思い出をください
秋も深まり、中間テストを乗り越えた頃。
「明日から二年生は修学旅行だね」
「沖縄でしょ?」
いつもの如く、深雪と成瀬と千太郎の三人は、揃って部活へと向かっていた。
翼蘭学園では、二年生のこの時期に修学旅行がある。行先はいくつかの候補の中から、毎年生徒たちの希望の多い場所に決定する。
今年は沖縄らしい。
「いいなあ、沖縄。 行ったことないなあ」
深雪が一人羨ましがっていると、成瀬が興味なさそうに「ふーん」と言ってから、ある提案をしてきた。
「お土産頼めば?」
「え、誰に?」
真顔で聞き返す深雪に、成瀬の目が一瞬でギラリと光る。
「大神先輩に、決まってんでしょうが」
「む、無理だよお・・・・・」
成瀬に凄まれた深雪は、控えめに弱音を吐く。
日路にお土産を頼む勇気も度胸も、深雪にはない。そんなことわかっているだろうに、成瀬はいつも無理難題をさらりと口にしてくる。
ついでに、愚痴まで始まるのがワンセットである。
「頼来なんて、頼んでもないのに、シーサー買って来るとかほざいてたわよ。 ねえ、千太郎」
「全力で止めてもらう様に、大神先輩に頼んだよ」
ドライな性格同士の成瀬と千太郎は、苦笑いが漏れるほど良いコンビだ。
暫く成瀬の愚痴を聞いていると、部活動に使用している教室まで辿り着いた。
入室しようとしたところで、聞き慣れた声がかかってくる。
「おー、いたいた。 入り待ち成功!」
テンションの高い声は、案の定頼来のもの。その隣には、いつもの如く笑顔の日路が立っていた。
「大神先輩っ」
「深雪ちゃん、俺もいるよ・・・・・」
深雪が日路の名前だけを呼ぶと、頼来がわざとらしく口を尖らせた。そんな仕草が気に障ったのか、成瀬が舌打ち交じりに口を開ける。
「何の用? 入り待ちとかキモイんだけど」
「ご、ごめん・・・・・」
頼来と一緒に“入り待ち”していた日路が、その笑顔を引きつらせる。一方で、言葉を向けられた筈の頼来には一ミリも響いていない。
その様子に機嫌を悪くする成瀬の気を感じたのか、千太郎がテンション低く割って入ってくる。
「何か用でしたか?」
「はい、よくぞ聞いてくれたな!」
切り替えの早い頼来が、こほんと一つ咳払いをしてから決め顔をつくった。
「お土産何が良いかヒアリング調査にきたんだよっ」
頼来の言葉に、そんなことを聞きに来たのかと、成瀬と千太郎から表情が抜ける。
凸凹コンビの反応に、頼来はもう一度口を尖らせた。
「だってお前ら、全然何が良いか言わねーんだもん。 シーサーの置物買って来るぞ!」
「そういうの、押しつけがましいって言うんだけど、知ってた?」
どこまでも冷静に白けた目を向けてくる成瀬。頼来は諦めに近いため息を吐いた。
「ほんっと、お前らは冷めてんな・・・・・深雪ちゃんは何が良い?」
「ええっと・・・・・」
急に話を振られ、深雪は急いで脳みそを回転させた。
沖縄のお土産って何だろう?ちんすこう、紅芋タルト、サーターアンダギー・・・・・食べ物しか思い浮かばない!
いろいろ思い浮かべた結果、深雪は遠慮がちにリクエストを口にする。
「あの、じゃあ、写真が良いです」
「「写真?」」
思いがけない回答に、二年生二人が揃って反芻した。
深雪は慌てて言葉を付け加える。
「沖縄行ったことないので、海とか景色の写真を・・・・・」
自分としては最善の答えだったのだが、その場がすっかり静まり返ってしまったことに背筋が冷えた。
「・・・・・ダメですかね?」
恐る恐る、日路と頼来の顔を下から窺う。
少しだけ間を置いた後、頼来が器用に瞳を潤ませた。
「全然だめじゃない! 深雪ちゃんのピュアさにフリーズしちゃったよー」
「頼来まじきもいわ」
「成瀬に分けてあげて、その純粋さ」
頼来と成瀬のお馴染みの抗争が始まり、例によって挟まれた千太郎は現実逃避して意識を飛ばしていた。
その様子を笑いながら眺めていると、ふと、日路と視線が交わる。
どきりとして、目線を外すこともできないでいると、日路から深い笑みが返ってきた。
「写真、沢山撮ってくるからな」
「はいっ・・・・・!」
日路の撮った写真。
彼の思い出をお土産にしてもらえる幸せに、深雪は顔を綻ばせた。




