってきた。


「写真、沢山撮ってくるからな」

「はいっ・・・・・!」


 日路の撮った写真。


 彼の思い出をお土産にしてもらえる幸せに、深雪は顔を綻ばせた。


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